第16話 たいせつをきずくもの。


駅前からイベントが行われてるという特設ステージへ移動するらしい。


蒼音。すごいカッコいい……

私服来てると高校生だなんて思えないくらい大人っぽい。

Edwinのダメージジーンズにちょっとパンクな黒いTシャツだけだけど、見つけた時、ほんと心臓が飛び出るくらいドキってした。


自然に手を引いてくれてるけど、なんだかすごく慣れてる。

女の子をちゃんとリード出来るひとなんだな。すごい大人。


それに比べて私は……


ふたつも歳上なのに、今まで怖がって恋愛なんてしたことないし、避けてばっかり。

男の子と手を繋いだのなんて、小学校のフォークダンス以来…


ちゃんと釣り合って見えてるかな…?

この服、おかしくないかな?


「みい?」

「へっ?! 」


びっくりした。なんて声出したの私?恥ずかしい…


彼はなんか言いにくそうにしてる。

何だろう………少しはにかんで言った。


「…すごく似合ってるねその服。気づかなかったくらい…その…すごく綺麗だよ。」


えっ?!……

顔が熱い!ダメっ無理っ‼

………でも嬉しい。


「……ありがとう。」


彼はにっこり微笑んだ。

よかった。昨夜寝ずにコーデ考えた甲斐があった。


そのうちに、イベント会場に着いた。


すごい人の数。

なんのイベントなんだろう?どこにも何にも書いてない。

ステージにはたくさんの機材。これからライヴが行われるんだろうか?


入り口にはゴシックなメイド服の女の子たちが箱を抱えて立ってる。手書きの可愛い字で“募金箱”って書いてあるけど、何の募金かまでは書いていない。

それにしても、すごい可愛い服。

女の子たちみんなスタイルがいいし、なんだかアニメから抜け出したように可愛い。


中に知ってる顔が……

……葵…ちゃん?

五組の真くんの妹さんも居る…確か万由ちゃんだっけ。


「なんか飲もうか。今日は暖かいからスムージーで大丈夫?」


「うん。大丈夫。」


彼はステージ後方にある、仮設テントに入ってく。


外人さんが居る!綺麗なひと…。

彼は親しげに声をかけた。


「シンディさん。連れて来たよ。スムージーでも作って?」


「まぁまぁまぁ美人さんじゃないのー‼ この子が例の子ね?こんにちわ。あなたお名前は?」


「……こんにちわ。九合水意と申します。」


「水意ちゃんねー。いいお名前。何味が好きかしら? どんな味でも作れるわよー?」


「……じゃぁクランベリーとカシスでお願いします。」


「gotit♪お任せあれ!」


すっごい日本語お上手。

でも、すごいな蒼音。

私の狭い世界じゃ考えられない。いろんな世界を知ってるんだなぁ。


「みい?この人はね。俺の親父の友達のシンディさん。Cabo Waboってライヴスペースとカフェレストランのオーナーの奥さん。知らないかな?Cabo Wabo。」


「知ってる。中高生に大人気だもん。私は行く機会なかったけど…。」


「じゃぁ今日からもうみいは常連の仲間入りだ。カボワボは俺の家みたいなもんだからさ。シンディさんなんて俺がよちよちしてた頃からの付き合いなんだぜ?家族さ。」


ほんとに?!

私は友達作らなかったから、そんな流行りの店とかぜんぜん行けなかった。眺めてるだけで満足してた。


……蒼音と出逢ってからどんどん世界が拡がっていく。どんどん私が変わっていく。毎日が楽しい。

モノクロだった世界に少しずつ色がつき始めてる。


「Here for you♪ 美味しいわよー。

ブルーノート?このあと上がるんでしょ?水意ちゃん置いて行きなさい。」


「そのつもりだよ。シンディさんなら安心だ。……男近づけないでね?」


「まっ?この子ったら。いいわ。あんたがそう言うくらいだから、よっぽど大切な子なのね?水意ちゃん?よかったねー。ブルーノートはあなたに夢中よ?」


「し シンディさーん‼ しーっ‼しーっ‼」


えぇぇ?蒼音?

