『Peccator Bulentis』




神殿で懐かしい声が響き、【A】は側近であり元同僚のニット帽を被った男を見た。互いにその関係性は長い付き合いである為、浮き足な態度と手軽な表現が昔から好きでは無い。ついでとして加えれば

-似合わない。昔から本当に思う-

長寿と言えば可笑しい話だ。生前から母親が交流を持っていた………愛人の息子である。共通するのは血脈と遺伝子。それは紛れもなく汚点である。だからこそ外見を美貌にした

「昔話は好きだぜメーン」

「私は嫌い。思い出したくも無いの。知ってるでしょ?」

「わらわを素通りするでない!不甲斐ないやつらよ」

「いないじゃない、目の前に。甲高い声から態度も分かりやすいけど?」

「恩知らずめ!テペスカを見習え」

眉根が動き目の前にいるニット帽の男ーーテペスカへ視線を移す

「知らないわ。そもそも意味を為さないの」

「理想のバグは突拍子なアルペジオメーン♪」

「尚更消したいわ。それで?何かあったのかしら」

カツカツとブーツの踵が音を立て、食器棚へ進み、デザインされたカップを取り出す。角砂糖が入っていて、その場で口に含める

「メキシコで現象兆候ABADDON(アバドン)が発生したのぢゃ!わらわはあの怪物と成り下がる人間の組織体が欲しゅうのう………けっけっけ~♪」

-本当に耳障りな声。年齢なだけに厄介ね-

ため息しながら糖質を接種し、指先を舐めながらティーカップにお湯を注ぐ。視線はテペスカから外さずに意識は電話の相手に向けた。視覚と感覚で警戒した【A】

「報酬はある兵器に使用された厳重素材と交換でどうじゃ?欲しがってたのぢゃろう。けっけっけ」

「欲しい。それ私が個人的に必要だから。承けてもいいわ」

角砂糖に手を伸ばすが器をテペスカに取られ、少々頬を膨らました。多少、手の甲をつねる

「ならば交渉は成立ぢゃ!くれぐれも手練れを用意せぇ」

「最高の手綱を握れる人員にするわ」





早走で歩き出すSickとDAZZING。雑草を踏み直進し反対車線の駐車場を目指しながら首を回し撃鉄を取り出すSick。愛銃アンダラウド・ダウドを取り出し、激情を弾丸に込めた

-厄介なキナ臭ぇ感じがすんぜ。そもそもティオーレの所有物を奪う輩の正体が誰かでタコなブッ込みカマすしか無ぇな-

「捕らえんぜ。その女は恐らくだがテメェ同様何かに使うのはJustだが、横流しか取引ならここで成るようになる。奪還なら難易度が高ぇ。増援が無しならB級、組織ならA級、ティオーレ絡みならS級で設定だな」

