第7話 杉の音


「念はね、丑の刻参りが、呪いの儀式が失敗すると、飛び散るの。本当は、呪いの儀式を見られたら見た人を殺さなくてはいけないから、お母さんの儀式は失敗しているの。失敗したから、お母さんの負の念は飛び散っていった」

「するとどうなるの?」

 本殿の縁に腰かけながら、私が訊いた。

「そうするとね、念が飛び散って、呪いをかけた相手の周りが無差別に殺されていくの。宿主を失った念によってね」

「え……じゃあ、華子にも、飛び散ったってこと?」

「うん……私は軽い怪我で済んだけれど、父と姉はダメだった。父は交通事故で腕を失い、姉は、電車に轢かれて死体がめちゃくちゃになっちゃった」

私は絶句してしまった。華子の家のお姉さんは自殺したと聞いていたけれど、その裏にはそんな事情があったなんて……。呪いとは恐ろしいものだ。生まれてきた以上、何かを食い殺さねば生きていかれないのだ。それが呪い。

「ねえ、美佳ちゃん。私が怖いでしょう。本当は今すぐ、離れたいって思ってない?」

「ううん」

 私は自分でも、スムーズにこの言葉が出たことに驚いていた。確かに、華子は怖い。怖いけれど、どうしてなのだろう、この子だけは私を裏切らない自信がある。それは独りよがりの勝手な自信であった訳だが、この時の私には華子は最高の味方のように思われた。

「私、華子のこと嫌いじゃないよ」

 そう言ってはにかむと、華子は

「なにその上から」

と言いながら、目元をぬぐっていた。私の知る限り、華子はずっといじめられていた。それゆえか、こんな近くで誰か友達と座って話したことすらなかった、と言った。それが嬉しかったのだろう。彼女は本当ににこにこそいていた。私も満足感を得た。きつつきはまだ杉を穿っている。

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