ほんと…?ほんとに??


「照れちゃってもー。かわゆい子。

しっかし水意ちゃんってほんと美人ね?驚いたわ。服のセンスもすっごくいいわー。ね?私の店来ない?葵は怒るかもしんないけど。」


彼が困り顔で言う。


「カボワボ+って新しくオープンした店でフロアマネージャーしてんのがあおいなんだよ。ソフィも居るし。ここに居る女の子たちの制服もぜんぶあおいのデザインなんだ。今日はカボワボ+が全面的に協力してくれてるんだ。」


「それで葵ちゃんが居たのね。」


「そう。シンディさんと旦那さんである神野さんの経営するCabo Waboに協力してもらって、聴覚障害者の人たちが音楽に親しむための募金を集めるために、こんなに盛大にやってる訳だけど、 ほんとのとこ、君に俺とソフィの歌を聴かせてあげるために立ち上げたイベントなんだよ。

それもこれも、君に未来を見せてあげたい、未来に希望はこんなにたくさん詰まってるんだってことを伝えたいからなんだ。

だから、今日はゆっくり楽しんでよ。」


「もぅ……蒼音…………ありがとう。」


「君にずっと俺の音が聴こえるように頑張るって言っただろ?頑張らせてよ。」


「……もぅ…。…………あなた、私を殺したいのね?」


「なんでだよ?君と未来を一緒に歩きたいだけさ。」


「……死んじゃう。………もぅたまんない……………涙が…止まんないよ…………もぉ。

あなたに逢えて本当によかった……。あなたを信じて本当によかった。

ありがとう蒼音。」


「礼はまだまだあとに取っといて?

それじゃぁ俺ちょっと行ってくるから。シンディさんと一緒に楽しんでよ。」


「分かった。いってらっしゃい。」


「すっごい魔法を見せてあげる。夢中になるぜ?俺の魔法に。じゃあね!」



嬉しそうに走ってく彼を見送った。


もう。

どれほど夢中にさせたら気が済むのあなたは。


とっくに頭の先から爪先まで夢中よ。

もぅとてもこの気持ちに抗えない。



****************


「ねぇねぇ葵?! あそこ! 蒼音くん!」


「お願いしまーす……………えっ?何か言った万由?」


「蒼音くん! すっごい美人連れてる‼」


「えっ?! ……………ほんとだ…すごい………誰……?」


この辺の女の子じゃないみたい。

どこのひと…?

外人さん?

