第3話 SING/シング

ひと昔前はアニメ映画と言えば子供の観るものだった。ドラゴンボールやスラムダンクのオリジナル映画を3本立てにして一回にまとめた「東映マンガ祭り」と相場が決まっていた。夏休みになると、近所にある薄汚い映画館に連れて行ってもらっていたものである。床はポップコーンやポテチの破片だらけ。全自由席。


おそらくディズニー映画もかかっていたのだろうが記憶にない。それよりも同じ頃に自分の観るスクリーンの近くで放映されていた夏場のホラー映画が気になって仕方なかった。いつか、大人になったら挑戦してやろうと心に決めていたのだ。


しかしながら、今の完全指定席で清潔感のある映画館には昔の安いホラー映画は似合わない。




◆SING/シング

◆ガース・ジュニングス 監督

◆ユニバーサルピクチャーズ 東宝東和 配給

◆マシュー・マコノヒー、スカーレット・ヨハンソン(声)

◆コメディ・ミュージカル



さて、しばらく経ってしまったが話題作ということでSINGを観てきた。今やディズニーやピクサーに勝るとも劣らない勢いのあるユニバーサルピクチャーズである。「ミニオンズ」のヒットを皮切りに「ペット」などもなかなか話題になっていた(評価されたかは別として)。そのユニバーサルが満を辞して送る「歌」を題材にしたCGアニメ映画。声優には有名な俳優だけでなくミュージシャンも起用しており、実際に声の担当者がその歌唱力を存分に見せつけている。特に内気なゾウのミーナ役、歌手のトリー・ケリーの歌声は鳥肌ものである。


注目すべきは使われている楽曲にもある。オリジナル曲のクオリティもさることながら、世界中でヒットを飛ばした名曲が惜しみなく使われている点が素晴らしい。レディガガやテイラー・スウィフトのヒット曲が動物たちのコミカルなダンスと共に流れると、不思議と心躍るものを感じてしまう。日本からもきゃりーぱみゅぱみゅの楽曲が使われているが、こちらはアメリカさんお得意の気まぐれというか、特に何も感じるものはなかった。


物語も王道かつシンプルで、いわゆるアメリカ映画の十八番と言える「挑戦→苦戦→挫折→再挑戦→成功」の流れで非常にテンポよく進んでいく。目新しさこそないものの、終始安心して観れる作品だった。


そんないかにもメイド・イン・USAなSINGであるがここまでのところは概ね高評価である。観やすさ、テンポの良さ、音楽の良さ、俳優陣の歌唱力の高さ。どこをとってもエンターテイメントとしてはなかなかである。


メッセージ性は希薄だが、そもそも動物たちが二足歩行で人間のポップスを熱唱する混沌とした世界観にまともなメッセージなぞは邪魔だろう。いい感じに振り切っていて潔い。


唯一を不安に思った点は日本語吹き替え版である。昨今の吹き替えはやたらとタレントや俳優を使いたがる。歌手の起用はまだ分かる。まず第一にこの映画自体が歌手を目指すキャラクターたちの物語なので声優にも歌唱力が求められる。特に先述したゾウのミーナの歌唱力は生半可なものでは表現できない。それではということで吹き替え声優にはシンガーのMISIAが起用された。同じく歌唱力のあるキャラ、ゴリラのジョニーにはスキマスイッチの大橋卓弥。しかし比較的シリアスなストーリーが絡んでくる役のジョニーだが演技のほどは大丈夫だったのか。吹き替え版は未視聴なので定かではないが、世間の評判があまり聞こえてこないので推して知るべしというところだろう。


吹き替え声優に流行りのお笑い芸人やタレントに毛が生えた程度の俳優を起用することにどれほどの意味があるのか。もちろん全てが悪いとはいわない。興行収入にも影響はあるし、舞台挨拶にも集客が見込める。お笑い芸人だって捨てたものではなく、アベンジャーズでホークアイを演じた宮迫博之やガーディアンズオブギャラクシーでロケットを演じた加藤浩次はなかなかハマっていたと思う。しかしそれらはあくまで上手くいった一例に過ぎず、大半の芸能人素人声優は棒読みである。じゃあ吹き替えを観なきゃ良い、というのが至極もっともな意見でそれ故私は期待する作品ほど字幕版で観る。それが世界の平和につながるからだ。吹き替え声優の演技次第では名作が凡作に。凡作も駄作になりかねない。動員数を増やしたいから起用したタレントの棒読みのせいで、更に動員数が落ちることを会社は理解してるのだろうか。否、そこには私などには計り知れないしがらみが存在しているのだろう。これ以上は言うまい。


何にせよこれ以上、洋画の吹き替えやアニメ映画の声優に話題集めの為だけのタレントやお笑い芸人が起用されないことを願っている。SINGにしろ何にしろ、製作陣は精一杯面白いものを作っている。いつの時代も映画は夢の結晶であり、それを作る人々は最先端を生きている。映画は最高の夢を観せてくれるものなのだ。我々が劇場に足を運ぶそれ以上の理由などない。


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