Episode.3 この学園に『特殊部』という存在があったら

 何かがおかしい。

 いつもの俺ならこういう面倒事には関わりたくない人だ。高校入学以来、人と関わることを極力避けてきたから、懐かしい気分だ。そして、今この状況で、俺は楽しいと思っている。

 異常だ。



 ○○○

 


「お、そうだそうだ、隼斗ぉ。夜空ぁ。一つ言い忘れてたわぁ」

 アリオスは頭をがしがしと荒く掻きながらそう前振りすると、

「俺たち特待生は授業は一時間だけ出ればいいんだぁ。それ以外は自由になってるんだぁ。だから、ここにいる奴らは同じ時間の授業に出てそれ以外の時間をこの部室で過ごしているんだぁ」 

「は?部室?ここが?お世辞でも部室だなんて言えねーよ」 

「確かにそうね。私はてっきり、物置に隠れながら過ごしているのだと思ってたわ」

「なっ・・・・・・」

「おいおいぃー!それは言い過ぎだろぉ!俺ら悲しくなるぞぉ!?」

 俺が言葉を発しようとしたが、アリオスの悲しげな叫びに俺は思わず口を噤んでしまった。

 俺の言いたかったこと。単に夜空と同意見だと言いたかっただけだ。

「とりあえず、ここは部室だぁ」

「ちなみに聞くけど、この部の名前はなんて言うんだ?」

「あーそういえば名前決めてなかったなぁ。ローレル、なんかいい名前思いつかねーかぁ?」

「んーそうやなー、特殊部、とかは?」

「おい、どこの国の特殊部隊だよ」

「え?とくしゅぶたい?んー、よく分からへんけど、強そうやな!」

「よっしゃ!ローレルが考えたことだぁ!特殊部で決まりだなぁ!」

「ちょ、ちょっと!勝手に決めないでよ!」

 割って入ってきたのはエルフ族三人組のリーダーっぽいリリだった。あのチャラいやつだ。

「まーまー、リリ。私もなんとなく響きは好きですから特殊部には賛成ですよ」

 相変わらずレナは礼儀正しい。幼なじみにも敬語とは珍しい。

「そうだよー。レナの言うとおり、私も特殊部には賛成するよー」

 ウミも相変わらずマイページな口調だ。聞いてるこっちもおっとりしてきてしまう。

「よし、それじゃあ特殊部で決まりだなぁ!」

「「待ちなさい!」」

 二つの声が重なって聞こえた。声の主の方を見ると、二人とも見つめ合っている。正しくは睨み合っている。

「「うっ・・・・・・」」

 同じことを言っている。仲がよろしいようで何よりだ。

「わ、私の意見を聞かないで勝手に決めるなんてありえないから!」

「さ、サリアのことなんか気にしないで・・・・・・ちゃ、ちゃんと話し合って決めた方がいいと思うよ!」

「何をー?」

 再び火花が飛び散る。暑苦しいのでやめてほしい。

「よっしゃ、何回目かわからんが特殊部で決まりぃ!ちょっと俺は先生に言ってくるからここで待っててなぁ」

「ちょっと!私の意見も聞きなさーい!」

 サリアが悲鳴を上げていた。涙ながらに懇願していたが、既にアリオスは部室を出た後で、もう遅い。

 サリアの足を止めていたシャイターンは一仕事終えたかのようにため息をついていた。当然、サリアが食ってかからない訳が無い。

 


 ○○○

 

 

 アリオスが先生のところに行き、俺たちはこの部室に残されていた。アリオスがいなくなったことで、俺は今ハーレム状態だ。

「隼斗、だったかしら?口元が気持ち悪いわよ。あと目つきも」

「なっ、何のことかなー?てか、呼び捨てとか、おまえ何歳なんですか?」

「いろいろと混ざってるし・・・・・・まーいいわ。私は15歳よ。今年で16歳」

「まじか!?俺と同じじゃねーか!」

「そ。それならいくら残酷な事言っても大丈夫ね」

「いやいやいや、俺も一応、人間よ?傷つくことだってあるんだよ?」

「一応と自分で言ってしまってる辺り、自分が本当に人間か自信がないのね。──けど」

「あ?」

「いや、何でもないわ。気にしないで」

 気にしないで。そう言ってる割には悲しい表情をしている。だけど、本人が聞いて欲しくないのなら聞かないに越したことはない。ぼっちになって何も学んでなかったなんてことは無い。むしろ数え切れないほどのことを学んできた。