「捕獲する理由は?かなりのコアな趣味?」

撃鉄で車の窓を割り硝子が飛散する!破壊力がある銃口で割れた箇所に手を入れ解錠し乗り込み助手席に座る。鍵を探す為至る所を調べながら会話が続く

「個人で使用する車じゃねぇから大概スペアがある筈だな。無けりゃ、回線いぢっ………へっ!」

人差し指でキーホルダーを絡め取りDAZZINGに投げキャッチする

「お前、運転しないのによく分かってるじゃない?」

「出来ねぇとは言ってねぇぜ。運転しながらだと選択肢が減るのが嫌なだけだ。ソレでだ。ハネ女の素性は謎か?」

「あまり分からないが……確かWETって名前だったか?お前みたいに珍しいと感想だなあのFuckin女」

車は走り出した。言葉に返答は無かった。助手席の男の表情は深く沈む。漆黒の感情を察知した

「………つくづくじゃねぇか。もしアイツがティオーレと絡んでるなら難易度はSSまで格上げだな」

走り出した車の方向を指示するSick。見当違いでは無く的確。あらかじめ居場所が分かるかのように

「何処を目的にしてる?スタートから外れる理由は何?」

「ちっと訳ありだが協力してもらうのが即だな。利用価値は謎だが二人使う」

通話ボタンを押す

「おい、ロッカート。原因不明地帯周辺の人間何人いるか探知出来るか?」




「中々………て………こずらせやがって」

息を乱し見下ろしながら拳銃を構える奇襲者

「この最強チビが………見下しやがって。大した実力……だな。余計な場所で勝手な事しやがってぇ!!」

手を地面につきながらも怒りを内心に込め睨む

「舐めんな!」

足で踏みつける!拳を潰す勢いで

「ああぁぁ!痛ぇ。畜生が!」

「カスが!半端な強さで妙な事企みやがって!!」

踏みつけた手を更に爪先に力を入れた。猟銃をWETに向けトリガーに指を掛けた

「ハジけなぁっ!」

その時、後方に飛ぶ銀髪女!危険を察知し身構える

「遅いぞ!さっさとしろデクが!!」

「落ち着けよ。まぁ間に合ったか。ハッ!」

暗がりから歩み寄る長身の男。街灯が照らされた場所に浮かび上がる人物

「二度目だな。懐かしい顔だな………あの時は確か……Disasters-Emperor【皇帝掌握活動】以来か?今から7年前だったな」

ゆっくりと長身の男が近付く。ゴミ箱を蹴り飛ばし、猟銃で吹き飛ばした銀髪女

「派手な挨拶だなぁ、このイカレ野郎がぁ!始末に負えねぇクサレが未だ舐めた事件を各地で関与しまくりやがっておらぁっ!今度は何を目論んでんだVERMILION!!」

「俺のセリフだTRY-GUNGEASTAR!今最もジャマなヤツが何の因果で引き寄せられた!?」

銀髪女考えた。真相を語る一言を

「INFERNOだ」

「何!!!?」

-あ……あいつがこの近辺にいるのか?-

唖然するWETと絶句するVERMILION

「………厄介が輪をかけ更なる事絡か………だが今は状況が芳しく無いな。取引だ!!」

「ハァっ!?何ヌかしてんだ図体バカがっ。死にやがれ!」

安全装置を解除し発砲する刹那

「テレンス報告書が今の現状を最優先する事態だチビ!失せろ」

「………テレンス?………」

トリガーを引く手が止まり沈黙が訪れる。周辺は無音。遠くからは銃声と爆発音。光る空と殺気が充満する地帯に佇む非社会人達

「だったら………まとめて死ねやぁぁっ!テメェらには早過ぎんだよ!!」




爆発する建物!乗用車!!ありとあらゆる物。そして人間

「き………君ぃ!やめちくり~なぁっ。まだ死にたくない~!」

緩やかに歩きながら手榴弾を取り出し放り投げながら歩み寄る!プラチナゴールドの髪が爆炎の褐色で輝く

「死の偽装してくれたからマブダチだと思ってたのに~ん!非道いよ~ん。泣いちゃう僕ぅ~ん」

みっともなく発狂しながら地面に這い蹲り後退りする高級スーツを着た裕福な顔立ちした男。逃げ惑う

「ん~ん。だってさ。話しが違うんだもん。それに目的から大分離れちゃったし!怒られちゃうよ、俺が」

呑気に天然に返答しながらゆっくりと近付く。口元に笑みを浮かべながら

中肉中背の体格に首もと、耳、手首、指にアクセサリーを身に着けた男は外見とは裏腹に爽やかで死体の一部を踏みつけながら近付く

「何処にあるの?書類。目的がハッキリしてるから無ければ帰るよBoss。ただし」

破裂する右足!地面を転がり発狂するBossと呼ばれた男。小型爆弾で塵と化した

「うわわわへきゃわやうごこぉぉぉひぃやああ!!」

「ん~痛そう。まぁ、何とかどうにかして手に入れないとさ。さ~て」

屈み負傷するBossに歩み寄る

「DAZZINGは何処にいったの?教えてよ」




「人物特定はOKだよ!ここから約五㌔の場所に三人と新しい災害地区に二人でキロって所だね!後は謎の怪奇現象付近に多数だね」

会話は繰り返され現在は停車し様々な考慮をした

「うし。十キロの方だな……何かの理由かは分からねぇが潰してやる、案内頼む」

「え?やだ」

窓から度々不吉を連想する音と光る街並みを眺めていたDAZZINGが瞬きを激しく何度もした

「んだと!?聞く耳もう一度」

「立てなくていいよ~。だってSick、ワガママだもん。僕の頼みいつも断ってさ!だからここ迄」

「………ハァっ?今まで散々、助けただろうが!それ以上に尻拭いもあったんだぜ?マジでザケてんのか」

「いや、大体Sickが悪くない?この前もボロボロになった君を治療して改造携帯渡して身分捏造したの全部僕だよ?バンクーバーの一流企業の年収より断然高い僕の技術量、踏み倒したのも君だし。じゃあ………がんばってね♪」