大人のひとみたい……だけど…。


「あ~っ! 生徒会長! 葵?! 生徒会長の九合さんだよ?! ほら?蒼音くんを助けてくれた…。」


「うそっ?! ぜんぜん違うじゃん?! 大人のひとだよー。」


「ほんとだってば‼ お兄ちゃんと仲いいもん。…って話したことあるくらいらしいけど…。でも間違いないって。九合先輩だよ?」


「えー?ぜんぜん大人みたい…。すごい……綺麗。」


そーとあんな嬉しそうにして……

なんだよ?いつそんなに仲良くなったのよ?もぉぉ‼


「万由?ここお願い。ちょっと行ってくる。」


確かめたい。


そーとを好きなのか、どうか。



****************



「シンディさんお疲れさま。そーとは?」


「あら葵。お疲れさま。もうバックステージに行ったわよ?」


「ふーん。そーとのアクトのあとに私たちが上がったらいいのかな?」


「そうね。生着替えもしよっか?盛り上がるわよー?」


「それはさすがに勘弁して?……こちらの方は?」


間近で見ると………びっくりするくらい綺麗。

少しメイクしてるけど、グレーのニットワンピと黒髪とボルドーの口紅が、絵に描いたようにハマってる。


すごいセンスがいい人だ。


「……気づいちゃったわね葵? この子が今日のアクトのメインヒロインよ?九合水意ちゃんって言うんだって。あなたの学校の生徒会長らしいわよ?知らない?」


とりあえずとぼけちゃお


「あたしずっとお店で忙しくしてるから知らないよ? 申し訳ありません九合先輩。失礼しました。遠藤葵と言います。宜しくお願いします。」


「こちらこそお邪魔してごめんなさい。あなたのお話はよく聞いてます葵ちゃん。 三年の男子はみんなあなたに夢中なの。」


知らないし要らない。

そーとが居ればいいもん。


「そうなんですかー。あたし、ほんっとそういうの興味なくて。はは。」


「今日は本当にありがとう。色々と大変みたいね。私も何か手伝えるといいんだけど……。」


「いいんですよ。バカそーとが始めたことなんですから、あたしが動くのは当たり前なんです。許嫁ですから。」


先輩が息を呑んだのが分かった。

やっぱり…


「……葵ちゃん?あなたにどうしても聞いてもらいたいことがあるの。……蒼音の大切なひと。葵ちゃんにどうしても……。」



………うん。

あたしは、負けない。

絶対に、逃げるもんか。


息を吸って、とめる。


「はい。なんだってお聞きします。」


先輩は少し哀しげに微笑んだ。


「……あのね。私は蒼音のことが好き。

どうしようもないくらいに、大好き。

あなたや空さんには申し訳ないけれど、この気持ちにはもう抗えない。」


真っ直ぐに先輩を見る。

目も絶対にそらさない。

あたしはあたしのすべてをかけて、負けない。


「はい。分かります。」


先輩はまた哀しそうな顔をした。


「葵ちゃん。私じゃダメなの。

今の私じゃ、蒼音の隣になんて絶対に届かない。

………………私は障害者です。

小さい頃に、聴覚神経を損傷してしまって、それから徐々に聞こえなくなっています。今では補聴器でも、もうカバー出来なくなって来ています。

誰にも言わず、ずっと隠していたから、学校の誰ひとりそれは知りません。私の聴覚はいずれ完全に失われます。それだけは確実に変わらない事実です。

そうなれば、結局は誰もが私の元を離れていくでしょう。

それが嫌だから、ずっと友達も作らず、誰にも言わず、独りで居ました。

でも、それでも、変われると、未来には希望がいっぱいあるんだと、彼は言ってくれました。


……私は、変わりたい。

今、こうして、初めて誰かに……あなたに打ち明けたように。

これからは、隠さずに恥じずに真っ直ぐに生きようと思います。

そして、ずっとなりたかった私になって、真っ直ぐにあなたに挑戦させてください。

蒼音と生きるチャンスを私にも下さい。お願い。お願いします。」



先輩………。

この人は、本当に不器用なんだな。


あたしに黙ってれば、そんなに綺麗なあなたなら、いくらでもチャンスなんてあるのに…。


でも、あたしも退かない。

絶対に逃げるもんか。


「分かりました九合先輩。選ぶのはそーとです。

あたしも絶対に負けません。空だってそうです。頑張ります。」


「…ありがとう。」


そう言って微笑んだ先輩の笑顔は、本当に本当に綺麗だった。


逃げるもんか。絶対に負けないから。


****************


「─────────♪♪♪」


ギターの音が会場を貫く。

蒼音だ。


「みなさーん。こんにちわー!」


空さんが手を大きく振りながら走ってきた。天使だ!


「みんな集まってくれてありがとー!

