第屍話
「月」THE MOON
同盟軍は以前から、権力闘争に明け暮れて来た事でも知られている。例えば、大森義勇軍を率いる
「数箇月前より、
「我々の義勇軍は、第四中隊と対等な同盟を結ぶ、独立した民兵であり、全ての指揮は、法の支配に基づき当職が行います。
「御主も相変わらず、面倒な奴よの…なれば、単刀直入に申してやろう。義勇隊の財を、当方に返還し給え。これが、最後の要求ぞ」
「『返還』ですって? 義勇軍の私有財産は、当然ながら義勇軍の物です。そして、その所有権を代表するのが私です。それをあたかも、式部殿ら第四中隊首脳の財であるかの如く偽るなど、詐欺に等しいですよ!」
「飽くまで拒否するか…そうなると、御主らは義勇兵としての資格を欠くと言わざるを得ない。解任…いや、『総辞職』を覚悟なされよ。万一、御主が首を
「私の首を斬る? 上官でもない式部殿が? 恫喝に屈しなければ、当職の名誉に対する加害を告知するとは、脅迫も甚だしい! それは立派な犯罪ですよ、式部殿!」
「御主の引退が、司令部の意向じゃ、寿能城代よ。同盟が勝利を手にするためには、我らが母なる久遠の大地において、全ての軍人・市民・学生が、唯一の指揮命令系統にて団結せねばならぬ。御主らに、それを乱されては困るのじゃ! 本件の円満な解決を期するため、
「民間人に『団結』とやらを強要するとは、式部殿も
新羅文部(式部)は、実直で正義感が強く、常に規則を重んずるなど、極めて有能な軍官僚であり、この点は寿能城代からも一応評価されている。ただ、その生真面目さが行き過ぎる事もあると言われ、特に近年は、義勇軍の権限を自らの支配下に編入せんと企図し、これに従わぬ「一匹狼」の寿能城代を失脚させようとしたため、両者の対立が激化している。
「何が『円満解決』だ! 血税泥棒めっ!」
紅葉の季節は過ぎ、桜花の季節も未だ遠い長栄山には、樹齢数百年の森林が広がっていた。
「…
第屍話
「…こちら、日本国民軍第13海上空戦隊LazurⅠ Southern Crossだ! 間もなく作戦区域に突入、これよりSoup中隊の援護を開始する!」
「隊長、『スープ』ではなく『ポタージュ』だったような気がします」
「知るか! 全機、攻撃速度に移行せよ!」
「了解です!」
「空中警戒管制機『クリスタロス』より、各機に告ぐ。国籍不明機の戦力は極めて強大、損傷次第では一時撤退を
生田兵庫らが池上町を
「…全員を受け入れるのは不可能です! 重傷の方を優先して下さい!」
「彼には輸血が必要だ、至急手配を!」
「地に
「警報! 戦闘機の破片が落下しますっ! 屋内に避難して下さーい!」
「伊豆司教、患者の一人が行方不明だ」
「どなたですか? え…無敎様が?」
「間違いない、レールガンを持っていた者だ。司教は彼と親しかったようだが、何か心当たりは?」
「あの方は確か、本門寺に取り残された御友人を、助けに行きたいと
「それはまずい…池上町は今、ゴーストタウンだ。この辺りでは、食人種の感染が最も多く、第四中隊は既に壊滅状態と思われる。彼の友達とやらも、生存の見込みなどあるまい…」
「これ以上、犠牲者を増やしてはなりません! 一刻も早く、長栄山への救援部隊を編成しましょう! そのためにも、ここ平和島での務めを果たさなくては…!」
「ああ、急ごう!」
「万人が万人に対して戦う時、人間は人間に対して狼と成ります…もしそれが『自然』ならば、私達の為すべき事は…」
「…よし、地対空ミサイルの電源が回復した! 僕達も、ポタージュ隊を支援します! 美保関少弐と﨔木長門を、ここで失うわけにはいかない!」
私が見上げた大空を、敵味方の戦闘機が次々と切り裂いて行く。そして、この血塗られた天空では、同盟軍の命運を握るエース達が、今この瞬間も戦場を舞う。
「…くっ! 被弾しましたが、まだ戦えます!」
「無理するな、Hansel! stabilizerのdamageでは、すぐに飛べなくなる! 脱出しろ!」
