smarrimento




足の踏み場が悪く中腰体制で更に下層を目指すSick。暗がりの洞窟を携帯のライトのみが照らす光で進行する。時折、夜行性の飛行動物の鳴き声が不気味さを増した。駆けずり回る小動物の音も。だが、不快な感情に追い討ちをかけたのは

-そもそも俺に目的が無ぇ-

迷い無い一択の答えが、更にSickの足並みを遅くした。だが、突き進むのは報酬無い帰還に待ち受ける罵詈雑言は明白な気がした。暫く進むと中腰から背筋を伸ばせる程の高さになった

「へぇ~へっへっへ!」

甲高い声が木霊した。反響する音は後方にも影響が出るだろう。女性の高音の笑い声である

-ガキか?やたら喜んでんな-

携帯を消灯し、足跡を潜めながら撃鉄を取り出した。暗闇でも輝く銃口は外装を銀であしらうオート型の拳銃である。特殊金属のバルムンク素材であり、弾丸を弾く衝撃遮断素材も搭載し、力を込め振り下ろせば、ダイヤモンドを砕く破壊力を持つ

-他の気配は察知出来ねぇ。声がしゃらくせぇな-

無性に感に触る笑い声は、少女のような若さと高音である。やがて距離が近づくと明るさが増した。身を潜め崖下を見下ろすと、巨大な円上の空間と目映いばかりの

-金銀財宝か。マジで金の成る木みてぇな場所じゃねぇか-

それは億万長者になるに十分すぎる宝庫である。ブレスレットや原石すらある足の踏み場が無い程埋め尽くされている。複数の人物が

巨額の品達に目が眩み、涎を垂らし、晩酌をしながら幸福で満たされていた。 Sickが注目したのは

「金ぢゃ~!いっひっひっひ~♪」

「欲ボケしたガキが呻いてやがる。一体何モンだ?」

洞窟から聞こえた声の正体だろう。小柄な少女であり、体型に合わない位の大きな着物を着ていた。束ねているが至る方向に散らばる銀色の髪と褐色肌が妙にマッチした魅力である

「マスター。どれを持ち去っちまいましょうか?」

「全てぢゃ!わらわの馳走と身染めに存分に振る舞う晩酌を用意せぇ。不躾の木偶がもう心酔しとるわ!さっさと運べ~」

宝石の床で寝転びながら、頬の近くにあるトパーズを舐め回した。マスターと呼ばれた少女はとても嬉しそうだ。寝返りしながら周囲を見渡した瞬間………………目が合った

「!!?ひっ捕らえ~!あそこぢゃ!」

トリガーを引く!直後、跳躍し、宝石の床に着地しながら構えた

「何ヤツぢゃ?実力があるのは伺えるが死地へ誘われた不運よ。行け、テペスカ」

「あいさ。マスター」

深くニット帽を被った男……………テペスカが迫る。弾丸を繰り出すSick。銃口の角度でを見てかわしながら、接近した

「んだ?このB系は?」

懐に迫る瞬間、拳を突き上げるが、踵を軸に回転するテペスカ!鋭い蹴りで反撃するが、右腕で防御するSick

-やりやがる!-

愛銃を振り下ろすが、地面を蹴り上げ宝石で軌道をズラした。同時に拳を腹部目掛け繰り出すが右肘で防いだ

「わらわの宝石を~!蹴るとは失敬な」

マスターの発砲!倒れるテペスカ

「んだと!?」

訝しげな表情で懸念するのは状況の意外性である

「さっさと片付ぇ。段階踏んだ本領発揮で八つ裂きぢゃ!」

むくりと起き上がり首の骨を鳴らした。サングラスの位置を直しパーカーの前を開けた

「覚悟しな~フォーメン♪」

指を鳴らしながらゆっくりと近づく。麻酔弾である予想がされるが、明らかに雰囲気が変化した

「ビカムなパーリーで派手に騒いじゃうYO!」

ダンスを含んだステップで飛び込んできた!変則的な動作を織り混ぜた攻撃が繰り出される

「やべぇ!」

危機感を汗が物語る。鋭く早い連撃を寸前でかわしながら、後退する!応戦の隙すら無いテペスカの攻撃はSick を壁まで追い込んだ

「チェックなメイトでチェケェラ♪」

漫然としたテペスカを眺めマスターは寝返りを始めた。圧倒されたSick。その表情は

「やるじゃねぇか。へっ!」

笑みを浮かべ、愛銃をしまう。背を壁に僅かにつけ、犬歯を剥き出した

「………あんまし加減出来ねぇぜ」

変化したのは表情である。三白眼になり、ジャケットを脱ぎ捨てた

「BLAYZ(ブレイズ)」




突き抜けた天井の中央に、玉座がある。少年は誰も座っていないが気配は感じていた。四方から抜ける風は聖域である世界遺産であり、下降する位置にある都市の中央であるフリークスノー宮殿へ運ばれ、風の聖霊の恩恵を受けるという伝承がある

「風が暖かければ愛情を授かる」

目に見えない誰かに向けた言葉を投げた

「風が冷たければ心に宿し優しさを与える」

目に見えない正体が姿を表す。眼帯をつけた女性であり、深紫の装束を着ていた。全身が不気味なようであり、人を寄せ付けない風格である

「やぁ。殺人未遂を僕に与えてくれた謎の女。一体、何してくれやがったんだよ?」

太陽が照らし、明るさと暖かさが増した。光明と涼風を浴びる少年の体は温もりが増すが闇より暗い黒い瞳が希望が宿る事は無い

「致死すれば、同行する男に砕かれた可能性があるからな。警告で止めた」

「脅迫に準備もへったくれもあるかよ。既に決行してるから、今聴取して捕獲してやる」

片足を何度も滑るように床に触れた。装束の女性は玉座の手刷りに腰を預けた

「交渉に応じてもらう」

「却下だ。濃い服が多少色が混ざるくらい出血して派手に死ね」

「スカルザミッシア」

レザージャケットから取り出したのは携帯電話である。少年はダイヤルを押しながら会話を続けた

「ソレさ。何処で握ったんだ?」

「FALLS・SECRET(ファルスシークレット)」

心の淀みが渦を巻きながら不純物が生産された。その答えがあまりにも

「おい、世界機密情報ビッグ5の2つを簡単に数十秒間に出しやがって。誰だお前は?」

消える存在のように、眼前に立ち尽くす装束が一瞬で少年の背後に回る

「【亡霊】だ」

消去法で連想し、仮説を立てた。危険人物の中でキーワードから浮かぶ人物は

「やはり、裏世界は広大なようで狭いな。僕の理想に近い人物が接触かよ」

背中の風のみが当たらず、何処か物足りなさを少年は感じた

「それは交渉に応じる気になったのか?」

沈黙した。風の音のみのに耳を傾け、首を上に向けた。目を閉じ息を吸い

ある言葉を告げた

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