 そんなことを考えていたら横目でエルフ三人組の視線がこちらに向いていることに気がついた。俺はそちらを向くと、

「どうかしたか?」

 一瞬、三人組は面食らったような表情をしたが、すぐに平静を装うと、

「別になんでもないですよ。ただ、仲がよろしいなと思いまして」

「は?あれで仲がいいって言えるの?」

「てかさー、あんたなんで私たちにため口なわけ?私たちの歳知らないで」

「私たちは15歳だよー」

「ちょ、ウミ!なんで言っちゃうの!」

「だってー、隼斗がとんでもない顔してるんだもーん」

 そんなに酷い顔をしていたのかと不安になる。

「隼斗、あなた誰か殺す予定とかあるのかしら?」

「そこまででしたか、すみませんでした」

 素直に謝り、再びエルフ三人組に問う。

「じゃあ、次の質問。どうしてレナは敬語使ってるんだ?幼なじみなんだろ?おまえら」

「そうですねー・・・・・・癖、ですかね」

「そうかー・・・・・・」

 それなら仕方ないか。そう決めつけてさらに話題を振ろうとしたところで制止が入った。

「ちょっと、私を置いて何を盛り上がって・・・・・・」

「ヴァンパイア族のサリア。サリアは全ての上に君臨する存在だと自分で思っている。我ながら残念な性格だと思うよ」

「なっ、なにを・・・・・・!」

「そーれーにー、悪魔族のシャイターンはヴァンパイア族は悪魔族にとって下等動物だと思っている。二人はヴァンパイア族と悪魔族、どっちが上の存在か証明するために戦いをやっている。しかも口喧嘩もする。これほど仲のいい存在は他にはいないと思ってるよ?」

 俺はサリアの今までの短時間で得た情報から形成された人物を一番相応しい言葉で表すと、サリアとシャイターンは頬を紅らめながらぷいっとお互い反対の方向を向いてしまった。

「俺にも、こんな関係になれる誰かがいたらいいのにな・・・・・・」

 独り言でそう呟いた。


 結局、異世界に来ても、あの忌まわしき世界と同じなのだ。少しは変わってるんじゃないかと期待した俺が馬鹿に思える。グループはどの世界にも存在し、それにならえでグループがどんどんできる。それは、部室の片隅で寝ているローレルにも言えることだ。彼女には『兄』という存在がある。そしてその二人は離したくても離せない、強固な関係なのだ。

 別にそこまでいかなくてもいい。ただ、『友達』と呼べる存在が欲しいのだ。

 俺はぼっちになっても何一つ弱音を吐いたことがない。心の奥にしまいこめばいいだけの簡単な問題なのだから。

 だが、その袋にも限界はある。

 その限界は、まもなく訪れてしまうような気がした。



 ○○○



「待たせたなぁ!」

「お前は軍人か」

「あ?なんのことかわからんが、とりあえず先生にはオッケー貰っといたわぁ!」 

そう言いながらアリオスは『とくしゅぶ』と書かれた紙を披露する。

 みんな感嘆していた。 ・・・・・・これが青春って言うものなのか。

「それで、これはどこに貼るのー?」

 ウミが問う。

「あー、えーとな、これは出入口に貼り付けとけとのことだったからそこに貼り付けてくれや。シャイ、頼むわぁ」

「わ、わかったわ・・・・・・」

そう言うとシャイターンは外に出ていく。扉が閉まると、しばらくの間があった。そして、

「なっ、眩しい!」

「おーおー、何回見ても悪魔族の使う魔法は派手だなぁ!」

「これ、魔法なのかよ!」

 俺は光の明るさに我慢できず、腕で目元を覆った。

 しばらくして、腕を恐る恐る下ろすと同時に、シャイターンが戻ってきた。

「は、はい、貼り付けておいたから・・・・・・。こ、これでいいんでしょ?」

「おう!ありがとなぁ!」

「う、うん・・・・・・」 

「よし、話を変えるぞー。次の時間はみんな出席ということでいいよなぁ?」

「異議なーし」といった感じに、俺と夜空以外は手をパーにして挙げていた。

「よっしゃ、決まりだなぁ!二人は初めての授業だなぁ!楽しんでこいよぉ!」

「お、おう」

「わかったわ」

 初めての授業。なんだか小学生の時を思い出す。初めての登校。初めての黒板。初めての勉強。ほぼ全てが初めてといっていい状態だった。それが今、再び訪れている。複雑な気持ちだ。