「了解…お役に立てず、申し訳ありません!」
「ラズールⅡが離脱。味方部隊、残り6機」
「また1機、殺られた…」
「電源回復した機体は、すぐに離陸させて! このままじゃ全滅するよ!」
「敵攻撃機が、羽田空港に向かっている」
「滑走路をやられたら、後続機が出撃できなくなる! 対地攻撃機を阻止して下さい!」
「了解、ポタージュ全機に告ぐ。私が片付けるから、念々佳と莓は援護して!」
「「かしこまっ!!」」
「背後の敵機を警戒して! 一瞬でも気を抜くと、朝っ腹からスカートを斬られるよ!」
「射程に入った、missile発射!」
「目標命中、撃墜確認」
「さあ、次だ!」
「もしもし…あ、つながった。班分けで蒲田の守護を拝命する事になった、
「聞こえているよ、仁さん。了解、食人種の出没ポイントをレーダーに表示します。予想以上に感染が広がっているな…各隊、可能であれば攻撃して下さい!」
「…あと少し、もう少し…今ね、発射!」
「複数ターゲット全てに命中確認、やるじゃない!」
「さすが、毎日イカを大虐殺してるミホミー(笑)」
「お前も裂き
「あ…あの戦闘機が、敵さんを吹き飛ばしてくれた! めぐちゃんは、残りの化物を雷撃します!」
「よし今だ、全軍突撃!」
「美保、後ろに敵よ! 急旋回して!」
「あ゛ぁ゛っ! いつの間に?」
「天満、今助けに行くよ!」
「いや、美保は俺が守る! 莓ちゃんは、前のほうを見張って! 全く…どうして人間は、いつまで経っても戦争をやめられないの? こんなの、ただの殺し合いじゃないか!」
「
「レーダーが更新されたわ。長門の言った通り、前方に敵反応!」
「あれは…戦艦?」
「軍艦だと? どうして侵入に気付かなかったんだ!」
「…敵の数が多過ぎる、解析が間に合わない!」
「このタイミングで敵軍の増援だと? くっ…鉄の暴風だ、身動きが取れない!」
「敵に包囲されました! 罠にハマったようです…」
「Gretel、離脱できるか?」
「砲火が、激しい…もう駄目です、あーっ!」
「ラズールⅢも堕天しました、味方はあと5機!」
「チッ…もうすぐ蓬艾の援軍が到着する手筈よ、それまで持ち堪えて! 警報が止まらない…あ゛ぁ゛っ! スタビライザーがイカれて来たわ…」
「いくら美保でも、これ以上は無理だわ! ベイルアウトしなさい!」
「そうよ、脱出して!」
「あぁ…回路がぶっ壊れたみたい、
「美保が離脱すれば、残りは4機ね…」
「頑張って! 俺が迎えに行くから、美保は地上でチョットマッテテー!」
「ポタージュⅡは持ち場を維持し、戦闘を継続せよ。許可あるまで、戦線離脱は認められないわ」
「持ち場なんて関係ない! 安楽浄土から断頭台まで、最期まで美保を護るのが、俺の天命なんだ!」
「…了解した、長門。貴様は自分の信念で行動しろ、命令だ!」
「ありがとうございます! じゃあ俺は、美保救出のため、着陸します!」
「あと3機…」
「黒沢蓬艾の部隊と合流するまで、残った俺達で時間を稼ぐ! 禅定門・神奈川、手を貸してくれ!」
「愛生、了解です!」
「かしこま!」
「神戸と乃木坂とサッカーを愛する皆さん、こんにちは! 大允生田です。解説は、大森テニス元センターコートの斎宮星見さんでお送り致します。斎宮さん、宜しくお願い致します」
「宜しくお願い致します」
「さて斎宮さん、午前中の豪雪が夢に思えるほど、天候に恵まれた死合になりそうですね」
「ええ、今日も良い
「間もなく、選手の入場です! カメラには、前回の死合で得点を量産しました、日本代表!蘭木訓改め塔樹無敎の姿が映っております」
「そうですね~。塔樹選手は、もう少し落ち着いて殺ったほうが良かったんじゃないかと思いますね。まあ、殺りたくなる気持ちは分かるんですけどね(笑)」
「さあ、死合開始です…おぉっと塔樹選手、スタートと同時に早速ゴールを決めました! 相手チームの選手が、次々と
「いやぁ^~、こういった死合は興奮しますね~」
