第14話 過去の出来事その1

 五年前。これは、まだヒルダとエリスがラファエル達と出会う前の話である。マックスは、体格の良い大男で、何時も背にバスターソードを背負っている。その娘、エリスは、15歳の小柄な少女。そして、人懐っこい笑みを絶やさない青年。この三人が今回の登場人物である。当時、エリスの父であるマックスは、失踪した妻エレナの手掛かりを探す為にある遺跡の中を調べて居た。マックスの娘のエリスと、旅の途中で行き倒れていた処を助けたデュアルと言う青年を共に連れてマックスは、遺跡の中……奥深くへ足を進めて居たのである。

「ねぇ、父さん。どうして、こんな遺跡に? こんな所に母さんの手掛かりがあるって言うの?」

エリスは、ふと足を止めて、疑問に思って居た事を父マックスに投げかけた。

「ああ、エリス。お前には、話して無かったが。エレナは、この遺跡で目覚めたんだ」

「それって、まさか……」

「そうだ。つまり、コイツと同じってこった」

マックスは、後ろからてんこもりの荷物が入ったリュックを背ってノソノソとやって来た青年デュアルを指差した。

「当時の俺は、一寸ばかしヘマをやらかしてな。この遺跡に逃げ込んだのよ。そしたら、遺跡の奥でエレナにであった」

「それで?」

エリスは、少し急かすように興味深げにマックスの傍に寄って来た。

「まあアレだ。記憶喪失ってやつだったな。記憶を無くしているエレナの世話して居るうちに情が芽生えてな。プロポーズしたんだ」

「なるほど。だから、ここへ来たんですね?」

そう、後ろからデュアルが口を挟むとエリスは、不機嫌そうに頬を膨らませた。

「そうだ。記憶を失ってたんだ。失った記憶が戻れば、必ずこの遺跡に戻るんじゃないかと思ったんだ」

「可能性が高いですね。一度戻って来ていたら、足取りが追えるかもしれません」

デュアルは、さっきからむくれているエリスの頭に右手を置く。すると、エリスは、はにかむようにうつむいた。



 マックス達が遺跡の最深部に辿りついた。すぐさまマックスは、松明を片手に壁を探り始めたのである。つるりとした壁の出っ張りを発見するとマックスは、その部分を叩きつけた。すると、どうだろうか部屋全体が明るく、どこからともなく照らし出されていった。ようやく、部屋の全容が見えてきて、この場所に来た事のあるマックスを除いて、エリスとデュアルは、驚きの声を上げた。金属ような壁で四方が覆われて、中央には、コンソールのような幾何学的な塊が鎮座している。

「父さん、ここって……」

「ああ、一寸待ってろ」

エリスの問いかけを無視するようにマックスは、中央にあるコンソールに向かった。

そして、コンソールの前の立つと、適当に何かを弄り始めたのだ。

「父さん、そんな適当に弄っていいの?」

「あの時はな、適当に弄ってたら、こう……バーンときて、ズドーンと現れて、ジャキーンとな」

マックスが肉体言語を交えて、擬音だけで説明する姿を見て、エリスは、「はぁぁぁぁぁ」と、深い溜息を吐く。




 コンソールを弄り倒していたマックスは、何の反応も見せない事に次第にイライラがたまって、最後には、その大きな右拳を振り上げた。

「これで、どうだ!!」

右拳を振り下ろして、マックスは、コンソールを殴りつけた。すると、短い警告音が鳴ったかとおもうと、今度は、四方の壁の一方が迫り出してきたのである。突然の事にエリスとデュアルは、驚いて居たがマックスだけが興味深げにそれを眺めて居た。壁から迫り出して来たのは、透明なガラスで出来た棺の様な物だった。透明なガラスで作られたそれは、中に眠る人物の姿をハッキリとマックス達に見せ付けている。マックスは、直ぐにガラスの棺に近づいて、中に眠る美女の観察を始めた。

「顔つきは、エレナに似ているが微妙に違うな。黒子の位置も……。コイツは、エレナの血筋の者かもしれねぇな」

顎の右手を当てながら、マックスは、思案している様子でそう呟いた。

そして、少し離れてた所で様子を見て居たエリスとデュアルがゆっくりとガラスの棺の方へ近づいていく。

「父さん、もしかして、母さんの姉妹かも」

「そうだな。エレナもこの遺跡で目覚めたんだ。その可能性がある」

マックスは、そう言って、再びガラスの中の美女に視線を移す。マックスは、この棺の中に眠る美女が失踪してしまったエレナの行方について何か知ってるのではないかと、そう思って居た。それ故にどうにかして、この美女を眠りから覚まそうと必死になって、コンソールを弄りたおしたが、美女は、いっこうに目覚める気配が無かったのである。





 エリスは、不安になっていた。失踪した自分の母親の正体がこの遺跡で目覚めた古代人であると、父であるマックスに告げられてから、エリスの心の中にモヤモヤしたものが渦巻いて居た。古代人、古代文明の生き残り達。彼らは、総じて人間より長寿であり、ドラゴンさえしのぐ程の生命力の強い種族である。自分がその古代人とのハーフである事がエリスにとってショックな事であった。そんなエリスの気持ちを読み取ってか、デュアルは、常に隣に立って、エリスの左手をギュっと、握り締めて居た。デュアルは、優しい。時々、そんな彼の優しさに甘えてしまいそうになる。しかし、エリスは、キュっと口元を引き締めて何時も堪えているのだ。一度、甘えてしまえばきっと、なし崩し的に自分の歯止めが利かなくなる事を理解して居たからだ。






 マックスがまったく目覚める気配を見せない棺の美女の姿にシビレを切らしたのか、突然上半身をガラスの棺の蓋に引っ付けて力み始めた。どうやら、力ずくでガラスの蓋を引き剥がそうとしている様子だった。ガラスに顔を張り付かせて、力むマックスの顔は、とても歪んで居た。

そこへ突然、棺の美女の両目が開かれたのである。美女に顔は、みるみるうちに歪んで行き、大きな悲鳴を上げたのだった。

「きゃぁぁぁぁっぁぁ!!!」

それは、脳天に突き刺さるほどの大きな悲鳴だった。それは、そうだろうとエリスもデュアルも納得は、して居たのである。目を覚ましたら、突然むさい親父の歪んだ顔が飛び込んで来たのだ。誰だって悲鳴を上げるに違い無いと。だが、棺の美女が次にとった行動は、彼らの想像を遥かに超えるものだった。美女は、棺の内側から、力一杯ガラスの蓋を蹴り上げると、まるで爆発したかの様に棺の蓋が飛び上がった。それもマックスの身体ごと宙に舞ったのである。そして、美女は、棺の中から素早く飛び出すと、自分の目の前に落下してきたマックスの胸倉を左手だけで掴み引き上げた。

「どういうこと!? どうなってるよ!! 何これ」

美女は、そう叫んで、周りを見わたす。

「ハイ! 僕が説明します」

少し離れた所から、眺めて居たデュアルが挙手をしてそう言うと、美女がデュアル達の方へ振り返った。

「父さん」

エリスが声を掛けると、白目をむき、泡を口から出しなら気を失ってるマックスの姿に気が付いて、美女は、「あっ」と、小さな声を漏らして、左手を離した。そして、マックスの身体は、その場に崩れ落ちてしまったのである。

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