迷惑な同行者
エイミーは前の座席に座り、運転している男と終始話をしている。
かなり親し気な様子だから、車をチャーターしたわけではないようだ。たぶん、親戚か何かだろう。
ふたりの会話は中国語、しかも聞いたことがないイントネーションだ。俺でも方言だとわかる。会話の内容は、全くわからなかった。
「ねえ、達男、ヤバイ。スマホのバッテリーなくなった」
「ゲームばっかしてるからだろ」
「充電してよ」
「チャージャーなんて持ってきてねえよ」
「何それ、信じられない」
車はショッピングモールの前で停車した。ショッピングモールの一階にケンタッキーフライドチキンがあった。
俺たちは車から降りて早足で店に入った。猛烈に腹が減っている。
ティアドロップのサングラスの男は車に残った。長く停車するとまずいらしく、俺たちが降りると、ワゴン車はどこかへ走って行った。
KFCの内装は上海と全く同じだった。メニューも値段も同じ。チェーン店の安心感だ。
俺だけが老北京セット、他はハンバーガーセットを注文した。
日本のKFCにはないブリトー風の老北京。北京ダック風のソースがうまい。俺はKFCに来るときはいつも老北京セットに決めている。
「お手洗いに行きたい」
「ショッピングモールの中ですよ」
「達男も来て」
藤堂は、与沢の手を引いてショッピングモール側のドアから出て行った。あいつらを置き去りにしたいが、そういうわけにも行かないのが腹立たしい。
俺はエイミーの耳元で囁いた。
「まさか与沢にクスリのことを話してないだろうな?」
「もちろんです。誰にも話してません」
「藤堂は何しに来たんだ?」
「藤堂さんは与沢さんが私と浮気してると誤解してるみたいです」
「浮気が心配でついてきたのか?」
「たぶんそうです」
「そんなくだらない理由だったのか……。どうするつもりだ? あいつらがいたら、工場に行けないだろう?」
「あの二人は先に帰すから問題ないです。渋沢さんは見たいところがたくさんあると言って残って下さい」
「そういう計画か。工場にはいつ行けるんだ?」
「あさって。あしたになったらあの二人を帰して、あさって工場訪問します。わたしたちは、あさっての午後に戻ればいいでしょう。上海に着くのは次の日の朝ですけど」
与沢たちが戻ってきたので俺たちは会話を打ち切った。
老北京の味もポテトの味も上海と同じ。中国で生活しているとKFCやマックやスタバはありがたい。どこでも同じ味だ。
与沢たちもおとなしく食べていた。明らかに寝不足と疲労で気力が失せている。
スマホの写真を見ただけで、こんな遠くまでのこのこやって来る与沢の気が知れない。確実にバカだ。
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