「サポーターの心がピョンピョンしております! しかし斎宮さん、遂にサッカーもこういうplayが許される時代になった…と考えて宜しいでしょうか?」
「ん~、違うと思いますよ…本当は、即レッドカードになっても不思議じゃないんですけどね、笛はないですね~」
「さあ塔樹選手、人狼の如き瞳で、次のターゲットを定めたようです。追い詰められた相手チーム、塔樹選手に一斉に襲い掛かりました!」
「まだ試合時間も充分残っていますからね、確実に殺って頂きたいですね~(笑)」
「おっと塔樹選手、ここで周囲を見渡しますが、チームメイトもサポーターも、誰も居ない!」
「本人と食人種以外、中に誰も居ませんからねぇ、誰か中に居れば良かったんですけどねぇ^~(笑)」
「実況してないで、君達も戦え! 食人種の経験値にしてやろうかっ!」
美保関少弐と﨔木長門は、大森区内に着陸(不時着)した。既に戦闘機は損傷が大きく、この先は陸路で進むしかない。ここは…。
「ここは、どこ?」
「え~っと、ここは…」
「待って。言わずとも、分かっている」
「…じゃ、最初から訊くなよ!」
「…よし、離陸完了! 蓬艾、これより交戦します! 全速前進、来るなら来いっ!」
「蓬艾ちゃん、助けに来てくれたのね!」
「これなら、勝てるかも…!」
「蓬艾隊が到着、敵味方識別データを更新するわ。レーダーを再確認して」
「禅定門と神奈川は、蓬艾の指揮下に入れ! 俺は、敵艦隊を攻撃する! 蓬艾は、残りの戦闘機を頼む! このまま一気に、押し返すぞ!」
「かしこまです! 美保と長門が居ない分は、私達で補います! 念々佳・莓、デルタフォーメーションを組んで! 私達の実力、今こそ魅せてあげましょう!」
一方、池上町の生田兵庫らは、食人種や他グループとの抗争を繰り返しながら、各地を転戦し、廃墟と化した店舗跡において、壊物…もとい「買い物」を済ませた。戦闘に際しては、塔樹無敎のレールガン小銃が大いに役立ったほか、斎宮星見の電戟ラケットも修理して再起動され、事態は有利に打開されつつあった。
「bed inする場所が必要だよね」
「は?」
「生田君、気でも狂ったんじゃないのか?」
「いや、真面目な意味で…どこで寝泊まりするの? さっき突入した業務用スーパーは、死体だらけだよ?」
「ついでに衛生のため、建物ごと焼いちゃったからな…」
「これから毎日、食人種を焼こうぜ…じゃなくて! 長栄山まで登れば、本門寺に保護して頂けるかも知れないが、太陽の角度から観て、
「じゃあ、この近くで探すしかないか…あ、あの廃墟はどうかな?」
「ん?」
呑川に架かる、崩壊し掛けた鉄橋の近くに、小さな木造建築が見える。恐らく、数十年前の物だろう。荒らされた形跡はなく、ただ薄汚れた看板が、往時の名前を伝えている。
「…これは店名かな? 何か書いてある。あ…アプリコ?」
「おい英文科、解読してくれ」
「『Aprikosen Hamlet』、直訳すれば『
『ハムレット』などの悲劇に対して、
「『アプリコーゼン ハムレット』か、何とも微妙なネーミング…」
「でも、僕達の『秘密基地』には、丁度良いかも知れないよ?地味だからこそ、目立たないし」
「潜入して見る価値はなきにしも非ず、だ」
「アプリコーゼン」と仮称する事にした木造廃墟を、各々の武器を構えながら調査する一行…だが、「先客」と遭遇するまでには、多くの時間を要しなかった。
「待って、奥に誰か居る!」
「食人種かも知れない、いつでも交戦できるようにしておけ!」
「了解! おい、誰か居るのか?」
言語による返事はなく、代わりに銃声が返って来た。
「撃って来たぞ! 大允、発砲許可を!」
「了解! 撃ち方…」
「いや、待て! 小銃を扱えるという事は、中に居るのはヒトだ。食人種ではない」
「交渉してみる?」
「ああ…中の人、俺達は敵じゃありません! 助け合って、共に生き残りましょう! 水とか生活アイテムも結構あるんで、分ける事もできますよ?」
