ポロシャツの男

 翌朝、朝八時に俺たちは永生賓館の前で合流した。


 エイミーは黒いポロシャツを着た男と一緒だった。俺よりもかなり年上だ。たぶん三十前後だろう。俺たちを見て無理に作ったような大げさな笑みを浮かべた。


「その人、だれ?」


「友達です」


「マジかよ。歳が離れすぎじゃね?」


 エイミーは何も言わずに蜀味居に入って行った。中は不潔とまでは言えないが、テーブルクロスや凝った装飾などは一切ない庶民感覚丸出しのローカル食堂だ。


「ちょっと、ここで食べるの? 私、中華はイヤだっていってるじゃん」


 藤堂の不満を無視して俺たちは奥の円卓に座った。


「適当に注文しますね」


「どんなメニューがあるんだ?」 


「ここは四川料理のお店ですけど、普通の家庭料理もあります」


「チンジャオロースもある?」


「ありますよ」


「じゃあ、俺はチンジャオロースとライスで」


「与沢さんは?」


「焼肉みたいなのある?」


「豚肉しかないけど、いいですか?」


「何でもいいよ」


「藤堂さんは?」


「私はコーラ。料理はいらない」


「あ、俺にもコーラ」


 エイミーは店員を呼んで注文した。


「ねえ、達男、いつ帰るの?」


「明日かな」


「もう帰ろうよ。こんな所、何もないじゃん」


「まだ何も見てないだろ」


「雰囲気で分かるでしょ。こんなところで車なんか売れないよ」


「お前に何がわかるんだよ。素人が口出すなよ」


「こんな貧乏くさい村で車なんて売れません。素人でもわかります」


「うるせえな。お前と俺では見えてるものが違うんだよ」


 エイミーとポロシャツの男は終始無言で与沢たちの言い争いを見ていた。二人とも微笑を浮かべている。


 ポロシャツの男には日本語がわからないだろうから気にすることはないが、俺たちを案内しているエイミーの目の前で、平気で不機嫌そうな態度をとる藤堂は正気とは思えない。こういうバカがついて来たこと自体が不愉快だ。


 店員が料理を運んできた。飯の上にチンジャオロースが載っている。


「何これ?」


「チンジャオロース蓋澆飯(ガイジャオファン)。日本のどんぶりご飯みたいなものです」


「ライスと別々じゃないの?」


「こういう店ではこれが普通ですよ」


「今回はこれでいいけど、次からは別々にしてくれ」


「麻婆豆腐をご飯にかけるのと同じですよ」


「それはそうかもしれないけど、チンジャオロースは別々じゃないと気持ちが悪い」


 同じような皿が藤堂以外の全員の前に並んだ。

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