4.痛い! 痛いから!!

診療の椅子に座って、衛生士さんが器具をがちゃがちゃと準備する音も、置かれたコップにじゃーっと水が入る音も、ドナドナを盛り上げてくださいます。


「お待たせしました、都築さん」


「ひゃいっ」


右斜め後ろからかけられた声に飛び上がりそうになった。

その人は椅子を引き寄せて私の横に座ると、バインダーを確認してる。


「右の奥歯が痛む、と。

いつからですか?」


「い、一週間くらい前からです」


ばくばく、ばくばく。


早い心臓の音。

ぎゅっと握った手のひらは、じっとりと汗ばんでる。


「じゃあ、ちょっと診てみますね。

……倒しまーす」


椅子が徐々に倒れていくにつれて、歯科医の顔が見えてくる。


……あれ?

思ってたより、若い。

黒縁の眼鏡のせい、かな。


完全に椅子が倒れ、歯科医の、レンズの奥の瞳と目があった。


……くすり。


ん?

あれ?

いま、笑われなかったですか?


「口、開けてください」


「……」


こわごわ口を開けると、器具をつっこまれた。


「んー、結構腫れてますね。

痛かったでしょう、これ」


「……! ……!」


いや、わかってるんならツンツンしないでください!!


「レントゲン撮ってみないとはっきりとは云えないですが、抜かないとダメでしょうね」


「……! ……!」


わかった、わかりましたから、ツンツンしないで!!


「じゃあ、起こしまーす。

一度口、すすいでください」


口をすすぎながら、涙目で睨みつける。

でも、ぜんぜん効果がないっていうか、マスクのせいでなに考えてるかわかんないっていうか。


……いや、わずかに目が笑ってる気がするから、きっとマスクの下の口は、にやにや莫迦にしたように笑ってるに違いない。


「じゃあ、レントゲンを撮りますので」


衛生士さんに連れられてレントゲン室に入り、レントゲンを撮る。

戻ってきて少しすると、またあの歯科医師がきた。


「やっぱり抜かないとダメですね」


抜くんですか、やっぱり。


はぁ。


きっと痛いんだろうな……。

逃げていいですか?


「今日はとりあえず、痛くないように処置しておきますので、次回、抜きましょう」


あの、なんか嬉しそうなのはなんででしょうか?


また椅子を倒されて、口を開ける。


処置は案外痛くなくてほっとした。

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