すると今度は、日本語の返事を聴くと共に、奥から二人ほどの気配を感じ始めた。
「…水、ですか? この情況下で生き残るためには、一日に約60ℓの水が必要ですよ」
「いや、それは多過ぎだろ」
二人の姿を目にした一行は、ただただ驚いた。そして、頭を整理しながら口を開く。
「あ…あなたはまさか、第三中隊のエリート将軍、美保関大宰少弐様ですか…!」
「み…美保関少弐? 御台場の戦いで『戦場の文殊菩薩』と讃えられた英雄にして軍神が、何故こんな所に…?」
「美保…あなた、自分の戦績を15センチ盛ったでしょ?」
「いや、それは皆が勝手に考えた伝説だから…て言うか、60とか15とか46とか、長門は毎回どこから適当な数字を持って来てるの?」
「適当じゃないよ!『人間は一日に約60ℓの水を必要とします』って、士官学院の試験にも書いてあったんだから!」
「はぁ…重症ね、夜慧」
「しかし、少弐殿は東京湾で交戦中だったはず…如何なる因果で、ここまで来られたのか?」
「話せば長くなります。あの後、中央防波堤から平和島に撤退して、更に羽田空港へと向かう途上、ラプターのスタビライザーを撃たれて…」
ステルス戦闘機「ラプター」のコントロールを維持できなくなり、加えて脱出装置を破壊された美保関少弐は、﨔木長門にサポートされながら不時着を試み、無事に着陸を成功させた。しかし、降り立った地は大森の内陸で、生田兵庫らと同様に、孤軍奮闘と試行錯誤の末、このアプリコーゼンに辿り着いたのであった。
「…ま、そんなわけで宜しく。俺は﨔木長門。真名は『夜慧』だけど、軽々しく呼ぶなよ。別にお前達の事が気に入ったわけじゃないけど、人間同士で殺し合ってる場合じゃない
「俺は斎宮星見だ。お前みたいな強気な奴、嫌いじゃないぜ…って、机の下に誰か居るぞ!」
異常を察知した生田・斎宮・塔樹は一斉に武器を構えたが、事実を知っている美保関少弐と﨔木長門は、急いで止めに入る。
「待って! この人は敵じゃない!」
机の下に倒れていた者の正体は、すぐに判明した。
「…騒がしいな…課金しようよ…」
「せ…先生?」
「…ん? ああ、生田君か…今日は休み、講義も演習もなかったはずだよ? 私は家に帰って『
「はぁ…まだ寝惚けているんですか? 叩き起こすしかないみたいですね…」
「や…やめろ、やめるんだ少弐殿! そんな事をしてはいけない!」
「タイムラインに晒そうっと」
「…いや、何で俺を撮ってんだよ? そもそもネットつながらないだろ!」
「まずは、上半身をですね…」
ただ今、大変暴力的な映像が流れているため、番組内容を一部変更してお送り致します。放送できない内容が終了するまで、CMをお楽しみ下さい。
「…これが、二次元と三次元とが融合した世界…そして、遥か未来の日本列島…果たして私達は、時空の彼方に何を見出すのでしょうか…?」
「闘争と暴力が支配する異世界に転生してしまった私達を待ち受ける、新たな戦い…でも、あなたが隣に居てくれれば、きっと大丈夫! だから、もう一度…あなたの声、聴かせて^^」
あの問題サークル「スライダーの会」がお送りするノベルゲーム『RISORGIMENTO』、定価0円(税抜き)で近日発売予定! 更に、シリーズ最新作となるオンラインゲーム『Planet Blue Ich-Roman 少女達の戦争』第1節「
「おかし、RTする意味ねえじゃねえか!」
「…そんな次第で、スープ少弐と﨔木長州に遭遇し、色々あってこのアプリコーゼンに退避していたわけ。電源も多少は確保できたが、そう長く持たないだろう」
「水道も通ってるみたいだね」
「感染の恐れがあるから、市販のを使ったほうが無難だろ」
「今宵は一夜限り、ここにバリケードを展開して休みましょう。念のため、交替で警備を行います。明朝、本門寺への血路を切り開く班と、救難信号の復旧を試みる班とに、部隊を分けようと思いますが、如何でしょうか?」
「そうだな…」
その日の深夜、警備担当以外が久々の熟睡に
「ろ…6
