ツチノコ・フルスロットル!!【後編】

 一時間後。


「いくらなんでも回し過ぎなのだ! そろそろ諦めたらどうなのだ!」

「アラーイさーん。そいつは野暮ってものだよー。フレンズにはー、退いてはならない時もあるのさー」


「これだけ入れてるんだぞ……ここまできて退けるかぁ……!」

「ツチノコ、なんだか怖いよ……」


「これは漫画のネタに使えそうだね。いい表情――とは言い難いけど」


 ツチノコさんの目が緑色に淡く光ってて、博士さんが言うには野生部分を解放しているらしいです。それと関係があるかはわからないけど、後ろには“かぷせる”と“ふぃぎゅあ”が山のように積まれていました。


「ツチノコはもう駄目なのです」

「“しゃこーしん”に取り込まれてしまったのです」


 ふるふると首を振りながらそう言っているのは博士さんと助手さん。またなんだか難しいことを言ってるなぁ。“しゃこーしん”って何だろう?


「しゃこーしん? それって何なの? 博士」


「何も残らなくなるまで回し続ける病なのです」

「あるもので満足できない者の哀れな末路なのです」


「博士たちはーその病気にならないのかい?」


「我々はこれだけで満足なのです。賢いフレンズなので」

「これ以上は回さないのです。賢いフレンズなので」


『これだけ?』と聞いてみると、嬉しそうに二人がそれを見せてくれます。博士さんは助手さんの“ふぃぎゅあ”を、助手さんは博士さんの“ふぃぎゅあ”をそれぞれ大事そうに握っていました。


「わーなにこれ? すごーい! 私もこれで遊んでいい?」

「あ゛ぁ゛!? 好きなだけ持ってけ!」


「あああああのPPPペパプのフィギュアが……!? これは鑑賞用とお楽しみ用と布教用の三セット持っておかないと……!」


 ツチノコさんはもう幻の“ふぃぎゅあ”にしか興味がないようで、コツメカワウソさんがたくさんの“ふぃぎゅあ”を抱えて持っていっても気にしません。それに続いて『わたしも!』『拙者も』と、コインを持っていなかったフレンズさんたちが、次々と自分の欲しい“ふぃぎゅあ”を持っていくのでした。


「かばん、これでなにか新しい遊びができないものだろうか」


 たくさんの“ふぃぎゅあ”を並べながら、そう聞いてきたのはヘラジカさん。


 みんなが『ゆうえんち』のアトラクションに夢中になっていて、合戦はしばらくの間お休み。ライオンさんに今度は頭の良さで競おうと言われ、丁度いい遊びがないか探している最中だったそうです。


「そうですね……交互に動き方を決めた“ふぃぎゅあ”を動かして、大将の“ふぃぎゅあ”を取り合ったりするのはどうでしょう」


 お互い同じ数を用意すれば、不公平もなく遊べるんじゃないかな。


「おぉ! 流石はかばんだな! さっそく勝負だ、ライオン!」

「うーん、でもなー。大将って私とヘラジカだろー?」


 それぞれの陣営の“ふぃぎゅあ”を突っつきながら、問題点を指摘するのはライオンさん。ヘラジカさんは突っ込みたがるだろうし、ライオンさんも自陣でじっとしておくのはつまらない、ということでした。それじゃあ、なにか代わりの大将が……あっ。


「ラッキーさんを大将にするとか……どうです?」

『ガビッ!?』


 そんな和気藹々あいあいとした空気にも混ざることなく、ツチノコさんはひたすらにコインを投入して“かぷせるとい”を回し続けていました。


『人形ヲ飾ルケースモ、用意サレテイルヨ』

「幻のフレンズ……絶対に当てて飾ってやるんだからなぁ……!」


 黒い“かぷせる”が出て来ても、開かないで次のコインを。ツチノコさんが狙っているのは、当たった時に音が鳴る特別な“かぷせる”だけ。これはマズイんじゃと博士の方を見ても『もう駄目なのです』とふるふると首を振るばかり。


 ピピピピピピピピピピ!


