挿話 ゴールデンバーディの苦悩。
「いやな蒼音?あれ以来どうもクラスのみんなが僕を避けるんだ。」
「ほぅ…。やっとみんなお前の気持ち悪さに気づいたようだな?」
「ちっ。」
久々に登校し、ダルい身体をおしてやっとの思いで迎えた放課後。ハカセが神妙な面持ちでやって来て、心情を吐露し始めるので、早めに打ち切ってやった。分かってんだよ。お前のパターンは。
「聡が居たんだから良いだろ?こいつ何も変わってねーし。」
「いや、さすがに僕でもクラス全員から退かれると堪えるぜ?ちょっと大袈裟に脅してやっただけなのにさ。」
「それを言うなら俺だって、男どもからかなり遠巻きに話しかけられんだぜ?しかも、2年も3年からもだぜ?俺が何したよ?たかだかしょうもないバカの手を握り潰して、バカのアバラ三本折っただけじゃねーか。」
「……一応言っとくけど、充分過ぎるほど恐がられる要素満点だけど?二人とも。」
「「どこが?!」」
聡のツッコミに俺たちバーディの息もぴったり。
きっと中学じゃみんな平和だったんだろーな。
俺たちはことあるごとにトラブルのど真ん中に出くわしてばかりだったからな。
ある時は
高校生のやんちゃなグループに、あおいが絡まれて連れて行かれたとかで、美里が走って来て、ハカセがグループのアジトを先回りして特定して、火をつけて全焼させ、その隙に俺が主要メンバー6人をボコって藤宮河口に投げ捨てて、ハカセの暗躍で残りのメンバーに放火の罪を被せて年少送りにしたり。
ある時は
デパ地下であおいと千秋と美里が買い物中、トイレに行ったあおいと千秋がなかなか帰って来ないから美里が見に行ったら、ヤクで頭の飛んだ外人3人があおいを抱えて連れ去ろうとしていて、美里と千秋が外人を追いかけながらハカセの携帯に実況して、ハカセがそれに細かく指示を出し時間稼ぎをさせてる間に、俺が外人に追いつき、外人たちの車を破壊して、ついでに外人たちを半殺したり……
ってか
あおいがらみばっかりじゃねーか。何してんだよあおい。
「まぁとにかく。当分は大人しくしてよーぜ? 第一俺はこんなつまんねーことにかまけてる暇ねーからさ。」
「同感だ。当分は大人しく学園生活をエンジョイする方向で行こう。」
その時だった。
「蒼音くんっハカセっ居る?!」
「…………千秋。」
千秋が息をきらして教室に駆け込んできた。
「葵が!葵が危ないの‼ すぐ来て!」
俺はハカセと顔を見合わせてため息をついた。
ハカセが立ち上がり
「聞こうか千秋。姫様に何があった?」
千秋はぜーはー言いながらも、焦った様子で話し始めた。
「さっき家庭科室からの帰りに3年の人から告られたの!階段で!柔道部のひと!4人居て!」
「分かったから千秋。落ちつけよ。ゆっくり話せ。ゆっくりと。あおいなら大丈夫だよ。」
「落ち着けるかバカ?! 放送室連れ込まれたんだぞ?! 4人に!」
「ほぅ…?姫様ひとりか?それでどうした。」
「……わかんない。断ったのに…。話をしようやって…。4人が無理矢理…」
「…放送室なんだな?放送室で間違いないんだな?」
「うん。放送中のランプが上にある部屋だったよ。そこに入っていった。」
「…そうか。分かった千秋。とりあえずお前は急いで3年の九合さんを掴まえてこう言うんだ。『蒼音が危ないので大至急校長と保険医を放送室まで連れてきて下さい』と。分かったな?急げ!」
「分かった!」
千秋が猛ダッシュで向かった。
は?俺?
まぁいいか。ハカセだからな。
「んで? 俺たちは向かうのか?」
「そうだな。お前はお前的に普通に振る舞ってくれりゃいいぜ。あとは僕に任せろ。」
「ラジャ。んじゃ行ってくるわ。」
そして俺は独りで放送室に向かった。
****************
中からは声は聞こえない。
さすがに放送室だもんな…。
まぁいいや。んじゃ突っ込みますか。
────────!!
