第23話 ごめんね、怖い思いをさせて

 遠目にだけどようやく見つけた街道にひとしきり喜んでから、僕たちは橋に近づいていくと丁度そこに荷馬車や幌馬車などで出来た集団が橋を渡ろうとしていた。距離的に僕たちが辿り付く前に通り過ぎて離れて行ってしまうだろう。僕たちのステータスなら走れば追いつけるだろうけど無駄に警戒されたくないし、乗せて貰うお金も無い。


 見える範囲で荷馬車が3台位あるから恐らく行商人の集団だと予想が出来た。それなら彼らが向かう先には町か村があるはずだ。


「見つけたのが大きな街道みたいで助かったね。彼らが向かう先に村か町があると思うよ」

「そうですね、では彼らの向かう方向へ行かれますか?」

「うん、とりあえず橋へ行って反対方向に町や村が見えなかったらそうするつもり」

「畏まりました」


 それから僕たちは橋へ向かって歩き出して直ぐに馬の鳴き声が聞こえたと思ったら、行商の集団が橋の上で立ち往生していた。近づきながら何かあったのかなと思っていたら、段々喧噪や金属同士をぶつけている音などが聞こえてきた。


「どうやら戦闘が行われているようですね」

「そうみたい。多分盗賊とかに襲われているのかも。・・・よし、とりあえず見に行ってみて助勢が必要そうなら助けよう」

「畏まりました」


 僕たちは走り出し、橋の麓に着いたら一気に土手を駆け上がって街道に出た。街道では盗賊たちと護衛の冒険者が戦闘を行っていた。どうやら盗賊たちの方が多勢で、冒険者たちは苦戦しているようだ。


「なんだぁ?」


 盗賊側で比較的後ろから傍観している集団に目を付けられたようで、僕たちの方へ近寄って来た。


「ギャハハハ!!もしかしてお前ら救援にでも来たつもりか?」

「そのつもりだけど?」


 集団の中から真ん中に陣取っていた集団の中でも装備が良さそうな、でも頭は悪そうな人が両刃の剣を肩に担ぎながら前に出て来た。


「ほう、ならやってみろよ。その竹槍でな・・・ぶふっ、ギャハハハ!」


 あ、そういえばそうだった。でもまぁ、竹槍でも多分何とかなるかな。それにしてもこう頭の悪い笑い方って何で聞く方にとっては不愉快な気持ちになるんだろう。


『リナ、聞こえる?』

『はい、なんでしょうか』


 天界に居るハナとは念話で喋ってたけど、リナとは念話を試していなかったから通じるか分からなかったけど、どうやら通じるようだ。


『僕がこの頭の悪そうなのを片付けた後、試しに威圧を使ってみようと思う。怯む程度だったら、悪いけど片付けてくれる?』

『畏まりました。お任せ下さい』


 僕たちがこっそり念話で打ち合わせしている間も盗賊たちはゲラゲラと笑っていた。全然僕たちを脅威だと思っていないのだろう。まぁ、気持ちは分かる。竹槍だし。


「お、そっちのメイドは中々の上玉じゃねーか。お前には勿体ねーから今日から俺がご主人様な」

「お、マジだ。頭~、俺たちにも分け前くれるんすよね?」

「おう。まぁ俺が飽きてからだけどな!ギャハハハ!」


 リナのことを慰み者にする相談をし始めたところで、僕も段々イライラしてきたので、そろそろ攻撃することにした。それにあの男が盗賊の頭領だったら、あれから始末したら威圧も通じやすくなるかも知れない。


「じゃあ、お言葉に甘えてこの竹槍で攻撃しますね」

「ハッ!やれるもんならやってみろよ!」


 盗賊の頭領からも合意されたし、僕は構えていた竹槍を逆手に持ち直して頭領の口元へ投げつけた。


「アガッ!」


 狙い通り竹槍は相手の口に吸い込まれるように飛んでいき、口を裂いて頭を貫通したところで節にでも引っかかったのか、盗賊の頭領を突き刺したまま10mほど飛んでから落下した。


「「「は?」」」


 取り巻きだった盗賊たちは今起きた事が理解出来ないのか、呆然と僕と自分たちの頭領を見比べていた。


「てっ、てめぇ!」


 やっと状況を理解出来たのか一人が武器に手を掛けると他の盗賊も武器を構えた。僕はそんな盗賊たちを睨み付けながら、今度は全力の威圧スキルを発動させた。


「ひっ・・・」


 盗賊たちに向けて放った威圧が通じたようで、こちらに武器を向けていた盗賊たち全員が悲鳴を上げ失禁しながら失神した。


「あ、威圧が通じた」

「そのようですね」


 他人事のように失神した盗賊たちを見ていたら、行商の荷馬車の方からバタバタと何かが倒れる音がした。何事だろうと目を向けると、盗賊や冒険者、それに御者と思われる人が地面や荷車にもたれ掛かるようにして倒れていた。