今日はー!えーっと…なんだっけブルーノート?」


会場が爆笑に包まれる。ふふ。可愛い。

蒼音が困った顔でマイクを取った。


「みなさん今日は本当にありがとうございます。こんな急にも関わらず集まってくれたにしちゃぁ多すぎるな?ほんとどうして?びっくりするよ?」


「空ちゃーん!」

「空ちゃんの歌聴きに来たー!」

「葵さまのコス買いに来たー!」

「空ー‼可愛いー!」


会場からたくさんの声があがってる。

すごい。空さんと葵ちゃん大人気。

蒼音とバンドの人が顔を見合わせて苦笑してる。


「空と葵目当てかよ?なんだよ?俺たちバンドのファンは居ねーのかよ。」


「居るぜー!きょうへーい‼」

「りょうじー‼おかえりなさーい!」


マイクなしでドラムとベースの人が手をあげて叫ぶ。


「おー‼サンキュー!」


それを見た蒼音が拗ねてる。ははは。


「えーっ俺のファンはー?俺もぅ帰ろっかなぁ?」


いやっ‼ なんで?

私が立ち上がるとシンディさんが背中を押して笑った。


「言ってあげなよ?帰っちゃうよブルーノート。」


はい。…うん。

私は勇気を出して息を吸った


「蒼音ー!私が居るよー!」

「そーと!私はずっとファンよ‼」


葵…ちゃん?


彼女を見ると、彼女も私を見て笑った。

葵ちゃん。うん。私も負けない。もう逃げないから。


「うへー‼身内かよー‼まぁ美人二人だからいいや。さんきゅ‼」


どっと会場が笑った。

上手いな蒼音。ほんとにステージに立ったら余計にカッコいい。


「んで。今日は、聴覚障害者のための募金までさせてもらってんだけど、これは、耳が不自由な人たちが楽しく音楽に触れる機会をもっともっと作る為に、献金先の施設や支援学校に贈る、たくさんの楽器や機材を揃える資金にします。もちろんこのアクトのあとのオークション?今着てるカボ+のコスチュームを生着替えでオークションにかけますから、そっちの収益もすべて献金します。みんなたくさん買ってね!」


「「「お~っ!!」」」


す すごい迫力。お客さんの怒号?が会場を揺らした。


「じゃっそろそろいきますか。ソフィ?」

「みんな~‼今日は私と私の旦那様の初めてのライヴよー!気合い入れてかかってきなさーい!」


旦那様? 蒼音がずっこける。


「いつ旦那様になったよ?! 」

「いーじゃん。赤ちゃん産むのー!」


あ 赤ちゃん?

会場は大爆笑。


「わかったからさっさと歌い出せ!」

「はい!旦那様!」


まるで掛け合い漫才だ。息ぴったり。

っていうか、空さんほんとに生き生きしてる。

ほんとに楽しいんだろうな。


「いっくよー!知ってたらみんなも一緒にうたってー!!」



──開け放した窓に 廻る乱舞のDEEP SKY…AH 仰いで……



「─────────!!!!」


大歓声。


日本の曲だ!

会場に一気に火が点いた!

これは確か……中島美嘉さんの曲?


***************


繰り返す日々に何の意味があるの?

Ah 叫んで…飛び出すGO


履き潰したROCKING SHOES

跳ね上げるPUDDLE フラッシュバック

君はCLEVER ah, REMEMBER


あの虹を渡って あの朝に帰りたい

あの夢を並べて 二人歩いたGLAMOROUS DAYS


「明け渡した愛に何の価値もないの?」

AH 嘆いて・・吐き出すGO

飲み干してROCK’N’ROLL

息上がるBATTLE フラッシュバック

君のFLAVOR AH, REMEMBER


あの星を集めてこの胸に飾りたい

あの夢を繋いで二人踊ったGLAMOROUS DAYS


眠れないよ!


SUNDAY MONDAY 稲妻TUESDAY WEDENESDAY THURSDAY

雪花・・FRIDAY SATURDAY 七色EVERYDAY

闇雲 消えるFULL MOON 応えて僕の声に


あの雲を払って 君の未来照らしたい

この夢を抱えて一人歩くよGLORIOUS DAYS


あの虹を渡って あの朝に帰りたい

あの夢を並べて 二人歩いたGLAMOROUS DAYS


GLAMOROUS SKY…


****************


圧倒的な声。

さっきまでの空さんのほわほわした空気がまったく消え去り、空さんが歌い出した瞬間に、会場を包む空気すら色を変えた。


巧い。

いや。そんなもんじゃない。


蒼音の激しい張り裂けるような音が空さんの透き通った声に絡みついて、胸の奥が苦しくなる。


この想いを外に出してあげたい!

