第11話 決意
「つまり本条さんは、あのガス漏れ事件で大切な方が亡くなったのは華子さんのせい、そして自分が今幻覚を見て、学校で孤立しているのも華子さんのせいだと、そう考えているのですね?」
全てを聞き終えた女カウンセラーが語った一言に、私は深く落胆し、小さくだけ頷いた。そうです、とだけ。まあ、誰も信じられまい。自分を呪って死んだあの女の霊に、いまだに囚われているなんて。あの女が夜ごと、髪の毛を天井から垂らしているなんてこと。誰も信じられるものか。
ふいに落ちる、沈黙。
女カウンセラーはこの後デートの約束でもあるのか、いら立たしげに時計を見やった。
「私、どうしたらいいんだと思います?」
私はこの沈黙に耐えられなくなって、叫ぶように問うた。
「まだ呪いは続いているんです。誰かが私を見張っているし、いつも声が聞こえるんです。死ね、死ねって。それが誰かの声なのかわかるようで、分からないんです。みんなに訊いても聞こえないっていうし。でも、華子はまだいるんです。あの杉の木の下で、私を呪っているんです!!」
私が思わず絶叫したところで、女カウンセラーは私に冷たい一瞥を投げた。
「話は分かりました。あなたの症状は重いようね。病院に行きましょう」
◆
私は大学のカウンセリング室を出て、一人でぼーっと高架橋の下を歩き出した。夕暮れどき、見上げる空が燃えている。真っ赤に、真っ赤に、憎悪に。あたりに人はいない。けれど、一人いる。真っ黒な髪を垂らした、白いワンピース姿の華子が立っている。
「華子、これで、満足だった?」
私は目の前に佇む華子に尋ねた。
「これで、満足よね? 私から家族を奪い、友も失って学校でも独りぼっちで!! 病気扱いされてっこれで私はあんたの呪いを受けきったわよ!! さぞや満足でしょう!!」
私が涙混じりに絶叫すると、華子が消えて、代わりにあたりが女の笑い声で満ちた。あはは、うふふ、あはは。それは知っている誰かの笑い声のようであり、また違うようだった。
「やめてっもうやめてよお!!」
私は我知らず悲鳴をあげ、その場に蹲った。だけれど笑い声はやまない。ずっと耳元に響いてくる。華子の呪いはやまない。まだ、あの杉の木の下にいて、私を呪っている。
私、このまま殺されるのかしら。いや。
あいつは私から家族を奪った。幸せも。
絶対許さない。許すものか。そうだ、あいつを殺そう。あいつも殺しに来るのだったら、こっちから迎えうてばいいんだ。
あの杉の木の下で、あいつを殺そう。
私は気が付いたら、奥多摩行の電車に乗り込み、携帯を開いていた。そしてブログにすべてを書いた。誰も見ていないはずのブログに、今までのこと、今日のカウンセリングのこと、そして今よりのことを。
【私が死んだら誰も真実を知らないままだと思って、ここに記します。私は今から奥多摩に戻って、あの神社で華子をもう一度殺します。じゃないと私の人生は、何のためにあったのか分からなくなってしまうから。今から出るから神社には夜に着くでしょう。ちょうどいいですね、幽霊が出る頃合いです】
私がブログにすべてを書き記した頃、奥多摩に電車は私を下した。
◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます