4章 Rock'n roll Gypsy ─それぞれの夏休み─

第1話 夏の始まり。


謹慎初日。


また学校休み。

しかも今度は二週間も。

謹慎あけて復帰しても、数えるほどだけ登校したらもう夏休み。

俺の学力大丈夫なのか?

あおいやみいが勉強を見てくれるって言ってるけど…


しまったなぁ……


俺はこの夏休みにどうしてもやりたいことがあった。

何より

それをするためにこの高校を選んだんだ。

そのために7月入ったらすぐに動き始めるつもりだった。


こんなことになったからなぁ……。


時間がもったいない。

よし。謹慎中だろうと知らねー。

やってしまおう。


俺はすぐに母ちゃんに電話した。


****************


「まぁたブルーノートは休みだぜー。信じらんない~。」


空が大きく嘆息して机に頬杖をついた。


「あいつは相変わらずだねー。不良よ不良。空ちゃんは近寄っちゃダメ。妊娠させられるから。」


美里が楽しげに箸を振り回す。

空はガバッと起き上がって


「妊娠?! 赤ちゃん産めるの?! すぐ行く! ぱんつ脱いで待ってろ~ブルーノート~!」


私は駆け出そうとした空の首根っこを掴んで、長いため息をつきながら言った。


「あたしのせいだもんね…。まぁ前回の入院も、元はと言えばあたしを守ろうとしたことだし……。」


美里がよしよししてくれる。

万由があたしのお弁当からだし巻きを盗み食いしながら言う。


「でもあれどうするの?…ん~おいち。 慰安旅行。カボ+の。」


千秋が目を見開く。


「慰安旅行?! いつ?! どこ行くの?! 」

「沖縄に行くの。二週間。八月の一日から。オーナーの友達のリゾートホテルだってさ。めっちゃ豪華らしいよー。」

「えぇぇぇ?! リゾートホテルぅ?!

マジでー? いいなー!いいな~!!」


千秋と美里が身をよじって羨ましがってる。万由も得意気だ。空はぜんぜん興味無さそう。


あたしも一昨日聞いた時は嬉しくて飛び上がったさ。

でも、そーとがあんなじゃね。

そーとが行けるんだかどうだか分かんないなら、そりゃ私も空もテンションだって低くなるわ。


謹慎あけてから補習やテストや反省文や色々あるとか言ってたしな…

きょうへいさんとシンディさんは、「もちろんブルーノートも千冬も都も勇二も連れてくさ。」とか言ってたけど………。


とりあえず今夜はっきり聞いてみよう。

いずれにしても、あたしと空は絶対参加だし、それは変わんないからね。


「美里と森ちんは夏休み予定あるの?」


万由から滞在先のリゾートホテルのパンフと沖縄の情報誌をを見せられてくねくねしてる二人に聞いた。

ってか万由。どんだけ気が早いの?


「私はな~んにも予定無し。ギャラリーの店番か、お父さんに付いて行商行くかくらい。青春とは程遠いわ~。」


美里が残念そうに嘆息する。

森ちんはハンカチでそっと目を押さえながら


「私も予定なんてぜんぜんよ?妹たちのプールに付いてってイケメン探すくらいがオールアイクッドよ?」

「すっげーちあき!英語だ!」


へんなとこで空が突っ込んだが、まぁなんせ予定は無いのね二人とも。こっちの予定通りよ。


「じゃぁ二人も一緒に行こ?オーナーからはあたしの好きな子を連れてって良いって言われてるから。」


「まっ…マジで?! 行っていいの?! 」

「宿泊費は?! と 渡航費用は?! 」


二人が一斉に叫ぶ。


「…まぁ落ちつきなさい。もちろんあんたたちの親御さんさえ良ければだけどね?

まぁ。あたしん家の両親と、そーとのお母さんと、出来ればそーとと、オーナー夫婦が一緒に行くんだから、あんたたちん家の両親なら、文句はないと思うけどね。昔から親同士も仲良しだし。

それと、宿泊費、滞在費、渡航費、ともに全部カボ+持ち。

あんたたちはおこづかいと、お土産買うお金だけでいいよ。あとは全部カボ+の売上で面倒みるからさ。」


「……な…何その夢みたいな設定は…。絶対行くに決まってんじゃない!行く!絶対行く!千秋も!私が決めた‼」

「私だって行くに決まってんじゃん?! 葵~ありがと~え~ん!えー子に育ったのー母さんや?」

「えぇ父さん。立派に成長しよったわい。これでワシらは思い残さずあの世に旅立てる…」


なんだか違うスイッチが入ってしまった親友たちを横目に、あたしはまったくテンションが上がらなくて嘆息ばかりしていた。


「葵~。ブルーノートは~?どうすんだ~?」


空も同じこと考えてるみたい。


「う~ん。今夜聞いてみるから。それからだね。」

「ふ~ん。私も行く~。」

「うん。お店終わったら一緒に行こう。」


どうなるかな…。

あたしたちの最初の夏休み。


そーとと一緒に居れれば、それだけでいいんだけどな。


****************


こないだ部屋の合鍵を貰った。


あまりに嬉しくて思わず、この鍵専用の赤いキーケースを買った。


一応ノックしてから鍵を開ける。


「…大人しくしてる?」


ドアを開けると、彼のにおいがかすかに漂う。

私は知ってる。

これはブルガリのブルー。

ふわっとカルダモンとジンジャーが入って来て、身体を抜ける時にはチークとシダーとムスク。


すぅぅぅぅ。


ここに来るまでに、足りてなかった栄養を胸いっぱいに吸い込む。


とたんに

力が抜けて、手足が痺れて、身体中が熱くなってくる。


今はもう、デパートやお父さんの香水ギャラリーを通ってこのにおいを嗅ぐだけで、私は全身の力が抜ける。


蒼音のにおい。私の麻薬。


はぁぁ。助けて。早く。顔を見たい。

出来れば抱きしめて。胸いっぱいにさせて。


ゾンビの様にふらふらしながら寝室に行く。


居ないのか……。


仕方ない。

帰って来たら飛びつこう。


とりあえず。私は溜まってる洗い物を片付けることにした。



****************

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