2.行かなきゃダメですか?

あや、最近、人相悪いよ?」


同僚の千草に昼食に誘われたものの、断ると注意された。


「あー、えと。

……ごめん」


確かに、そうかもしれない。

痛み止めを飲んでたって、鈍い痛みがずっと続いてるから。

それで不機嫌だし。


「なんかあったの?

話、聞くよ?

だからランチ、いこ?」


「あー、あのね?」


千草の気遣いは嬉しいが。

ランチは、無理。


「どうしたの?」


首を傾げる千草は大変可愛らしい。

いつもの私なら抱きついちゃうところだけど。

今日はそんな気分ではない。


「えーっと。

……歯が、痛くて」


「虫歯?」


「……うん」


もう一週間ほど放置しているが、痛みは治まるどころかますます酷くなっていく。

ここ二日くらいはそのせいで、よく眠れてないし。


「歯医者、行ってきなよ」


「……歯医者、嫌い」


「子供じゃないんだから!!」


……怒られた。

でも、歯医者、嫌いなんだもん。

だから、一週間も我慢してたんだし。


「虫歯は病院行かなきゃ治んないんだからね。

……そだ。

駅前の歯医者、痛みの少ない治療するんだって聞いたことあるよ。

行ってくれば?」


「……やだ」


「文!」


ううっ。

千草、怖い。


しぶしぶ携帯を出して検索。

ひかる歯科ってなにかのギャグですか?


「……やっぱり行かなきゃ、ダメ?」


「いますぐ、引っ張って連れて行こうか?」


さすがにそれは恥ずかしい。


意を決して電話をかける。


仕事が終わって行くことを告げると、予約は取れないが、大丈夫だと返ってきた。


「じゃあ、今日、終わってから行ってきマス」


「はい、行ってらっしゃい。

お昼は歯に響かないように、ゼリーかなんか買ってきてあげる」


「……ありがとう」


いい子いい子ってあたまを撫でられて、少しだけ機嫌が直っていたものの、いつもと立場が逆転していることに気が付いて、さらに落ち込んだ。

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