通話が終了し、青筋浮かべるSick。一瞬目蓋を閉じ、呻いた後にハンドルを再び握った

「行くぜDAZZING。腹くくりまくって脂肪締め付けて………やるぜ!」

「そこまで脂肪無いわ。この状況も中々無いわ。本当に無いわ~この男。最低クラス」

「吠え面かくぜ?なんせ巻き込むしか道が無くなっちまったからな~!」

ターボエンジン全開で走り抜けた




前日の少々晴れ間が出てきた夕方

「派手な男だ。嫌いじゃない」

街路樹の裏で複数の悪漢が戦意喪失し倒れている。中心で佇み顔を向けたベルサジュ

「WET。まさか君がここにいるとはね」

酒瓶を投げつけ頭部に当たり倒れた1人の男。逃亡を阻止した

「だが、女を舐めてる。そんな気がするよお前は」

「直感で言うなよ。当たってたら言い返せないだろ」

バイクに股がりながらはにかむWET。ハンドルに両腕を預け前屈みになる

「ほら、押し黙った。あいからわず知った舐めた男によく似ているな」

「何だよそれ。言葉借りたら "るせぇ" って吐けば尚更か?」

「尚且つって感じかな?しかし、依頼が被るとはな」

バイクから降り、複数の負傷者達の身辺調査をするWET。壁に寄りかかり、何となく表の路地に目を配れば、道へ出れば輝かしく感じるように思えた。多少の返り血が付着したからなのか

「軍事開拓国家の認定所在された場所でも、誰も近寄ろうとしない楼閣にたった6人か。策は?」

「北は直進の道に赤外線。南は複雑な経路からなる森林。東は落石と雪崩が発生する山岳地帯。西は手薄」

「そこが最もデッドゾーンと踏めるか?」

鋭い眼孔がWETの視線を睨み据えるように告げた

「狼の群れ。突破した先は鳴交喙が空を監視し、波長から鳥の大群が押し寄せる。乱雑な道で待ち受けるのは猛獣だ。要塞過ぎる」

「だったら大丈夫だな」

「問題は無いよ。調べ尽くしたからな」

「つまりはもう風穴を開けたんだな?」

くすりと笑い、壁から重力を放し、歩き出した

「監視カメラも無かった。悪いが動物の扱いに馴れちまったから陽動した」

「それだけで上手く行く気がしないがな」

「勿論だ。だから利用する」

地面に横たわる悪漢達を見てWETは納得する

「1度、本気でアイツと決着つける気はあるか?」

「いや、多分無いな。俺は臨んでいるが」

立ち止まるベルサジュ。その後ろ姿の答えは

「敵としては………縁が無い。きっとな」

歩き出した。オレンジ色の空を眺めながら





「お前!一体それは?」

DAZZINGは助手席から隣の席へ視線を移した。ある程度、車で走行し突然停車した理由は定かでは無い

「実は俺の携帯はGPS機能を逆手に取れる仕組みになってんだよ。探知したヤツを逆に傍受する裏ワザだ。いつもだが、ロッカートは機嫌悪ぃとその場から離れて暫くゲームやるからな。これはアイツの端末から見た画像だ。つまりは」

「調べた後だからそのまま覗き見るのか。いや、それって」

DAZZINGが注目したのは携帯の画像よりも持ち主のSickである。犬歯を悪戯に出し、口が吊り上がった

「ロッカートの検索エンジンをそのままコピれば後は突き進むだけだ。態度悪すぎると何も通じねぇ………少し時間置いた後に試したが案の定だな」

点滅する方向へアクセルを踏み、進行した。見渡せる一直線の道でDAZZINGは辺りの景色を眺めながら、何も考えずに静観した。それは彼女にとって退屈では無い。大事な一時だと感じた

