6.絶対、変態だって。

土曜日。

クッションを抱きしめて時計を睨む。


……そろそろ出ないと間に合わない。

でも、行きたくない。


くすり、レンズの向こう、わずかに笑う瞳。


思い出すのは、それ。


きっと行ったら、あのドSに、超楽しそうに滅茶苦茶痛く、抜かれるに違いない。

それがわかってるのに行きたい奴なんているんだろうか?

いや、いるわけない。


それにあれだよ、もう、痛くないし。

行かなくていいんじゃないかなー?

 

~♪~♪

 

うだうだ悩んでたら鳴り出した携帯を見ると、歯医者から。

一瞬悩んで通話ボタンをタップ。

案の定、予約時間を過ぎてるけどって電話。


「あ、急用、できちゃって。

……次、ですか?

えっと、しばらく忙しくて、予定が立たなくて」


しどろもどろに云い訳してると、電話の向こうで誰かが受付嬢の声を遮る。

代わったのは……例の、歯科医。


『都築さん?

いまは痛くないかもしれないですけど、すぐにまた、痛み出しますよ。

今日、何時でもいいですからいらっしゃい』

 

というか、なんでわざわざ歯科医が出る?

暇なのか、おまえは。


「あ、でも、診療時間中には行けないですし、はい」


『……ちっ』

 

え、いま、舌打ちした?

電話越しだから聞こえてないと思ってるのかもしれませんが。

しっかり聞こえましたけど。


『何時でもいいって云ったでしょ?』


「でも、無理なもんは無理なので」


『じゃあ、明日は』

 

そこまでして、人の歯、抜きたいか!?

抜くあんたは痛くないだろうし、楽しいのかもしれないけど。

こっちは死ぬほど怖いんだって!


「明日も無理なので。

はい」


『じゃあ……』


「明後日も明明後日も、しばらく忙しくて無理なので。

行けるようになったら連絡します。

じゃ」


返事を待たずに通話終了。


歯を抜く患者なんてそうそう珍しくないだろうに。

それとも、ひとりでも逃がしたくなくて、毎回あんなふうにやってるんだろうか?

だとしたら……完璧な変態だ。

やっぱりあのマスクの下には不細工が隠されてるに違いない。

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