 そのモヤモヤに頭を掻いていると、キーンコーンカーンコーンと鐘の音が聞こえてきた。異世界でもあの鳴り方は健在のようだ。

 とりあえず、授業へと向かう。

 てか、俺の教室ってどこなのだ。

 顔に出ていたのだろうか、夜空は心底呆れた様子で、

「呆れたわ。ついてきなさい」

「・・・・・・ごめんなさい」

 口に出されて思っていることを言われた。



 ○○○



 教室と思わしき場所に夜空の誘導で、夜空のおかげで、辿り着けた。丁寧に席の位置まで教えてくれた。

「ありがとな。それじゃ、また後で」

「何を言っているの?私の教室もここよ」

 そう言うと、俺の隣の席に座る。

「よりによって、なんで俺の隣の席なんだよ」

「よく教室を見なさい。この教室は隼斗と私の二人分の席しかないのよ」

「なっ、本当だ。なんでなんだ?」

「アリオスに聞いた話だけど、この学園は種族ごとに教室が違うみたいよ。それと、この階は私たち亜人族の階よ。そして亜人族は私たち二人しかいないらしいわ」

「待て、ちょっと待て。しばらく待て」

「訳がわからないわ・・・・・・」

「亜人族が俺たち二人しかいないってどういうことだ?」

「隼斗、あなた意地の悪い人ね。私も今日がこの学園の初登校日なのだけれど。さすがの私も、アリオスにそこまで踏み込んで聞いていないわ。初対面の人にしつこく聞いても面倒くさがられるだけだし」

「おー、おまえもよくわかってるじゃねーか」

「暁夜空よ。おまえなんて名前をつけられた記憶はないわ。そ、その・・・・・・夜空、でいいわよ」

「あ?なんだって?」

「だ、だから!呼び方、夜空でいいわよ・・・・・・」

「お、おう。わかった。よ、夜空」

 名前で呼ぶと、夜空の耳はとてつもなく赤くなっていた。夜空はそれを隠すようにしながら反対の方向を向いてしまった。恐らく、頬も紅くなっているのだろう。

「そ、そんなことより、授業ってどんなのするんだろうな」

 俺は恥ずかしさを誤魔化すために話題を変えた。

「そ、そうね。そのことについてもアリオスから聞いていないからわからないわ」

 すると、再びキーンコーンカーンコーンという鐘が鳴った。鳴り終わったと同時に扉がガラッと開き、一人の人物。否、動物が入ってくる。

「あら、この時間はいるのね」

 見るからにネズミだ。でも、そこらにいる小さいネズミというより、巨大なネズミだ。毛は丁寧に整えられている。フワフワしていて、もふもふしてみたいと思う。

 語尾がのねだったので、恐らく女性だろう。

「私が亜人族担当のマウスでーす」

「そのまんまじゃねーかよ・・・・・・」

「あら、私と同じことを考えているなんて、隼斗も少しは成長したわね」

「いや、さっきも同じ考えだったと記憶しているのですがそれは?」

「あら?何のことかしら?私は記憶していないわ。隼斗はもしかして、人工知能か何かなのかしら?他の見ず知らずの人物に変なことを吹き込まれてかわいそうね」

「もし人工知能だとしたらこの世の破滅の仕方を考えるね。そして見ず知らずの人からこっそり学ぶね。そうすれば面倒ないざこざに巻き込まれずに済むからな」

「ほらほら、痴話喧嘩はその変までにしておきなさいね」

「何が痴話ですか」

「何が痴話かしら」

「まったく、君たちは仲がいいようでいいわねー」

「よくありません」

「そんなことありませんわ」

「さて、授業を始めていきましょ!」

 遂に諦めたよこの人。否、動物。

 しかし、授業の内容には興味を持っていたのでどんな授業なのか胸を膨らませていた。それが表情に出ていたのか、マウス先生は不敵な笑みを浮かべると

「亜人族のみんなにはこれから他種族の母国語を学んでもらいます!」

「・・・・・・は?」

 英語は得意な俺だったが、果たして英語のように上手くいくのか?

