あなたや私が殺す人々

庵童音住

第1話 

 人を殺すのにも、もう馴れた。


 はじめて人を殺したときは、あんなに興奮したのに。

 どんなふうに殺したのだったか。


 かなり残忍に感情の赴くまま、殺したはずだ。

 その後のことを考慮して、返り血を浴びないよう細心の注意を払ったはずだ。


 それが何より重要な点だったのだ。


 夜だったか、昼だったか。知り合いだったか、まったく無関係の人だったか。

 すべて深い闇の中だ。

 記憶が曖昧なのは、単に人を殺しすぎているせいなのか。


 昨夜もかなり遅い時間に、人を殺した。

 

 さすがにこれは覚えている。

 まだ若い女性だった。

 何度も何度も刺した。

 思ったより、ずっとあっさりと死んだはずだ。悲鳴も挙げる暇もなかった。

 もしかしたら、彼女は私を怨んでいるだろうか。

 それともそんなことを考える余裕もなかっただろうか。

 

 眠りから覚めてすぐ、また人を殺した。

 

 疲れなど微塵もなかった。

 ただ無感動に殺す。

 それだけだ。

 いちいち感情移入していては、こんな苦痛の伴うことはやっていられない。

 

 ただ殺す。

 誰でも殺す。

 たとえば、客。親友。恋人。

 そういう運命なのだ。

 親兄弟はさすがにまだやったことがない。

 それはさすがに目覚めが悪そうだ。私の中に残るわずかな良心なのか。


 この後もまだまだ殺さなければならない。

 何日にもわたって。いや、何ヶ月、何年とかかるかもしれない。

 こう毎日殺人ばかり犯しているせいか、少し飽きてきているのも確かだ。

 さすがに今回は殺しすぎか。




 私は上書き保存をしてから、一度電源を落とした。

 少し休憩してから、また人を殺すことにしよう。

 新作のスプラッタホラーは遅々として進まない。

 いったい後何人殺せばいいのやら。


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