第2話 未来へのチケット。
19時前…。遅いなぁ。
店で仕事してんのかなぁ?
もう晩ごはん作っちゃったけど。
とりあえずメールしとくかな。
─晩ごはん作っちゃったけど、遅くなる?─
なんか新婚さんみたい。嬉しい。
まさか私がこんなこと言うようになるなんて、去年まではまったく想像もつかなかった。
こんなことを言える相手が出来たことにも驚いてしまう。
蒼音が私にすべてをくれた。
ふふふ。 ふふふ。
顔がにやけてしまう。
勝手に鍵を開けて男の子の部屋に入って、ごはんしたり、洗濯したり、そうじしたり…
これって、もう、お嫁さんじゃない?
もぉぉ。たまんない。
大好きだった恋愛ものの小説みたい。
ちっちゃい頃からずっとずっと憧れてたの。
そのうち私の身体に彼のにおいが染みついて……あぁぁだめ。鼻血でそう。
落ちつきなさい水意。ふぅ。ふぅ。
「なににやにやしてんの?」
「はっ?! 」
「わっ‼」
「──☆£%§!」
突然耳元に声をかけられて振り向いたら蒼音の顔にキスしてしまった。
えぇぇぇ?!
急いで離れてぺたんと座る。というか、腰が抜けた。
「…ごっ ごめんなさい…。」
顔をあげられない…。
蒼音、今どんな顔してるんだろう……。
近づいて来た。
うわー。
「……みい?顔あげて?」
仕方なく蒼音の顔を見上げる。蒼音も真っ赤。
「不意にいいもん貰っちゃったな。さんきゅ。……でも、それは俺からしないと。」
え…。いいもんって私のキス?
蒼音の手が伸びて来た。
私の顔に触る。え?
───‼
キス……してくれた…。
口に。軽く…。
蒼音がにっこり笑って
「貰った。さんきゅ。」
とだけ言って寝室に向かった。
私は固まった。
****************
「ねぇ都。蒼音がね。あいつのとこ行きたいって。ひとりで。」
「……そっか。もうそんな時期だねー。で、どうするの?」
「行ってこいって言うしかないでしょ?蒼音が、自分の足で、ひとりで行きたいって言うんだから…。夏休みの間にあちこち旅して回りたいって。はっきりと掴まえたいんだって。自分を。」
「……大きくなったねぇ。ほんとに……。一日中びーびー泣いてたあの夏が懐かしいわ…。」
「恭平んとこの旅行もキャンセルしなきゃね……。でもあたしたちは参加するよ? 蒼音の分まで元取らなきゃね!」
「ったく…タダでしょうに…。ま、私もそれは賛成よ。楽しまなきゃ。
しっかしほんとにあいつの血だね? 1年だっけ?あんたと全国各地旅して回ってたのって。……蒼音帰って来なかったりして?」
「帰ってくるわよ。絶対。きっと見違えるようにでっかくなってさ。」
「葵も空も置いてけぼりだねぇ。男はおっきい方が良い…かぁ。楽しみだね。歩いてくの?電車の旅?」
「いや。バイクだって。明日から中免取りに行くから学校に申請する許可証書かされたよ。」
「そりゃまたあんたたちと丸っきり一緒じゃん。はは。ほんっとに血だねぇ。ますます葵と空は置いてけぼりだ。」
「バイクももう先月の頭に予約してたんだってさ。もう届いてるらしいよ。あいつが乗ってたのと同じヤツの新しいヴァージョンだって。色はメタルブルー。限定モデルでなかなかなかったって言ってた。蒼音らしいね。
葵とソフィは大丈夫だよ。
どう転んでも、あの二人は蒼音の家族だ。」
「そっかー。どんどんいい男になってくね。ほんと、みるみるうちに。」
「あいつのライダースジャケットくれって言うから渡しといたけど………それ見てさ…もぅ何だか胸がいっぱいになっちゃってさ…。」
「……おいで千冬。………あんたもよくここまで頑張ったね。あとはゆっくりと蒼音の背中を見守って行こうね。」
「……うん…。楽しみだ。」
****************
「腹へったー。メシ。してくれたんだろ?食べようぜ。」
そ 蒼音がケロっと着替えて出てきた…
わ 私は こ…こんなに、ど 動揺してるのに…どうしよう…ドキドキが止まんない。
「みい。メシー。」
「はっ…はいっ!」
耳元まで口をつけて来たから飛び上がった。
なんでキスしてくれたの…なんで…なんで…?