「ではまず、この文字を『全て』暗記してもらいます!」

 それは地獄の始まりだった。

 早く授業が終わってほしい。そして早く安らぎが欲しい!



 ○○○



「よし、それじゃあ今日はここまで!解散!」

 どうやら先生も俺ら特待生は一時間しか授業に出ないと分かっているらしい。逆に俺らが授業に参加するまでこの教室に通わなくてはいけない。実にかわいそうだ。

「隼斗、早く部室へ行きましょ」

「あーそうだなー。行こ行こー」

 そう言い、俺ら二人は教室を後にする。傍から見ると、俺らって付き合ってる風に見えるのでは?いやいや、こんなやつと付き合うなんてごめんだな。・・・・・・本音では、ね。

「隼斗、また変なことを考えていない?顔が気持ち悪いわよ」

「おい、せめて目がとか顔のどこかのパーツにしてくれよ。俺の顔を全否定するなよ。泣くぞ」

「そうね、じゃあ、目と鼻と口が気持ち悪いわ」

「賞賛の言葉をありがとうな」

「もしかして、あなたってドM?」

「そんな訳ないだろ」

「じゃあ、なぜ今喜んだの?」

「さあな。俺も知らん」

「不思議な人ね・・・・・・」

 夜空は呆れた顔をしていたが、俺は特に気にせず、部室への道を急ぐ。

「ちょっと隼斗、早すぎるわよ。私に合わせなさい」

「へいへい」

 それにしても、なぜ俺は夜空と気軽に話せているのだろうか。そして夜空も俺に気軽に話しかけてくるのだろうか。

 考えれば考えるほど答えは遠くなっていく。考えなければ辿り着く答えっていうのも世の中にはたくさんある。多分、俺が今考えているのもそれの一つだ。

 そう思えると、馬鹿馬鹿しくなり、思考を停止した。考えるだけ無駄だ。

「そう言えば、この階は亜人族専用なんだろ?ちょっとどんなのあるか見ていかねーか?」

その問いに、

「そうね・・・・・・私も少し気になっていたから見ていきましょうか。アリオスにも後でそう言えば、問題ないと思うわ」

 夜空にも了承を得て、俺らは亜人族の階を見て回ることにした。

 そろそろお昼時なのか、腹が減ってきた。朝から何も食べていないので尚更だ。

 部室に戻ったらアリオスに言ってみよう。

 

 その後、亜人族の階を見て回ったが、現実世界の学校の特別教室と特に変わったところは無かった。ただ一つ驚いたのは、それぞれの階に体育館がそれぞれあることだ。校内マップに体育館はそれぞれの階にあります、と書かれていた。