「荒れまくった人生だわ。。ゆっくりなこの時間は尊い」

「んなダセぇ事に浸ってんじゃねぇよ。カス臭ぇな。悪くねえ筈だ」

「血で洗ってまた赤く汚れる事がか?」

平坦な街道を抜け、街灯の無い雑木林と廃棄物が散乱する道へと変わる。塗り固められた反社会人の居心地に噛み合っている。寂れた乗用車も。運転手も同席者も

「記憶に残るならそれだけ忘れねえんだろ?考え変えればつまらなく生きてるよりも少しはマシじゃねぇか?いつかクタばんなら1つでも何かやってりゃあ、悔いはあんまりねぇぜDAZZING。つっても悩み無ぇ俺が言ってもしゃあねぇか」

「無いのか?無さそうだが」

「考える所迄行かねえんだよ。どうでもいいぜ このザってぇ事態が終わったら」

その時、周囲の野良猫が一ヶ所に集まる姿を目に捉えた。残飯を互いに分かち合う姿にDAZZINGには見えた

「フランスに用があっからさっさと片付けるぜ。もうすぐだからよ」

自由とは自然に近い。DAZZINGは空を飛ぶ一羽の鳥が大きく翼を広げ羽ばたいた様子に………何かを思う

「やっぱお前は好かれるタイプだわ」

DAZZINGはスカーフを指で触れ

少しだけ目を閉じた




「大変な事態って一体どうすればその場で収まるのですか?」

疑問を投げ回答を求めた。当て付けた押し付けに近い。電話の相手に敬意はあるがたまに失敬な態度になる。調査に赴いた先は濃い霧が蔓延するような場所で周囲は何も見えない。ここは理解に乏しい。何故なら何も聞かされていないのだから

「全くです。何もありません 退屈ですよ。俺には職務に殉じる覚悟があり、今この場にいるんです」

広いスタジアムのような場所で手を振り、ライトアップを要望するが反応が無い。必死で監視塔へ向けジェスチャーも送るが結果は変わらず

「今、調査中ですがちょっと寂しくなりました。ここ軍事訓練用のグラウンドですよ?入隊の為にわざわざ来た訳では無いですよ、俺」

憤りすら過る不可解な現象が未だ絶えずに辺りを歩きながら地面を見るが膝から下はまるで確認出来ない。わりかし長身でもある為か約、40センチ程、広域の霧である。未曾有の事態か未知の遭遇か。何れにしろ活路の無い現状に少々腹ただしい

「この謎の超常現象に解決ありますか?今、調査団体の痕跡を調べる所ですが、霧の濃度がありすぎて訳解りませんって」

電話の相手は上司である。組織に身を置き早、5年が経ち、幾度と無く事件を解決に導いた。だが

「とりあえず頑張ってもガイシャも見受けられませんし………他当たります?」

その時、上空を見上げた。何となく地鳴りのような唸り声が空からしたからだ。僅かな音が徐々に大きくなる

「え?ええぇぇ!?」

それは小刻みに全身が動揺した証拠である。電話の声も耳に届かずに半ばパニック状態に陥った

「助けてー!」

上司の名を叫びながら、狂乱の態度で身の危険を必死で訴えた




1人の女性が謎の怪奇現象周辺を歩き出していた。細身の体型で神経を張り巡らせ、暗がりの周辺を隙間を縫うように射し込む鋭さで捉えた

-何故いつも私は厄介な役回りなのかしら-

苦笑いが誘うのは自身の身の置き方にある。組織に加入してから様々な業務をこなし、蓄えた知識と実戦訓練で地位を確立した。独欲を磨き、組織の中で新たな部署を設立し犬猿の仲の重役すら軽くあしらう程となる。少数編成で迅速に処理する最短で事件解決を成し遂げ政府公認組織の中でも指折りの【部隊】を設立した。国内のテロ事件の鎮圧、検挙率は今年は首位だろう。政府直下組織の名では裏世界ですら畏怖すらされた

-国内で不法入国した該当人物の中でも、目に余るわ。ましてや、緊急要請でこのメキシコに潜伏するとは。少し気が抜けないかしらね-

深く悩むつもりは無いが、慌てる程でも無い。手に少数、零れたなら、足止めする程度だろう

-今日は何だか異臭もするわね。服装変えれば良かったかしら-

大した拘りは無いが全身白で統一した。白いロングコートにスカート。白いヒールで暗闇を歩き、長い栗色の髪を後頭部に白いリボンで結んだ。妹に強要されたからかあまり好まないが拒否すると厄介である