ぐるぐるぐるぐる回りながらスープを温める。
目が回りそう。
蒼音がテーブルに座って、なんか書いてるけどもぅそれどころじゃない。
蒼音のにおいが唇に残ってる。ブルーの香りがほのかに私の唇から流れる。
あぁぁぁ。身体が痺れてきた。
蒼音。蒼音。そればっかり。
「みい。フラフラしてるけど…大丈夫なのか?」
「ひゃい!」
私、今なんて?! なんて言ったの?
「……大丈夫? 熱とかあんじゃね?」
蒼音の顔が近づいて来る。
わっ わっ 近いー‼
おでことおでこをつけられてしまった!
こっ 腰にっ‼ 手っ!手がっ!
「……無さそうだけど…みいってメニエール症とかって関係あったりする? 調べたんだけどさ。難聴のこと。」
「なっ 無い! 私の耳は聴覚神経自体に障害が…。」
腰を両手で掴んでる!身体が引き寄せられてる!あぁぁ。
もぅ。蕩ける…。気が遠くなる!だめ!
「そうなんだ…。ごめんな。何にも出来なくて…。」
何言ってんの!あなたがぜんぶくれた!
あなたがこの気持ちもぜんぶくれたの‼
こんなに人を好きになれることも、こんな可愛い自分が私の中に居ることも、こんなに…こんなに……もぅ…言葉にならない…!
「…好き蒼音…大好きなの……大好き!あなたが大好きなの!!」
は?! 私何言った?!
えっ!今私なんて言ったの?
蒼音が困って……えぇぇぇ?!
テンパって告っちゃった?! 私!
どうしよう……どうし……
────?!
キス?!
長い……?!
私を探すように、抱きしめる彼の手が私の身体中を動く。
…だめ。今されたら…蕩けてしまう…。
「…ん……はぁ…んっ……」
声が、堪えられずに出てしまう。
彼のにおいが私を麻痺させる。
じんじんとお腹の内側から広がってくる痺れ。
彼の手が私の胸に触れた。
ゆっくりと壊れ物を触るように、そっと、そっと動く指。
その度に、熱いものがお腹からじんじんと滲み出してくるのが分かる。
頭がどうにかなりそう…。
気持ち…いい…。
「…ぁ……は……ぁ…んぁ…」
だめだ。身体中に心臓がいっぱいある。
彼が触る場所すべてに心臓がある。
足がガクガクして立っていられない。
息が苦しい。身体中がびくびくしてる。
気持ち良すぎて耐えられない。楽にして欲しい。
私の口からやらしい声が止められない。
出したくないけど出ちゃう。恥ずかしい。
でもこんなの無理。抑えられない。
キスが離れた時に、意思とは勝手に必死に彼に懇願してた。
「……はぁ…はぁ……お願い…はぁ…ちゃん…と …して…?…お願い…。ちゃんと…脱がして…欲しい…私…初めてだから…ぜんぶ… 蒼音にあげるから…お願い…。」
彼はまた優しくキスをしてくれた。
そしてベッドに私を抱いて行ってくれた。
****************
しちゃった……。
どうしよう。しちゃった…。
ちょっとの間気を失ってたみたい。
蒼音は…シャワーか。
蒼音が! 蒼音と!
しちゃった!
えぇぇぇ!嬉しいんですけど!
初めて心から好きになったひとに、
初めてをあげれたんだ!
あの小説みたい!
ちくちくする痛みがすごく嬉しい。
私の身体でちゃんと満足してくれたんだろうか…。
うわー。思い出したらめちゃくちゃ恥ずかしいよー。
私すごくえっちな声いっぱい出してた!