「あ・・・あれ?やり過ぎた?」

「そのようですね」

「・・・まぁ、今は気にするのは止めよう。残りの盗賊たちの片付けを手伝おうか」

「畏まりました」


 僕たちは失神した盗賊たちから剣を奪ってから、その後何事かと冒険者と盗賊たちがびっくりしているところに割り込んで盗賊たちを片付けていった。


「いやああ、離してーーー!」


 何人かリナと盗賊を屠っていたら叫び声が聞こえ、そちらへ目を向けると幌馬車から一人の女性が盗賊に腕を引かれて降ろされそうになっていた。


「リナ、あの子を助けるよ!」

「分かりました」


 僕たちは全速力で近寄り、僕は女性を掴んでいた盗賊の腕を切り落とし、リナは首を切り落とした。


「ひっ!」


 切り落とした腕にまだ掴まれたままだった女性は、悲鳴を上げながら腕を振って払い落とした。しまった、助けた後の結果にまで頭が回らなかった。トラウマとかにならなければいいんだけど。


「ごめんね、怖い思いをさせて」


 その女性はフルフルと顔を振っていたけど、やっぱり余程怖かったのか顔を青くしていた。僕はとりあえず、今は周りの人たちに何とかしてもおうと声を掛けた。


「まだ盗賊が残ってるから僕たちは行くので、みなさんこの子のことお願いします」


 僕たちはそれから幌馬車の周りに居た盗賊たちを切り捨て、他の戦っている場所に救援へ向かったりして、ようやく戦闘は終わりを告げた。今は最初に気絶させた盗賊たちが起きる前に、行商人に貰った縄で縛り上げているところだった。


 冒険者たちと一緒に盗賊を縛り上げ続けて、今はリナにいやらしい目を向けて分け前くれとか言ってた盗賊を縛り上げていた。他の盗賊たちは普通に後ろ手に手首を縛ったけど、こいつは海老反りになるように手首を縛った後に更に身体を反らして手足を縛り上げた。暫くこのまま放置しておこう。

 その作業が終わった頃、行商の人と思われる人と数人の冒険者が僕たちの方へ近寄って着た。


「加勢してくれてありがとう。お陰で助かったよ」

「いえ、たまたま近くを通りかかったものですから。ご迷惑もお掛けしましたし」


 行商の人が労いの言葉をかけてくれたので、僕はそう返答した。実際にたまたま見つけただけだしね。それに威圧で冒険者も巻き込んでしまったから、そのお詫びに頑張っただけだった。


「あの威圧は凄かったな、一瞬何事かと思ったぜ」

「だなぁ。大型魔獣でもあんな威圧は出せないんじゃねーか?」


 付き添いの冒険者たちが僕の威圧に関してそんなことを言っていた。まぁ、今思えばリナが僕の威圧に怯まなかったのはハナの威圧に慣れていたからだろうけど、地上の人にとってはLv1でも魔王の威圧だったんだろうなぁ。今度は威圧も範囲や強さとかも特訓しないとダメだな。


「ご迷惑をお掛けしてすみません。ちょっとカッとなってしまって、いつも以上に威圧のスキルの効果が出たみたいです」

「おー気にするなよ。その後お前さんたちが気絶した奴らの代わりに戦ってくれてたのは知ってっからさ!」

「そうそう、助かったぜ。そっちのメイドさんも滅茶苦茶つえーな」

「恐縮です」


 あまり気にされていないようでこっちも助かった。とりあえず誤魔化したけど、これ以上威圧に関しての話題は避けたいので、別の話題を振ることにした。


「それでこの盗賊たちはどうします?」

「あぁ、生き残った盗賊たちはこのまま街へ連行して役人に突き出します。それに恐らく冒険者ギルドにこの盗賊たちの討伐依頼もあるでしょうから、そちらもクエスト完了の報酬を頂いて冒険者の方々とあなた方で分けて頂きます」

「僕たち割り込んだのに報酬の分け前貰って良いんですか?」

「構わねーよ!というか、加勢に来てくれなきゃヘタしたら全滅してたかもしれねーしなぁ」


 どうやら本当に感謝されているらしく、僕はその申し出を素直に受け取った。お金が全くなかったから正直凄く助かる。


「それでですな、今回の戦闘で冒険者にも被害が出てしまって、良ければこのまま街まで護衛に加わっては頂けないですかな。勿論報酬もお出ししますよ」

「勿論良いですよ、これからよろしくお願いします」


 願ったり叶ったりだったので即座に返答した。自己紹介をして3人の名前も教えて貰った。行商の人がジュニアスさん、冒険者の二人がアラディンさんとザドクさんだ。


 ジュニアスさんと報酬額の取り決めをしてから、死体の処理や装備品の回収などを行ったあと僕たちは行商の集団に加わって街へ向かうことになった。

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