第3話 職業斡旋所
前世でカジノに行ったことがないので地球のカジノと同じかと言われたら、どうだろう?としか言いようがないけれど、少なくとも順番待ちしている列は無いとは思う。
あと人間や魔族、エルフなど亜人達が並んでいるし。でも、美しい彫刻が彫られた大理石で出来た壁や天井、煌びやかなシャンデリア、レッドカーペットとかはそれらしい雰囲気を出していた。
だけど、談話スペースなどテーブルなどは一切無く、当然テーブルの上にあるはずの料理も無く、シャンパンを乗せたトレイを片手に歩くバニーさんなども居ない。バニーさん自体はそこそこ居るけれど。僕の隣とか。
ちなみに、横に付いてくれているバニーさんは僕を含めても数人しか居ない。なぜかというと凶悪犯罪者や、僕みたいに世界を巻き込んでやらかした人にしか専属が付かないからだった。罪数が沢山あるため早々に罪数を減らすことが出来ないので、長期間の対応を行うため専属バニーさんが付く。専属の付かない人はベッドのある部屋からここへ案内されたら終わりらしい。
「マサトさん、あちらの列が空いているので行きましょう」
リナさんが手のひらで空いている列を指し僕を誘導する。ここではエスコートみたいなこともなく、残念ながら腕を組んでくれたりはしない。促されるままリナさんと移動し列に加わり、よく見たらカジノスロットが以前見た機種と変わっていることに気がついた。
「リナさん、僕が以前並んだときとカジノスロットのデザインが変わった気がするんだけど」
「ああ、ええ。その通りです。200年前位に一新されました。そうですね、マサトさんが魔王として召喚された後に導入されたので、この機種は初めてご覧になるかと」
「へぇ。デザイン以外でも何か変わったの?」
「そうですね。みなさんにご紹介する職業や性別、召喚の時は名前や年齢などは前と特に変わっていませんね。一番変わったことと言えば、レバーに触れたときに罪数ポイントを画面に表示し、レバーを引いた後に出た結果を達成した場合どれだけのポイントが貰え、差し引いた残りの罪数のポイントなども表示されます」
なるほど、今までは口頭でしか確認出来なかった事が一目で分かるようになったんだ。僕も最初の頃は確認したりしていたけど、あまりにも気が遠くなるくらいの罪数だったので、途中から聞くことがなくなってしまった。
丁度良いので今回どれ位達成しているか確認してみよう。まだ半分とかだったら凹みそうだけど。
「ハイテクになったんだねぇ」
「ええ、ですが導入するに至った原因があります。他の
あちゃー、それは大変だ。いくら罪人だとしても、規定以上の禊ぎをすれば転生する時期も遅れるし、職業によっては無駄に理不尽な目に余計に合わされていることだってあるんだ。
「クレームになったりしなかったの?」
「はい、と言いますか、知っての通りここではみなさんの感情などは抑えられていますので、そういう事態にはなりません」
そう、この天界では罪人は怒ったり嘆いたりなど感情の爆発が起きたりせず、常に心がフラットな状態なのだ。それはそうだろう。起きたらバニーさんが横に居て罪人が性犯罪者だったら間違いなく問題が起きている。
僕だっていかがわしい気持ちをリナさんにぶつけているかもしれない。そんな勇気があるとは思えないけど。
「ですが、だからといってそのまま転生という訳には行きませんので、謝罪を込めて多めに行ってしまった禊ぎの分は転生したあと特典として能力の向上や特殊能力などに割り振ることになりました」
「なるほど、人生を良い方向に向きやすくしたんですね」
そうか、それで割に合ってるかは本人次第だとは思うけど、少しでも有利になっていると良いな。
「ああ、思い出しました。その転生された方がマサトさんに前回トドメを刺したマルギットさんですね」
「えっ、ほんとに?・・・あれ?カジノスロット導入時期と今じゃ200年違うけど、どうして?」
「はい、マサトさんが魔王として君臨し、おおよそ人間と戦争になるであろう時期を見計らって、勇者の一員になってくれたら良いなー位のつもりで転生されたはずです。迷惑ついでと言ったら失礼になりますが、転生時期の遅れも加味した特典が付与されています。もちろん、特典も転生時期もマルギットさんと協議した上でのことです」
「あぁ、だからあんなに強かったのか・・・」
オーバーした禊ぎプラス、転生時期の遅延も加えての結果があの常識外れな強さだったのか。正直マルギットさんだけでも、自分は倒されていた気がしないでもない。何故それだけ特典が付いていながら、おねえになってしまったのかは謎のままだけど。
「お前さん、前回の職業は魔王をしていたのか?」
「え?」
リナさんとカジノスロットとマルギットさんの話をしていると、僕の前に並んでいる厳つい顔の男性が喋りかけてきた。話しかけてきた男性は、マルギットさんに比べたら格段落ちるけど、それでも筋肉質でがっしりした身体と長身で僕を見下ろしていた。僕の感情がフラットじゃなければ、粗相をしていた可能性を否定出来ないくらい強面だった。
「どうなんだい?」
「ええ、そうです。魔王をしていました」
本来であれば軽々しく自分の職業を言うと、もし以前敵対していた人だった場合に恨み辛みなどで喧嘩になるだろうけど、ここでは感情が抑制されるので淡々と話すことくらいしか出来ず、スロットを引いて転生または召喚された後はここでのことを忘れるため何も問題が起きない。ようは単なる暇つぶしの話題振りにしかならないのだった。
ちらりと、目の前の男性がリナさんに目で確認をすると、リナさんはこくりと頷いた。彼は目を瞑り、こちらに軽く頭を下げた。
「いくら転生して運がないとはいえ、あっさりやられちまって済まなかったな」
「え?ということは、魔王軍に居た方ですか?」
「・・・あぁ、自分は魔王軍幹部のブラート・・・をやっていた」
「ええ?ブラートってブラート = ボルドィレフ?側近の?」
「ああ」
まさかの自分の配下だった人だった。
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