第3章 テン年代代表アニメの有力候補

いよいよ本題のテン年代アニメだが、1クール作品中心の今の制作体制は

多種多様の作品が見れるという視聴者サイドの利点や制作費面で製作者サイドの利点がある反面、大ヒット作が生まれにくい要因でもある。


作品本数の増加とネットの普及はファンの多様化、人気の分散を生み、1年間しっかり腰を据えて作る(見る)作品がないため、ヤマトやガンダムで見られたストーリー重視の作品が作られにくく、空気系(日常系)の流行に拍車をかけた。

2000年代中盤に既に「萌えアニメは終わった」と一部で言われていたが、未だに萌え系アニメはアニメブームの中核を成しているように見える。

テン年代の折り返しという現時点において、まだ2000年代の続きのイメージが強くゼロ年代とテン年代のアニメを明確に区別することが難しいが、10年の開きがあれば徐々に見えてくるものがある。


ゼロ年代を消去法とは言え「ハルヒ」と暫定した上で、どういう基準でテン年代の代表作を選定するか?

現時点ではエヴァやハルヒ以上に社会現象を起こした作品が無いし、ゼロ年代=ハルヒ論以上に異論が出るのは致し方ないが、押さえておきたいポイントは二つある。

一つは過去のヒット作の変化に着目すること、一つは商業的評価よりも歴史的価値を優先する事。


ヤマト、ガンダム、エヴァ、ハルヒそれぞれの内容の移り変わりを見ると

ヤマト(ミリタリー+リアル系SF+宇宙戦争)→

ガンダム(リアル系SF+宇宙戦争+ロボ)→

エヴァ(リアル系SF+ロボ+セカイ系+オカルト)→

ハルヒ(セカイ系+オカルト+空気系)というリレーがある。

つまり次はハルヒの影響を受けた(セカイ系orオカルト+空気系+?)という仮説が立てられる。


そして歴史的価値とは世相を反映した作品であるということが重要。

エヴァの90年代には阪神淡路大震災、オウム事件などの世紀末思想があった。

ゼロ年代は電車男などアキバ文化や世界同時不況。

テン年代のそれは尖閣事件と東日本大震災だろう。

日本人は内的にも外的にも厳しい現実を突きつけられる。

閉塞感の中で夢に生きていた日常からの脱皮を強要されたのだ。

以上を踏まえて自分なりに候補を何作品か挙げてみる。


①「魔法少女まどかマギカ」(2011年)シャフト制作

(セカイ系+空気系+ダークファンタジー+サヴァイブ系)

空気系の要素を引き継ぎつつ内容で裏切りがあり、魔法少女というアニメジャンルの設定を論理的解釈によって補強することでセカイ系の壁を壊したと評される。

生き残りをかけて戦うサヴァイブ系とも言われる。

魔法少女という既存ジャンルを冠してはいるが、実際にはダークファンタジーで、ロボット物の裏側を描いたエヴァに対して、魔法少女物の裏側を描いたという評価が高い。


放送当時に震災が起こり、放送が一時中断。

奇しくも最後の敵は災害を起こす魔女であった。

本放送では避難シーンなどが大きく修正された。

震災を受けて作られたわけではないが、従来の魔女っ子のお約束に縛られないシビアな展開が世相を反映していたと言える。


またハルヒ時代から商業的理由で漫画や小説原作が多い深夜アニメの中でアニメオリジナル作品だったのは注目すべき点である。

以降、「がっこうぐらし」「リゼロ」など見た目は萌え系で中身はダークという作品が増えた。

現時点でポストハルヒ最有力候補。


②「ガールズ&パンツァー」(2012年)アクタス制作

(空気系+ミリタリー系)

戦車戦を「戦車道」という架空の競技に置き換え戦争色を排除することで「けいおん!」以降の空気系と本来不釣合いなミリタリーの融合に成功した作品。

この前に「ストライク・ウッチーズ」(2008)があったが、これはメカ少女の流れであり、リアル兵器の本作は一線を画すものである。

むしろ時期的には尖閣事件以降の「永遠の0」(2013年)「風立ちぬ」(2013年)リメイクされた「宇宙戦艦ヤマト2199」(2013年)と共にミリタリー物のリバイブルだろう。


従来のアニメファンに加え、ミリタリーオタクにも広く受け入れられた作品で、OVAや劇場版も制作され、商業的にも成功を収めた。

震災の影響で観光産業が冷え込んでいたため、復興目的で大洗市とのタイアップが図られ、本作はまちおこしの成功モデルとされる。


しかし影響力で言えば本作自体も「ばくおん!!」(2016年)同様けいおん!の影響下の一部であり、楽器が戦車になったに過ぎない。

「GATE」(2015年)や「ハイスクールフリート」(2016年)などのミリタリーアニメが増えたものの業界全体の影響力としては限定的。

あくまで日常ものであり、戦争を描いていないので萌え系からリアル系の橋渡し、ヤマト時代の回帰にはなり得なかったという印象。


③「進撃の巨人」(2013年)ウィットスタジオ制作

(サヴァイブ系+ダークファンタジー+王道バトルもの)

巨人という外敵から身を守るために壁の中に閉じこもる人類。

壁の外の土地を取り戻すために戦う戦士たちの物語。

まどマギ同様ダークファンタジーに分類される。


キャラ中心の萌え系アニメとは正反対のストーリー重視のアニメ。

中世ヨーロッパ風にスチームパンクなどの独特な世界感など物語の土台となる舞台の設定が非常に細かく、「甲鉄城のカバネリ」(2016年)などが本作の影響下にあると言える。


壁の中(空気系・日常系・ループ系)からの離脱という意味ではわかりやすく象徴的な作品。

徹底的に絶望を描き、その中でもメゲずに戦うというテーマが3.11と絡めて語られ、新時代の王道ストーリーだと評価された。

しかし、影響力の点ではアニメよりも漫画の方が大きい。


本作のヒロイン、ミカサ・アッカーマンはエヴァにおける綾波、ハルヒにおける長門のように軍艦(三笠)を意識したネーミングではあるが、日常系要素が皆無なのでハルヒとの繋がりも弱い。


以上、三つの候補の中で①まどマギがポストハルヒに最も近いのではないかと思う。

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