高次元の扉




「!!!?」

布団から飛び出す勢いで起き上がるベルサジュは見上げた景色の視線に釘付けになった

「思ったよか、早いな」

小柄な女性のファトプリカである。漂う煙草の煙に噎せる予兆があったが、動揺が上回る

「2度目で起きたか。1度目は気配のみで行動はしなかった 2度目は感情の余韻【のみ】を空気に混ぜた。つまりは殺気の2歩手前の不情で察知する自己感知能力は頗る高い。スカシ面を凌いでる」

片目にウェーブのかかった髪がかかる。ベルサジュは心的現象を研ぎ澄ました

「内情を尖らせ、あらゆる心の歪みを先鋭化するアサシンの戦闘思考。内心の殺意すら正常にする事で相手に手の内を悟られずに最短で死を与える速攻の奥義。【心的現象】か。大したレベルか。ケッ」

「俺に………体得のチャンスを頂けるのです」

奇襲!直線の跳び蹴りを両手でガードした

-速すぎる!-

ガードした両手で拳撃の反撃を防がれた。次の瞬間、耳裏に冷ややかな感触を感じた

「これで、今死んだ」

ファトプリカの親指が刃物に見立てて突きつけられた

「そんな」

現実。それは悪寒を体感したベルサジュはあっさりと生命の終わりを実感してしまった

「とは、いえ」

距離を取るファトプリカは煙草を吹き捨て背中を向けた。直後!

「これで2度目だな。本当に」

心臓部分に親指を当てられた。一瞬の出来事である

「暗殺と抹消の相違点は?」

ファトプリカの質問に戸惑うベルサジュ。大口を開け、動揺したまま

「答えろ。3度目は正直な結果になる」

「………あ………暗殺は気配を悟られずに相手に死を与える事。抹消は相手を抹殺し、存在そのものを………消す事です」

「正解だ」

再び距離が離れ、溶岩に砂利が流れ溶解した。背後の灼熱にベルサジュは死を体感した後の冷や汗が浮かび上がる

-2度も死んだ。こんな恐ろしい事態を経験するのは人生1度きりでいい-

「死を置き去りにする価値観に得た生への渇望は死を乗り越える大きな財産だ。まだ、死ぬのには早え」

振り返えるファトプリカ。火山灰が上空から降り注ぎ、状況が一刻と迫りつつある

「スカシ面は再奥迄辿り着くのに時間がちっとかかる。この場所がだっ広く崩れるよりもな。つまり制限された時間しか無いって事だ」

片腕を前に出し、ゆっくりと拳を握るファトプリカ

「いいぜ。教えてやる。暗殺よりも荒々しく潰す方法から死を飛び越えた新たな力。抹消の【極地】と暗殺の【境地】を」

「し………師匠ぉぉ!」

歓喜にも近い発狂でベルサジュは構えた。その隙の微塵も感じさせない真価をファトプリカは評価した。高く

「行くぜベルサジュ・シェイダー」




「ようこそお越し下さりました。感謝しやんす」

深々とお辞儀をする花魁。名前は崔那(さいな)

「あなた、相当の高格の花魁さんね。時間取るのに中々の金額払ったのよ」

足を崩して、上体をやや後方に流し、片手に体重を預けるリパーク

「聞きたい事があるのよね。教えて」

「叶える限りであらば」

「お金で時間使う限り要望に答えるの?プロ根性に甘えちゃ~う。中国マフィアはこの国で何を欲しがってるの?」

引き出しから取り出したのは空の小さい封筒である。中身を確認すると袋の中身わ更に薄く糊付けされていた。器用に開いたリパークは1枚の紙を発見した

「な~に?只の紙ね」

よく見てみると、なぞり書きのようである。光に照らし解読した

「スペイン語?Jardín secreto?一体何かしら」

「メキシコの触れるべくして在らず。禁句でやんす」

「何で微妙に回りくどいのよ?」

崔那は押し黙った。引くべき話題に口を固くしたのは

「物腰柔らかくても拳固な性格なのね。流石に花魁貫いてるだけあるわ」

「して、如何様に?」

リパークは距離を近づけ悪戯する猫のような表情で窮鼠猫噛むかのような崔那の顔色に撫でるような甘い声を出した

「何の意味か教えて?」

「後はご自身で」

ゆっくりと歩き入り口の襖を開けた。頬を膨らませるリパーク

「またのお越しを」

「絶対来ない!じゃあね」

封筒と紙を持ち、立ち去るリパークであった




「僕ならどこまでも果てしなく走るよ」

少年は歩く。スタスタと

急いでる訳では無いが、急を要する電話相手の影響だろう

「何故なら僕はこれからある化物と会わなければならない。これは犬猿の仲であり、避けられない。諦めるしか無いが更に用事が立て込んでしまった。クソ、舐めやがって」

ブツブツと愚痴りながら、真昼の晴天を眩しがりながら更に苛立ちが増した

「多分アナグラムだ。ある場所を指している。後は頑張れリパーク。応援しないけど気をつけて行動する事だよ。それでもダメなら君の死体は丁重に僕自ら解剖し、純血と脳は持ち去って、クライオニクスに無断登録して、多次元世界で仮想現実復活さしてやる。感謝する気毛頭無さそうだけど、とりあえず最後に笑うよ。いや、死んでもいいや 今だよ。あはっ」

電話を強引に切り、ハイスピードで走る車の隙間を通り抜ける。クラクションに全く興味が無い

暫く歩くと

「さてと。ここか」

高台にある巨城を見上げ草原を歩く。風の無い自然を少年は1つ沈黙を好む理由がある

「髪が乱れない。まぁ、どっちでも良いけどね」

気紛れである。その時の気分で変化する。飽き性と相まって更に拍車をかけたのは

「こんな所に呼び出して。無駄に時間を使わせるなよ」

効率の悪い事は何一つ好まない。自己都合上である。即ち

「ワガママな僕の身勝手さで何とかするしかない………かなぁ?あはっ」

入り口の扉を開いた

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