5.それって誰のこと?

予約のときに次回は一時間くらいかかるって云われて、断りそうになった。

仕方なく、仕事が休みの土曜日に予約を入れる。


どんよりと暗い気持ちで家に帰ると、千草からメッセージが入ってた。


“どうだった?

ちゃんと行った?”

 

小さい子並みに信用されてないよ。


“行ったけど。

抜かなきゃダメだって。

あと、痛くない治療とか、嘘。

痛かったもん”


“そうなの?

おかしいな。

でも、歯科医が若くてイケメンで優しい、って”

 

は? なにそれ。


“確かに若かったけど。

マスクマジックじゃない?

それにぜんぜん優しくなかったし”


そうだ、そうだ。

優しくなんてなかった。

無駄に痛いとこ、ツンツンされたし。

なんかそれで、喜んでるみたいだったし。


“優しくないどころかドSだった”


“ご愁傷様。

だからといって、もう行かないとかダメだからね。

最後まで治療すること”


“はいはい、わかりました”

 

既読が付いたことを確認して画面を閉じる。


……イケメン、あれが?


眼鏡の奥の瞳がわずかに笑ってたのを思い出し、とたんに顔が熱くなる。


……いやいや。

絶対マスクマジックだって。

あのマスクとったら、不細工なんだよ、きっと。

ドSで不細工って最悪じゃない?


さんざんひとりで文句を云ったものの。

腕は確かなのか、その夜から歯は痛まなかった。

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