3.ドナドナ~。

仕事が終わり、千草の無言のプレッシャーに、重い足を引きずって駅前の歯医者に向かう。

トンカツ屋の階段を上がって二階。


「こんにちはー」


受付嬢の歯は眩しいくらいに真っ白で、さすがひかる歯科。


……とかいってる場合じゃない。


「その。

今日、昼間、電話して。

えっと、初診、で」


「こちらにお名前と、保険証は今日、お持ちですか?」


「あ、はい」


ごそごそとバッグの中から財布を探しだし、保険証を出す。

挙動不審な私の行動にも動じない受付嬢、さすがプロだ。


「ありがとうございます。

では、こちらにご記入お願いできますか」


「あ、はい」


バインダーに挟まれた問診票とボールペンを受け取り、近くのソファーに座る。

予約制だからか、待ってる人はほとんどいない。

全部埋めて、受付嬢に渡す。


「ありがとうございます。

では、しばらくお待ちください」


「はい」


ソファーに座ってる段階で心臓がばくばくいってる。

診察室から響く、キュィーンって機械音だけでびくりと肩が跳ねる。


「都築さーん」


「ひゃぁっ」


うっ、奇声を発してしまった。


「……?

都築さん、診察室にどうぞ」


「……はい」


ドナドナが頭の中でヘビーローテーション。

ええ、市場に連れて行かれる子牛の気分です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る