…だってほんとに死んじゃうかと思った…気持ち良すぎて。
わ。思い出したらまた…!
こ これは クセになっちゃうかも…。
えっちが好きな子の気持ち解った気がする…。
まだして欲しい。
はぁぁ。もう一回してくれないかなぁ…。
私。なんてえっちなの?
我慢しよ。
****************
「んでさ俺。夏休みの間、ここに居ないから。」
私がシャワーからあがって、ドライヤーで髪を乾かしてると、蒼音が今日一日どこに居たのかを耳元で話してくれた。
「え?どこ行くの?」
私はドライヤーを止めて、彼に耳を集中した。
「旅に出ようと思ってる。高校にあがる前から決めてたんだ。その為に、この高校を選んだ。公立だから安いし、何よりも、申請すればバイクの免許が取れるから。」
えぇぇ?! 旅に出るの?!
なんで?
「旅に出るって…行き先は?バイクって免許取ったの?」
「いや。明日から教習所通うことにした。今日はその手続きで家に帰ったり市役所行ったり教習所行ったりしてたんだ。
行き先は決めてないよ。
この自分の足で、色んな景色や土地を見たり、色んな空気を吸って、色んなひとに出逢って…。
この世界をぜんぶ見たいんだ。
俺を育ててくれたこの日本を何も知らないままで、世界に飛び出したくない。
だから俺はこの三年間で、世界に飛び出す力を溜めたいんだ。
いつか俺は必ず世界に出る。
昔、偉いじいさんと約束したんだ。
俺と一緒に世界を掴もうって。
これ、見て。」
蒼音が綺麗なゴールドのカードを見せた。
表面には英語で「Superior V.I.P Pass」と書かれてあるだけ。
「……何?これ。」
蒼音は微笑んで答えた。
「これはギャラクシーレコードの会長の家族だけが持つシークレットパス。これがあれば、今、全世界中を支配してるギャラクシーレコーズの系列会社すべての施設がフリーパスで利用出来る。
車もバスもタクシーすらフリーだ。スミス会長の家や別荘や車も使い放題。8年前、彼から貰った。契約したんだ。世界を掴もうぜって。」
……す…ごい…。
そんなに音楽に詳しくない私でも知ってる…世界最大のレーベル…。
その会長と、直接…契約…?
あなた…何者?
「……すご過ぎて…言葉に出来ないけど…蒼音?あなたはなんて……なんて大きなひとなの?びっくり…」
目を丸くする私を見て蒼音は軽くウィンクして笑った。
「だろ? 君の惚れた男は間違いないぜ?」
なんだか泣けてきた。
かっこいいなぁ。蒼音。
あなたに逢えて本当によかった。
本当に 本当に幸せよ? 分かるかな?
本当に幸せなの。私。
「…旅に連れてって。私も…。
私も一緒に連れてって。……今のままじゃあなたに追いつけない。
あなたは凄すぎる。私じゃあ釣り合いっこない。
あなたが世界に出た時に、あなたのそばで支えていたい。
あなたに見合う女になりたい。
あなたが疲れた時に、真っ直ぐ帰って来れる場所になりたい。
私も一緒に強くなりたい。
だから私にも、
あなたの景色を見せて。お願い。」
蒼音はうつ向いて、少しの間考えてるみたいだった。
荷物になる。
独りのほうが身軽だ。
しかも私は耳が不自由で、世間知らずで、何も誇れるものがない。
でも、あなたを想う気持ちは誰にも負けない。
葵ちゃんや空ちゃんにだって勝って見せる。
お願い。私を連れてって。
心の中で叫ぶ。
どうか彼に届きますようにと、何度も何度も。
やがて顔をあげた彼がくしゃっと笑った。
「みい。一緒に行ってくれる?」
私はぐしゃぐしゃに泣いて彼に抱きついた。
「はい。どこまでも。」
彼はずっとずっと
私の背中を撫でてくれた。
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