第13話 弱点

 とある街の酒場。時刻は、夕方で仕事に疲れた男達が集まり賑わっていた。そんな時に、酒場の扉を荒らしく開き、不機嫌そうに一人の男が入って来た。その男は、酒場の角のテーブルを見据えた。そこには、一人の老人がポツリと円卓を占領している。周りを見渡せば、どの円卓もすし詰め状態であるので、その老人の円卓だけが余計に目だっていた。しかし、男は、そんな事を気にした様子を見せずにズカズカと足を進めて、老人の正面の席に着いた。

「なあ、あんたこの辺りじゃ、ちょっとした物知りだったよな」

男は、そう老人に声を掛ける。老人は、のっそりとした動作で男の顔を見据えて口を開いた。

「お前さん、今日は、何時にも増してえらい不機嫌そうじゃな」

不機嫌そうな男の表情を見て、老人は、そう答えた。

「ああ、そうだ! 俺は、不機嫌だ! クソ! クソ! 俺は、とても不機嫌だ!」

男は、両手で円卓をバンバン叩きながら叫んだ。そんな男の姿を見て、老人は、「やれやれ」とばかりに首をふる。

「いったい、どうしたのじゃ? 何があった?」

老人がそう問うと、男は、落ち着きを取り戻した様子で静かに語りだした。

「実は……今日、古代人って奴に遇ったんだがよ。あれは何だ? 化け物か?」

「ほう……それそれは」

老人は、少し驚いた様子で、自分の顎鬚を触った。

「お前は、ついておるのう。古代人と遭遇するなんて、数万人に一人の確率ぞ」

「何が、ついているものかよ! こっちは、大損だ! その古代人のおかけで、俺の部下が全てあの世逝きだ」

「なるほど。お前さん、もしかすると……その古代人を怒らせおったな?」

老人がそう聞くと、男は、渋面な表情を見せた。

「ちっ……こっちも仕事だったんだ。退くに退けない事情ってのがな」

「お前さんの事情など、知らん」

老人が突き放したように言うと、男は、への字口で睨みつけた。

「まあ、そんな事でよ。その古代人を何とかしなくちゃなんねぇ。あんたなら、古代人の弱点の一つや二つ知ってるだろう?」

「知らん。そもそも、古代人と言うのは、この世界において、最強の種族じゃ。強い生命力、最強の戦闘能力、おまけに寿命がないときてる。まさに無敵と言うやつじゃよ」

「いや、でもさ。一応、生物なら弱点ぐらい存在するだろ?」

「まともにぶつかって、勝てる相手では無いぞ。しかし……戦で勝てぬなら、戦わないと言う選択もあるがの」

「はぁ? 何言ってんだよ。俺は、古代人が邪魔なの! 排除したいの! 殺してしまいたいんだ!」

「じゃから、戦わずに自ら死を選ばせればよかろうって」

老人は、そう言って不気味な笑みを浮かべた。その事に男は、怪訝な表情を浮かべ、訝しげに老人を見る。

「じゃあ、どうしろって言うんだよ?」

「古代人は、おし並べて、基本的に心が弱い」

「心だって?」

「そうじゃ、古代人は、寿命がない。故に心が弱い。長い時間を生きて来た為に心が疲弊しておる。じゃから、生きるのに理由が必要なのじゃよ」

「……」

「生きる心の支えを失えば、古代人は、簡単に死を選びよる」

老人がそう言い終わると面倒くさそうな顔で、運ばれてきた酒のコップを手に取った。

「なんか、めんどくさそうだな。苦手なんだよ、心理戦ってやつは……」

「なら、諦める事じゃな」

「クソ、爺! 仕事だっていってるだろ? やるしかねぇの!」

男は、そう叫んで、酒を煽ると、ポケットから金貨を3枚……円卓の上に置いた。

「情報料、ちょっと多目だ。まあ、やるだけやってみるよ」

老人は、そそくさと円卓に置かれた金貨を奪い取るように受け取るとニッコリと気味の悪い笑顔を浮かべる。男は、そんな老人の笑顔を見て、ゲンナリとした表情を浮かべると、そのまま酒場を出て行くのだった。

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