第2話 2017年 夜は短かし歩けよ乙女

新作映画に1800円払うのは勇気のいることだ。少し待てばTSUTAYAなりNetflixなりに落ちてくるのに。我々は新鮮な映画を求めて映画館に行く。私に許された贅沢はレイトショーで観る月に一度の新作映画だ。



◆夜は短かし歩けよ乙女

◆2017年 東宝映像事業部

◆湯浅政明 監督

◆森見登美彦 原作

◆角川書店 角川文庫刊

◆主演 星野源(声)、花澤香菜(声)

◆ジャンル ラブコメ



リングから一転、今回は最新作である(4月24日現在)。流石に旧作ばかりでは過疎化待った無しだと考え、映画館に足を運ぶことにした。


原作は、言わずと知れた大ベストセラー。第7回本屋大賞では2位を獲得し直木賞候補にも挙がっている。良い意味では今までにない新たな境地を切り拓いた小説だったと言える。やや嫌味のある言い方をすれば、読む人をかなり選ぶ本だと思う。森見作品は万人受けするものではない。ただ誤解のないように断っておくと私個人は森見作品を琵琶湖より深く愛している。



今回の映画化は同じく森見登美彦原作の「四畳半神話体系」と「有頂天家族」のアニメ化成功をうけ、満を辞してのものとなった。


監督には映像化不可能と言われた「四畳半神話体系」を見事な手腕でまとめ上げ、天才の名をほしいままにした湯浅政明。


主題歌は「四畳半神話体系」に続きアジアンカンフージェネレーションが担当。


そして主演の声優には、キャスト発表当時にTBSドラマ「逃げ恥」で当たり役になり歌手としてその主題歌である「恋」も大ヒットさせた俳優の星野源が大抜擢。脇を固める声優陣も、人気かつ実力派ばかり。話題集めの芸人も声優に起用して、もはや万全の体勢である。


大ヒット間違いなし。普通なら誰もがそう思うだろう。


結果はまだ出ていないので、私個人としての感想だけを述べさせていただく。



映画化しなくても良かったのでは?と思ってしまった。


小説や漫画を映像化する意味は2つある。興行収入を得ること。そして新規の客層を獲得すること。 映像化することによって新たな原作のファンを生み出し、関わる人間の懐がまんべんなくそこそこ潤う。もちろんそれはヒットすれば、の話である。


元も子もない話をしてしまうと森見登美彦の作品はそもそも映像化に向いていないと私は思っている。ふわふわとしてつかみどころの無い世界観。飛び石のようにあちこちに跳躍する展開。難解な言い回しと造語の連発。そしてとにかく長い主人公の語り。その全てが森見作品の長所であり短所でもある。各々が全て絶妙な均衡を保って共存しているからこそ、作品は魅力的なのである。もしひとつでもバランスを欠けば中学生が初めて書いたトンデモ小説になりかねない。それ故、「四畳半神話体系」などは特に映像化不可能と言われていたのだが、見事にそれをテレビアニメ化し、かつ原作ファンから圧倒的な支持を得た湯浅監督はまさに天才だと言えるだろう。そしてその天才が今回もメガホンをとった。しかし今回は事情が違う。なんせ四畳半の時は1クールのアニメだったが今回は映画だ。どんなに長くても2時間以内にはまとめなくてはいけない。しかし驚くことに湯浅監督は93分にまとめ上げたのだ。まさしく天才。やはり彼を置いて森見作品を映像化できる人間などいなかった。


私は安心した気持ちで劇場の椅子に座った。


終わってみると、93分は意外に長く感じた。冒頭の飲み比べと古本市のパートはとてもテンポがよく原作の良さを十二分に表現できていた。しかし学園祭辺りから雲行きが怪しくなり、風邪のくだりにおいては過剰な心理描写にやや退屈さを感じてしまった。余談だが連れの瞼が重くなり始めたのも学園祭からである。映画の前半と後半は春夏と秋冬に別れて描かれている。もしも監督が人間の人生と同じ様に映画の中にも春夏秋冬の浮き沈みがありその尻すぼみなとこも計算に入れて表現してるとしたらこれこそ天才のなせる妙技だと言えるだろう。しかし私の様な凡人にとってはいささか難解であった。


私個人としてはお気に入りの台詞がカットされていたことと後半パートの失速に目を瞑れば、面白かったと言えなくもない。全体的な雰囲気は原作を忠実に再現していたし、何より一番の不安要素だった主演の星野源が思ったより好演していたこともある。だがそれも、私自身が森見作品のファンであることで、どうしても贔屓目に見てしまっている感が否めない。映画としてこの作品はどれほどのものなのだろう。ここは公平かつ一般の意見として原作は愚か森見作品を全く読んだことのない連れの感想をもって最後の締めくくりとしたい。


「1800円払って観る価値はない」


だそうだ。



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