 そろそろ空腹度が限界なので急いで部室に向かうことにした。

 急ぎたい気持ちでいっぱいだったが、夜空が待ちなさいとか早ずるわなどと言うので、仕方なく夜空と並んで歩いて向かった。



 ○○○



 部室に戻るとみんな揃って何かを食べていた。

「お、やっと戻ってきたかぁ!遅いぞぉ!」

「いやー悪い。ちょっと探索してた」 

「補足すると、私の提案ではなく、隼斗の提案で探索してたわ」

「おい、さらっと俺に罪を着せるなよ」

「事実でしょう?」

「うっ・・・・・・」

 実際、事実なので何も言い返せなかった。悔しさのあまり、地団駄踏んだ。

「まー理由はわかったからそれだけ教えてくれればいいわぁ。ほれ、おまえらも早く食え!」

「さ、さんきゅ」

「ありがとう」

 そう言い、俺らは弁当箱らしきものを受け取り、中を見た。驚いたことに、現実世界とさほど変わらない中身だった。質素な弁当だ。

 割り箸らしきものを割って手を合わせた。

「それじゃ、いただきまーす」

「いただきます」

 口に入れた途端、目からウロコ。見た目以上に美味かった。

「なっ・・・・・・、うめー!」

「確かに、これは美味しいわね」

「だろー?この弁当は学園一の料理人が作ってるからなぁ!美味くないわけがない!」

 なんだかアリオスが学園長みたいな言い方をしていたが、スルーした。

 それにしても、アリオス以外、黙々と食べていて不思議に思った。あの仲の良いエルフ三人組も黙って食べている。

「なー、なんでこんなに静かに食ってるんだ?」

 俺はアリオスに聞いたつもりだったが、返事をしたのは違うやつだった。

「あら、この学園の規則も知らないのかしら?これだから亜人族共は」

 呆れながら言われてしまった。言ったのはサリアだった。

「あら、そこのアホと一緒にしないでもらえるかしら。私はわかっているわよ」

 そこへさらに追い討ち。そろそろ精神が持ちそうにない。

「規則?」

 顔だけでそう問うとサリアはため息をついてから、

「あなたの胸ポケットに入ってると思うわよ」

「どれどれ・・・・・・なんだこれ?」

 サリアの言ってたとおり、胸ポケットには手帳らしきものが入ってた。恐らく、生徒手帳か何かだろう。

 その手帳に『規則』と書かれた項目があり、それの一つに、

『一つ、食事は静かにとること』

と書かれていた。わざわざこんなことまで記載されているのかと驚いてしまう。

「ま、まー規則ならわかった。静かに食べるよ」

 なるほど、だからさっきからリリが睨んでいたのか。俺が話していると恐ろしい目で彼女に見られていた。


 食事を終えると、各々は横になって寝るような体勢になった。

「これから何するの?」

「これも規則の一つ、昼寝だぁ。まーこれは俺ら特待生だけなんだけどなぁ」

「変なところまで待遇されてるのな。てか、規則に昼寝とかおかしいだろ!」

「まーまーそう怒るなって。おまえも早く寝ろぉ!」

「ちぇっ・・・・・・わかったよ」

 俺は適当に横になり、目を瞑った。

 しかし何故、規則に昼寝があるのだろうか。不思議に思っていたが、考えるだけ無駄だ。思考停止。

 果たして今日何回目の思考停止だろうか。考えるのは好きだが、これほど考えるのが面倒くさいと感じたのは初めてだ。

 やはり、今日の俺は何かおかしい。

 


 ○○○



 目が覚めると他のみんなは既に起きていた。

 一つ大きな伸びをしているとアリオスが話しかけてきた。

「やっと起きたかぁ!それじゃあ、さっさと帰るぞぉ!」

「は?寝たあとすぐに帰宅とか、寝る意味あるの?」

「規則だから仕方ないだろう?」

 よく見ると他のやつらは帰る準備をしていた。よく考えたら帰る準備とか何するの?見た感じ、帰るような雰囲気が出ていた、というのが正しいか。

「んじゃ、私たちはもう帰るねー!バイバーイ!」

「おう!じゃあなぁ!」

 エルフ三人組のリーダーっぽいリリは別れを告げると二人を従って出ていった。

「私も帰るねー。また明日ー」

 サリアはそう告げるとぼっちで帰っていった。

「わ、私も・・・・・・じゃあ」

 シャイターンも次いで出ていった。さては、二人で帰ったりでもするのか。

「それじゃあ、私も帰るわ。ところで隼斗。あなたって私と同じ寮でしょう?一緒に帰ってあげてもいいけれど・・・・・・」

 照れながら言われると勘違いしてしまいそうだ。

「あ、あーそうだな。てか、夜空って俺と同じ寮なのか?」

「そうよ」

「なんでわかるんだよ」

「だって、隣の部屋の扉を見たら隼斗の名前があったのだもの」

「へぇ・・・・・・ん?隣?」

「そうよ」

 壁をぶち壊そうかと悩んでしまう。そんなことをしたら犯罪だが、理性を保てなくなったらしてしまいそうで怖い。

「そ、それなら・・・・・・一緒に帰るか・・・・・・」

「そ、そうね・・・・・・」

 何やらアリオスがニヤニヤしているような気がしたが、気にしないようにした。

「そんじゃ、また明日な」

「おう!じゃあなぁ!ほら、ローレル。俺らも早く帰るぞぉ!」

 アリオスに別れを告げると俺と夜空は部室を後にした。去り際にローレルの寝顔を見た。まだ寝ていたのか。

 扉が完全に閉まる寸前にむにゃあという可愛い声が聞こえた。



 ○○○



 女子と一緒に帰るなんていつぶりだろう。小学生の時、まだ女子のことをなんとも思ってない時に隣の家の女子と一緒に帰ったのが最後だと思う。彼女は今までいたことがないのでさらに意識してしまう。

