第4話 じゃあ、行ってくる

 彼はブラートと見た目が全然違うから気がつきようもなかった。さっきまでお互い角とか生えてたしね。今はどちらも人間だ。何度も転生や召喚をしたけど、職業での出来事をリナさん以外と話す機会なんて今までなかったので、感情が抑制されているとはいえ、少し楽しくなってきた。


「気にしないでください。実は僕もあっさりやられましたし」

「そうか、そうだな」


 お互い苦笑し合い、そして手を差し出し握手をする。さっきまで上司部下だったとはいえ、共に戦った戦友なのだ。


「だが、こうして再開出来たことを嬉しく思う。魔王様」

「魔王様は止めてくださいよ。僕は神雅刀。マサトが名前でカナエが苗字ね」

「そうか?じゃあ、俺は・・・いや、俺はブラートだ」


 彼は自分の名前を言わず魔王軍幹部だったときの名前を言った。つまり前世の時の名前か何かにわだかまりがあるのだろう。


「それにしても専属付きか。さすが魔王になるだけはあるな、マサト」

「何がさすがかは分からないけどね。ブラートやみんなと同じかそれ以上にやらかしてしまった結果だよ」


 ここで並んでいる人達は天界が許容できない犯罪に手を染めてしまった人しか居ない。軽犯罪レベルならここに来る前に人の世やそれぞれの国で罰せられるからだ。もちろん重犯罪も国に罰せられるが、死刑などでは罪数をプラマイゼロに出来ない人達がここに並ぶことになる。


「ということは、マサト。もしかしたら見た目若いが実は俺よりも年上か?」

「お互い死んでるから年上も年下もないと思うけどね。でも、そうですね。ここに来てずいぶん経つかな。リナさん、どれ位か分かりますか?」

「そうですね、マサトさんがこちらに来られてから約1600年ほどになりますね」

「せ、1600年?一体何をやらかしたらそれだけの罪数になるんだ?いや、まだ列に並んでるということはまだ罪数が残っているということか」


 ブラートは目を丸くし、呆然としていた。ブラートには僕的には懺悔を込めて前世のことを言っても良いかなと思っている。リナさんに顔を向けると、こくりとうなずいてくれた。


「僕は懺悔としてブラートにとって列を待つ間の暇つぶしにでもなってくれるのならブラートになら前世のこと言っても良いよ」

「俺の暇つぶしってだけなら遠慮していたが、マサトの懺悔になるなら聞くさ」


 ブラートは肩をすくめながら、話を促してきた。そして僕はブラートの順番があと3人ほどになるまでに、かなり省略したけれど前世のあらましを伝えることが出来た。


「正直に言おう。確かにマサトがやらかしたことは大変な結果を生んだとは思う。だが勝手に召喚され、さらには脅し足された上でってことなら俺はそこまでの罪数ではないんじゃないかと思う」


 ブラートは聞き終えると、僕にそう言った。リナさんは神様の下した判決に異議を申し立てるような物言いに眉をピクリと動かしていたが。


「だが、その結果マサトの配下として仕えることが出来たんだ。マサトはどう思っているかは知らないが、俺は良かったと思っている」

「ブラート・・・」


 ブラートはフッと笑顔を浮かべたあと、そっぽを向きしかめ頭をガシガシ掻き始める。急にどうしたんだろう。


「マサトに比べたらありふれたことかもしれないが、俺の罪は俺の愛した女が酷い目をみたからその復讐をしただけだ」


 そっぽを向きながらブラートは自分の罪を独白した。僕の懺悔に付き合ってくれたのだろう。こんないい人がいつまでもここに居て良いわけが無い。恐らく罪数も残り少ないのだろうと、僕はそう思った。


「そんなことないよ、ブラート。僕は自分の招いた結果に嘆くことしか出来なかった。でもブラートはカッコイイと思う。頑張ったね」


 僕がそう言うと、ブラートは少し目を潤ませながら、ありがとうと頭を下げた。そんなやり取りをしている間にブラートの順番がやってきた。


「さて、もういっちょ頑張るか」


 そういうと肩をグルグル回した後カジノスロットのレバーにブラートは手を当てると、液晶表示板にブラートの罪数のポイントが表示された。


【罪数ポイント:44,846pt】


 なるほど、こういう風に表示されるのか。そういえば、他の人の罪数ポイントとかって見たことがなかったけど、見ても良いのかな。ふと疑問に思ってリナさんに確認してみることにした。


「スロットをされる方が了承されるのであれば問題ありません」

「俺はマサトなら見られても平気だぞ」


 ブラートはニヤリと笑った後、グッとレバーを下ろした。スロットのドラムがグルグル回り景気の良い効果音を鳴らしながら停止した。




[踊り子][美女 19歳][付与アイテム:ちょっぴりセクシーな踊り子の衣装]




 ・・・何て声を掛ければ良いのだろう。表示された職業などを見て僕は言葉を失った。しかし、液晶表示板を見てみるとそこにはこう表示されていた。


【罪数ポイント:44,846pt】

【達成ポイント:4,000pt】

【達成後の残罪数ポイント:0pt】


「ブラート、良かったね。今回の職を達成したら無事禊ぎを終えられるよ」

「ああ、そうだな。その通りだ」


 少し遠い目をしていたブラートは笑みを浮かべた。確かに何でこんな職業をと思いはしたが、これもブラートが抱えている罪に対する罰の一部なのだろう。そこは諦めて新しい人生を迎えるためにも頑張って貰いたい。そしてブラートの立っている床に魔法陣が浮かび上がり、彼を召喚する準備が整った。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、頑張って」


 僕は軽く手を振りながらブラートを見送ることにした。リナさんも軽くお辞儀をしていた。


「叶うのであれば、今度もマサトの仲間でありたいな」


 そう言い残すと彼は魔法陣の光に包まれて転送されていった。僕もそう願うよ。少なくとも敵対だけは避けたいと叶うか分からないけど願うばかりだった。

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