「そろそろかしら。アリシャの趣向、どうにかしないと」

依頼よりも厄介な身内を思い出すため息をした。その後、吐いた白い息が空に溶け………気配も消した




「おらぁぁぁ!死ね死ねクソ共!!」

それは猪突猛進の先制である。隠密よりも静かに素早く懐に入った銀髪女

「来たな!砕いてやるぜ」

豪腕の拳を振り下ろす!その意図は単純だった

「アマチュアが甘々な手段だ!」

急所に攻撃を叩き込む。更に顎や膝や関節へと蓄積した。怯まずに腕力を振るうが当たらず。銀髪女は攻撃をやめない

「言ったぜ!砕くとな」

直後、バックステップし金網を背にした

「ぬあぁぁっ!」

後方へ手を伸ばし金網を掴むVERMILION。腕力で掴み捻り取る!だが

「らあぁぁぁ!!」

幾度と無く降り注ぐ連撃!膝が落ち崩れ落ちる瞬間、金網を腕に付着させた

「まずは細胞と血管をな」

腕にスタンガンのスイッチを入れ感電した。痙攣し地面に倒れるVERMILION。しかし!

「がぁぁぁぁぁ!」

顔面を踏みつけた銀髪女!発狂するVERMILION。更に足蹴りした!見上げると月明かりに照らされた銀色の豹が獲物を補食するかのようだった

「ぐしゃぐしゃだおらぁっ!!」

蹴る!怒りに身を委ねるかのように報復を駆り立て更に暴力を与えた

「TRYーGUNJEASTARぁぁ!」

WETが動く!VERMILIONの腹部を力強く踏みつけ、勢いで跳躍した

「次はテメェだ!」

金網に足裏を当て更に跳躍し、飛び蹴りする銀髪女!

防御した瞬間、掌で後頭部に衝撃を与えた

「なあぁぁ!?」

よろめくWETに更に追随をかけ、首が往復するかのように左右に攻撃し脳を揺さぶる。自律神経麻痺と呼吸困難を発症、昏倒寸前になりながらも奮い正せた肉体で反復を試みた

「ああぁぁぁ!」

回転式拳銃のコルトパイソンをコートの裏から取り出した。発砲するが、寸前で回避され逃げまとう

「畜生!こんな歴然の差があるのかよ」

最後の銃弾を撃つ瞬間、銃口を蹴られ地面に拳銃が転がる

「腹ぁ………くくれ!!」

暴力!ひたすら拳がWETの全身に直撃し、為す術無く崩れ落ちた

目が霞みながらも煙草を口に含み険しい顔で気絶するVERMILIONとWETを眺め猟銃を向けた

「カス共が」




前日の夜、スズランが揺れる草原

「随分若いな。手練れには見えないが」

「若いよ。でも腕に自信はあるからさ」

冷たく言い放ったのは少女である。無表情であり、前髪が整ったボブショートの黒い髪が人形のような印象も与えた。ベルサジュは身心に染みる雪が少女に重なる

「どっちが雪か解らないな」

「変な例え」

「そう言うなよ。可愛いって付け足してやる」

少々目くじらを立てた少女はマフラーを首に巻き直した。震える身体を見たベルサジュはテキーラを差し出す

「悪い大人」

「人殺しのガキが何、言ってんだ?それともDIREYZか?」

「どっちでも無いよ。只の raccoon だよ」

毒性の華が僅かに香り、愛着のある聞き慣れた名に淀みが生まれた。ベルサジュは察知する

「これからある場所へ行く。覚悟はいいか?」

「うん。多分上手く行くよ」

「頼もしいな。参謀を含めた例えなんだろ?」

揺れる華が雪で隠れた瞬間、マフラーの奥の笑みは消えずにいた。ベルサジュは理解している

「先に戻ってるね。バイバイ」

軽く手を振り立ち去る少女。ベルサジュはテキーラを投げた。後ろ向きで軽く踵で真っ二つに破壊し、雪に中身が零れる

「本当の名前は?」

「生き残ったら特別に教えてあげる」

幻想世界にアルコールが漂い、毒の匂いが薄れた。ベルサジュは吐く息と言葉に込めた警戒の念

「raccoon (アライグマ)か」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る