「幻のフレンズ来たんじゃない?」

「……ちっ残念、ハズレだ」


 ツチノコさんがポイッと放り投げたのは――蒼い髪を左右で分けた、長い尻尾を持ったフレンズさんの“ふぃぎゅあ”でした。


「こんなフレンズさん、見たことないですよ?」

『コレハ“四神獣”ノ一匹、“セイリュウ”ダネ。ジャパリパークノ東方ヲ守ッテイルトイウ、伝説ノフレンズダヨ』

「ほら! ボスも伝説って言ってるよ!」


 ラッキーさんもサーバルちゃんもそう言うのだけれど、ツチノコさんは納得していない様子で。『そんなわけがあるかぁ!』と、コインを投入し続けていました。


「こいつらもう二体ずつ出てるんだぞ!? ボスが言うにはシークレットは全部で五種類……あともう一種類あるはずなんだよ!」


 山のように積もった“ふぃぎゅあ”を見て、これでもまだ出ていない“ふぃぎゅあ”があるのかとみんな目を丸くしています。


「うーん……壊れてるのかな? ……うみゃ!」

「わっ!? おい、馬鹿! 本当に壊れたらどうすんだ!」


 バシバシと“かぷせるとい”を叩き始めるサーバルちゃん。ツチノコさんが慌てて止めようとしたその時――


 ピピピピピピピピピピ!!


 今までとは比べ物にならないぐらい大きな音が鳴り響いたのでした。


「……うわぁ!? 怒った!?」

「いや、これは……! き……き……キタァァァァァァァァァ!?」


 ピピピピピピピピピピ!!


「ほんと!? すごいや!」

「すごいじゃない、サーバル!」


「おい! 当てたのはオレだぞ!?」


 コロンと“とりだしぐち”から出てきたのは、黒でも赤でもない、黄色い色をした“かぷせる”でした。


「この色は今まで出たことないんじゃないか!?  うぉっほぉぉぉぉぉ!?」

「早く開けて見せてよ!」


「どうだァ!  諦めない心は決して無駄にはならないんだよォ! コノヤロ……お……?」

「…………? どうしたんですか?」


 “かぷせる”を開いたとたん、固まってしまうツチノコさん。幻のフレンズが出てきたはずなのに、どうしたんでしょうか。


「ねぇねぇ! 何が出たの? やっぱり幻のフレンズ?」

「…………」


 サーバルちゃんと一緒に後ろから覗いてみると、ツチノコさんの手に握られていたのはその持ち主にそっくりな茶色いフードのフレンズ。


「なぁんだ。普通のツチノコじゃない」


 確かに“かぷせる”の中に入っていたのはツチノコさんの“ふぃぎゅあ”なんだけど……あれ?


「でも、ツチノコさんが出たのはこれが初めてなんですよね?」

「あそこにもツチノコの絵だけないよ?」


「なるほど、これはもしかすると……」

「つまりーツチノコが最後のシークレットってことなんじゃー」


「えー!?」


 なにか納得したようなタイリクオオカミさんとフェネックさん。彼女たちが出した結論に、ボクもサーバルちゃんも驚きました。


「こうして普通に接しているから忘れそうだけど、元は彼女も幻のフレンズだからね。……その昔、捕まえた者には賞金が出ていたらしいけど、結局誰も見つけられなかったそうだよ」


「よかったね、ツチノコ! さっそく飾ってみようよ!」


 長かった戦いのもこれでようやく終わりを迎えて、感動したのかツチノコさんもふるふると震えていたのかと思いきや――


「こ、こ、こ……」

「……こ?」


 フードの中から覗かせた顔は、そのフードに付いた大きな目玉と同じぐらいに真っ赤に染まっていて。


「こんな恥ずかしいもの……飾れるかァ!!」


 これまで時間とコインをつぎ込んで追いかけていたものが、自分の“ふぃぎゅあ”だったことにツチノコさんは納得がいかないようで。喜ぶのではなく、なぜか怒っているような叫びが『ゆうえんち』中に響いたのでした。

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