 しばらく二人の間には沈黙が流れていた。

 桜並木の綺麗な一本道。そこを二人並んで歩いている。傍から見れば付き合っているように見えるだろう。こんなのは今日で二回目だ。俺は何かに気づいた。これって・・・・・・

「夜空」

夜空の名前を口にしていた。

「何かしら?」

「あ、あの・・・・・・お、俺と・・・・・・つ、つきあ・・・・・・」

「ごめんなさい、それは論外」

 論外と言われるなんて思ってもいなかった。人生二回目の告白が呆気なく散った。

 ちなみに、一回目は小学生五年生の時にしたのだが、俺がさっきと同じような言葉で告白したら

「ふーん。それで?」

と来たものだ。俺は袖を濡らしながら走って家に帰って今度は枕を濡らした。

 だが、今回はちゃんと返事を貰えた。残酷な返事だったが、それだけで俺は嬉しかった。俺の存在を認めてくれていると、そう感じたからだ。

 夜空も拒否こそしたが、どこか嬉しそうだった。

 嬉しそうな理由はわからない。それを知ろうとも思わない。今はこの距離が気持ちいい。一層の事、これからもずっと、この距離を保っているのがいいのかもしれない。ならば、この距離を保って過ごそう。

 俺はそう決意した。

 もう一度、夜空の顔を見て

「やっぱり、俺もおまえと付き合うなんて、論外だ」

笑顔でそう言った。夜空も笑顔だった。

 その後は再び沈黙が訪れ、何も話さないまま俺らは部屋に入った。強いていえば、別れ際に、

「また明日な」

「ええ、また明日」

と話したくらいだ。

 こうして、俺の長い長い一日は幕を下ろした。



 ○○○



 部屋に戻ると再び独りの空間になった。少しだけ落ち着いた気分になれた。

 だがそれも束の間。ふーっと深いため息を吐いていると、扉が勢いよく開けられ次の瞬間、どかかっと何人かが押し寄せてくる。

 よく見るとそれは『特殊部』のみんなだった。

「何しに来たんだよ」

 口調が少し荒くなってしまったかと思い、少し焦ったが、アリオスはそんなのお構い無しに言う。

「歓迎パーティーはこれからだぞ!今夜は寝させねぇ!」

「待て、それは誤解を生む言い方だから気をつけろ」

「あ?よくわからんがはしゃぐぞぉ!」

「おー」

 アリオスが言うとそれに続いて他のみんながやる気なく、棒読みで言う。


 「遅れちゃってごめんなさい。間に合ったかしら?」

 少し遅れて夜空が部屋に入ってくる。部屋着なのだろうか。先ほどの制服とは違った服装だ。恐らく、この恰好で寝ているのだろう。それにしても着替えるのが早すぎる。

「おう!俺らもちょうど今来たところだ!ぁ」

「そう、それならよかったわ。お邪魔するわね」

「ういうい。勝手にどうぞ」

 諦めて歓迎した。

 みんなが何やら準備をテキパキと進め、五分もしないうちに各々の席についた。俺も空いている席に座る。一番端っこ。そして隣は夜空。どうしてこうなったのか説明を要求したい。

「それじゃあみんなぁ!今日ははしゃぐぞぉ!」

「あ、あまり迷惑にならないようにね・・・・・・」

 驚くことに、まともなことを言ったのは悪魔族のシャイターンだった。

「それくらいわかってるさぁ!さ!食うぞぉ!」

 そう言い、アリオスは机の上に並べられた皿に箸らしきものを伸ばす。そして肉の塊を摘むと、そのまま口に入れる。他のみんなも次いで食べ始めた。

「まったく、おまえらは・・・・・・」

 俺は呆れながら目の前にあった食べ物を箸で摘み、口にする。やはり美味い。美味いから文句が言えない。

 これはこれで楽しいかもしれない。これがリア充というものなのだろうか。今の俺にはまだ答えはわからない。多分、考えても答えは一生出てこない。考えるだけ無駄だ。

 ふと疑問に思ったことがあった。


 ──『なぜ彼ら彼女ら、俺らは特待生で特殊という扱いを受けているのか。そして、なぜ俺らはそれを自覚しているのか』だ。

 今の俺にはわからないし、これからもわからないだろう。

 それは、このまま何も変わらければの話だが。

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