「なっ? なんだ?! 」
「そーと!!」
「誰だお前?! 」
ドアを蹴り破って中に突入すると、むっさくるしい男たちに囲まれて泣いてるあおいを発見。
ちょっとムカついた。
あおいの正面であおいのアゴを掴んでたデブが吠えた。
「なんだよ!お前なんか文句あんのか?あ? 俺らは今この子と仲良しになろうとしてんだよ?引っ込んどけや‼」
あおいの後ろで身体を密着させて、羽交い締めにし、耳元に顔を置いてたノッポがいやらしげに言う。
「あ~いいにおい。葵ちゃんの身体は柔らかいねぇ。ふわふわしてて気持ちいいなぁ。ヤっちゃっていいかなぁボク?」
あおいの左側でぷにぷにと、あおいの胸を指て押しているデブも吠える。
「出ていけやお前!!今からこの子と合意で4Pすんだからよ! 見ろこの気持ちいいおっぱいの弾みかた。たまんねーよ!もう俺フルボッキだぜ? 」
あおいは震えて泣いてる。
よし。やってしまおう。知るか。
まずは羽交い締めにしてるやつに飛び蹴り。
「ゴハッ!───がぁぁっ‼」
「汚ーなー‼ あおいに吐くなクズが!」
全力の左をアゴに入れる。割れた。
そのままあおいの左側のデブの鼻に裏拳と腹に膝を入れる。
「ガッ?! ──ゴフっ───!」
「きたねーって言ってんだよボケが!あおいを汚すな!!」
間髪入れず、首投げ。
鼻血と吐瀉物でもぅハンパない汚い。ばっちぃ。
そのままの体勢から正面のデブの胸に真っ直ぐな後ろ蹴り。振り向き様にアゴに左を入れる。また割れた。
「きったねーな~クソデブどもが。お前は?どうすんだ?やんの?せ~んぱい?」
奥に座ってたデブに声をかけると一目散に部屋を出た……が
やって来た柔道部の顧問に投げられた。あーあ。
「蒼音!大丈夫なの?! 」
みいと千秋が校長と保険医を連れてやって来た。
俺はとりあえずみいに後ろ手で挨拶して、取り残されて震えて泣いてるあおいを抱いた。
「お前はほんと、いつも俺とハカセに面倒ばかりみさせるんだから。たまんねーよ。」
「ごめん。そーと。ごめんね。」
胸にすがりついて泣くあおいに大きくため息をついて、
「バカ。これは俺のライフワークだから良いんだよ。謝るな。」
突然室内にマイクの声がする。
「姫様がご無事ならそれで何よりです。お怪我はありませんか?保険医をご用意致しておりますが?なんだったら生徒会長も。校長すらご用意しております。」
あおいが笑って言った。
「ふふふふ。ほんと最高。私のゴールデンバーディ。」
俺は天井を仰いで、おそらく今、鼻高々に微笑む相棒に向かって大きくため息を投げた。
****************
保健室。
みいが膨れている。
これはこれで珍しいものを見れて嬉しい。
「ほんっとあなたはなんでそんなに怪我しに行くの?! 意味わかんない!私たちが行くの待ってればよかったじゃない!だいたいハカセくんもハカセくんよ!蒼音が危ないからって言われたらそりゃ私は何もかも放り出して大至急で行くわよ?何よ?なんかむしょーにムカつくんですけどー?! 」
「…いや。これはいつものことで、ハカセはズル賢くて、俺は攻撃担当なわけで……」
「うるさい!黙れ‼ 拳ぐっちゃぐちゃに割れてるじゃないの?」
「はい。すみませんでした。」
結局、放送室で起こった出来事は、コントロールブースに陣取っていたハカセによってすべて録音され、校内一斉に放送されていた。
柔道部の4人は言い逃れも出来ず問答無用で停学。
3年の大切な時期なのにな。
俺がぐっちゃぐちゃにしちゃったし。
しかし、今回はさすがに俺も2週間の謹慎を喰らってしまった。
みいの伯父さんである校長は、しきりに申し訳なさそうに謝っていたが、母ちゃんとおばちゃんからはめちゃめちゃ誉められた。
今回の事件。
校内一斉放送のおかげで、よりゴールデンバーディの悪名が高まったみたいだ。
俺は謹慎だけど、相棒よ。
お前は毎日頑張ってくれ。
きっと毎日が憂鬱だろうが、光明はちゃんと残して行ってやるからな。
グッドラック。
****************
「…ハカセくん?今回もありがとね。」
「いえいえこれしきのことで、勿体ないお言葉にございます姫様。」
「…それでね?……そーとから頼まれたんだけどね?…。」
「なんでございますか姫様?あいつに頼まれた?」
「……これ…。はっ 恥ずかしいからハカセくんだけで見て?……他のひとには絶対に見せちゃダメだよ?お願い。」
「…姫様の頼みなら命を賭して必ず…写真…?───────────!!」
「ぜっ 絶対だよ?! ハカセくんにだけだからね? 他のひとに見せちゃやだよ?お願いだ……えぇぇっ?! ハカセくんが!千秋ー?! ハカセくんが大量に出血して……白目?! ……千秋ー?! 千秋ぃ~!!救急車!!」
……見に余る光栄にございます姫様。
こっ… これほどの裸エプロンを…いまだかつて…見たことがありません……これは、我が家に代々子々孫々永劫に家宝として語り継ぎましょう………あ…り……がたき…幸せ………
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