第5話 縁の切れ目


 そこまで言われて、正直私もかちん、ときた。歪んでいる? へえ、そう思いながら私と付き合っていたんだ。私がいないと一人になっちゃうもんね。って、ダメダメ。そう思ったらいけない。けれど。

「いいよね美佳はっ可愛いからどんなことしても許されるもんね。人生最初から最後まで楽しいんだろうね。楽にすいすいいけるんだろうねー苦労知らずでね。いいなあ!」

 私もさすがに頭に血がのぼって、いい加減にしなよと叫びそうになる。しかし耐えた。ここには華子がいる。その事実が私に冷静さをもたらしてくれた。

「へえ、そう思ってたんだ。じゃあいいよ。今までありがとうね」

 お礼すら言って、私は立ち上がって教室を後にした。すたすたと歩いていく先は屋上だった。夕暮れが空というキャンパスに真っ赤に燃え盛っている。それを見上げながら、私は大きく息を吸った。そして叫んだ。

「ばっかやろー!!」

 くすくす、と声が聞こえて、振り向くと華子が立っていた。華子は相変わらず立ち尽くしていると不気味で、だけれど残照を受けてそれはそれは綺麗な顔をしていた。

「……聞こえた?」

「そりゃあもう、全部」

 華子がくす、とまた微笑して頷く。私は嘆息した。

「なんか変だよね、彩香。昔から馬鹿だったけれど、あんなことで逆上する子じゃなかったのに。苦労知らずだって。ひどくない?」

 私がいらだちを隠し切れずに漏らすと、華子も困ったようにはにかんだ。それから低い声音で。

「何か辛いことがあったのかもね。とてつもなく辛いことが」

「でもだからって言っていいことと悪いことがあるじゃんか」

「それもそうだね」

 華子の綺麗な横顔を一瞥し、私はまた空を見上げた。

「夕暮れってさ」

「うん」

「血の色を刷いたみたいじゃない」

 華子が珍しく空を仰ぐ。

「そうだね。太陽の絶唱みたいね。だったら月は死にゆくものたちへのレクエイムなのかもしれない」

 華子の言葉はいつも詩的で、物語じみていて、私を不安にさせる。私より現実性のないこの子は、将来どんな風に生き、どんな風に死んでいくのかしら。

「そうだ。美佳ちゃんさ」

「うん」

「今度、私んちの神社来てみない?」

夜中の二時に? 私が問うと、まさかと華子が笑った。

「土曜のお昼とかどうかな。少し、神社を一緒に見てまわれたらと思って」

 この一言に、私は彩香との縁が切れていく音を聞いた気がした。そして私は、別な縁を結んでいく。私は答えた。

「いいよ」

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