読み進めるに連れて、﨔木長門の表情が暗転して行く。そしてそれは、次第に狂気染みたものを
「…やだ、イヤだ…僕は嫌だっ! 俺はもう、何も失いたくないのに…!」
「…どうした、﨔木さん? 眠れない? まあ、徹夜馬鹿の僕が言っても説得力ゼロだけど、休める時に休んだほうが良いかと」
「あ! いや、何でもないです…」
「そうか、何かあったんだな…私で良ければ私に、駄目なら明日、美保関さんにでも相談されよ。ただでさえ異変の真っ最中だ、一人で抱え込むのは好ましくない」
「はい…」
扉を閉め、自室に戻る。月は、新月を
「この光では、厳しいな…」
タロットカードの第18アルカナ「月」は、「不安」や「裏切り」を象徴し、「第三の目」を開眼させてサイキック能力を引き出すと共に、人間の心に潜む薄暗い闇を暴露し、妖魔に吠える狼が描かれている。
「…手の震えが、止まらない…止まってよ、ねえ止まれよ…どうして、どうして止まんないのよ…!」
翌朝、アプリコーゼンは朝食会議を招集した。相変わらず同盟軍本隊と分断されている以上、議題も山積したままだ。最初に、部隊の再編が提案された。
「はあ…おはよう。さて、御覧の通り、今ここには大森軍管区第三・第四中隊が集結しているわけだが、集結と言っても、たった数名の生存者だけだ。そこで、縁あってこの場に導かれた諸君を、新しき義勇兵として再編成したいと思う。今この時を以て、我々は『アプリコーゼン中隊』の結成を宣言する!」
「…え?」
「そのまんま過ぎますよ…」
「寒いです」
「…ま、そう言われるとは思ったけど、アンズは分類学上『被子・双子葉植物離弁花類バラ科サクラ属』だと事典に書いてあった。つまり、物凄く大雑把な言い方をすると、杏子は桜の姉妹みたいな位置付けになるわけ。僕は花言葉に疎いけれど、取り
「現状では、それで良いんじゃないですか? もし何か問題が発生したら、改名すれば良いわけだし」
「ありがとう。あ、それからハムレットは『小村』って意味だから、我々は『アプリコーゼンの村人』でもあります。では次に、今後の作戦方針に対し、美保関少弐の見解を伺いたく思いますが…」
「ちょっと待って下さい! その前に俺から、ガチで重大な議題がありますっ!」
「夜慧、急にどうしたの?」
「了解、﨔木長門の発言を許可します」
「俺、ここに来る前に、今回の異変に関する投稿を集めていて…それで、気付いたんです。真実に」
「真実?」
「俺達は今、『食人種』と呼ばれる化物と戦争していますが、奴らは喋りますか?」
「あいつらはゾンビだ。ほとんど無言か、せいぜい不気味な鳴き声を吠えるだけだろ? 俺達が戦った奴らは、皆そうだった」
「確かに、多くの『優性感染者』はその通りです。でも、『劣性感染者』はそうじゃない…」
「食人種の遺伝子にも、顕性と潜性があるのか?」
「はい。そして、劣性感染者は、普通の人間と同じように言葉を話し、社会生活に溶け込みながら、獲物が一人になった時、彼を喰い殺し、その人肉を食べているのです。まるで、昔話に登場する『狼人間』のように…」
「そ…それって、つまり…『人狼』?」
「そう。そして、あの爆発を目撃し、巻き込まれた俺達は皆、食人種のウイルスを取り込んでいます。その中で、劣性感染者の発症する確率は…6分の1」
「約16.7%だな。六人に、一人…!?」
「て、ゆう事は…?」
「お…おい、マジかよ…!」
﨔木長門が何を言おうとしているのか、一同は既に理解していた。それを承知した上で、﨔木夜慧は改めて前を向いた。そして…。
「この中に一人…いや一匹、『人狼』が居ます。犠牲者が生じてしまう前に、『彼』を特定し、処刑すべきだと考えます。それが…俺からの、発議です」
静かな、冷たい声が、アプリコーゼンの狭い四方に響いた。それは、ゴーストタウンの密室を舞台に、「魔女裁判」の開廷が言い渡された瞬間であった…。
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