最終話 これは勘違いなんだから―!!!!

起きあがろうとしたら、思いっきり押さえつけられた。

細く見えるくせに、意外と力、強い。

よく見たら結構腕、筋肉付いてる。

着やせするタイプなんだろうか。


「はーい、おとなしくしてくださいねー。

冗談ですよ、なるべく痛くないように麻酔してあげますから」


「……」


涙目で睨みつけると、余裕な顔してた。

というか、あきらかに喜んでる。

変態ドS眼鏡!!


「小学生でも我慢できること、できないんですか?」


「……」


莫迦にしたようにそんなこと云われると、おとなしくなるしかない。


「じゃあ、麻酔しますねー」


仕方なく、椅子に身体を預けて口を開ける。


ちくっ、どころか容赦なくぶすっとささった針に泣きそうになった。

しかも一回だけじゃなくて何度も。


「あーあ。

泣きそうな顔して。

可愛いね」


麻酔の注射が終わると、なぜか和久井先生はゴム手袋とマスクをはずした。

間近に見える、口元のほくろ。


「リラックス、リラックス。

あとはもう、痛いことなんてないから」


髪を撫でる手が気持ちよくて、落ち着いていく。


「ん?」


見上げると、レンズ越しにあった目が優しく笑った。


「そろそろ麻酔、効いてきたかな」


軽く私のあたまをぽんぽんすると、和久井先生は椅子を立ってどこかにいってしまった。

戻ってきたときには手袋とマスクを再び装着してたから、手を洗いに行ってたのかな。


「口、開けて」


比較的素直に口を開けると、器具をつっこまれた。

一番奥の親知らずだから、ずっと大きく口を開けてるのは疲れたけど、和久井先生の腕はいいのか、ぜんぜん痛くなく歯は抜けた。


「がんばったご褒美」


脱脂綿噛んで血が止まるのを待ってる私に、マスクをはずすと和久井先生はおでこに口付けしてきた。


「……んんー!」


「ん?

治療が全部終わるまで、こっちへのキスはお預けだよ?」


長い指で私の唇をちょんちょんすると、楽しそうに和久井先生が笑う。


……滅茶苦茶顔が熱い。

おかげで血がどばって出た気がする。

どきどきと早い心臓の鼓動。


いや、これはだいっきらいな歯医者にいるからで。


吊り橋効果なんだから、勘違いするな、私ー!!!!!




【終】

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大っ嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡! 霧内杳@めがじょ @kiriuti-haruka

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