私も。

私も一緒に!


歌いたい!



気づけば私も会場みんなと一緒に合唱していた。

すごい!すごいよ二人とも!


空さんはステージ中をすごく楽しそうにくるくると回り、高いはずの歌を意とも容易く自分のものにしてる。


割れんばかりの大合唱。

みんなはもう二人に夢中だ。


曲が終わると、二人はどちらからともなくハグし、会場はその姿に惜しみない拍手で応えた。


「次はねー。私の国カナダのプリンセスの歌うたうねー!知ってるひと居るかなぁ?アヴリル・ラヴィーン姉様?」


「知ってるー!」

「知ってるー‼」


私も知ってはいる。

パワフルで繊細でガーリーな可愛いひとだ。


「そっかー。嬉しいよ!じゃぁちょっとハードで元気なナンバー演るね!“Sk8er boi”!!

葵ー!みいー!ちゃんと歌詞聴いてろよー!私も負けねーぞ~‼」


えっ?私?


蒼音が苦笑しながら弾き始めた。


えっ 何?

葵ちゃんも同じようにキョロキョロしている。


「ははははは!」


シンディさんが笑った。なんで?


「ふふふ。あーおっかしいあの子!

葵?水意ちゃん?わかんないだろうからシンディさんが同時通訳したげる。よく歌詞を聞いてあげなさいね。あの子の宣戦布告よ?ははははは。」


葵ちゃんと顔を見合わせた。


****************


彼は少年で

彼女は少女だった

もうちょっと説明したほうがいい?

彼はパンクロッカーで

彼女はバレエをしていた

他に言いようがないよ?

彼は彼女のことが好きで、

彼女の方は自分の気持ちを言えなかった

本当は自分だって密かに彼のことが好きだったけど、

彼女の友達はみんなお嬢様みたいにお高くとまっていて

彼のだぼだぼの服が嫌いだったからね。


彼はそんなスケーターボーイだから

彼女は「さよなら」って言って彼をフったの

彼は彼女にはあまりにもふさわしくなかったから。

彼女はかわいい顔してたけど、頭はイカれてたのね。

正気に戻さなくちゃいけなかった


それから5年後、彼女は家で赤ちゃんにご飯をあげていた

彼女はひとりきりだった

テレビをつけたら、そこに誰が映ってたと思う?

あのときのスケーターボーイがMTVでロックしてたの。


彼女が友達に電話したら

もうみんなはそのことを知っていたの

彼女たちは彼のショーのチケットを買って、列に並んで

同じ観客たちの中から

自分のフッた彼のことを見上げていたの。


彼は冴えないスケーターボーイだったから

彼女は「さよなら」って彼をフってしまったの

その頃の彼は彼女にはふさわしくなかったけど

今ではスーパースターになって

ギターをかき鳴らしているわ。

彼女、可愛い顔だけでは、彼の価値を見抜けなかったのかしら?


残念だったわね、あなたは見逃してしまったのよ?

悪いわね。スケーターボーイは今では私のもの

私たち今では友達以上の関係なの。

これがこのストーリーの結末よ。


残念だったわね

あなたにはこの少年の未来が見えなかった

こんなに素敵なものが彼にはあるのにね。

でも、私は彼の内側までちゃんと見ていたの。


彼はただの少年で、私はただの少女だった。

もっと言ってもいい?

私たちは恋をしているの

あなたは、どうやって私たちが恋に落ちてったのかもう聞いたかなぁ?


私はスケーターボーイといつも一緒に居て、

私は「またあとでね」と言う

ショーが終わったらバックステージに行って

そこのスタジオで、私たちが書いた曲を歌うのよ。

昔居た、ある少女について書いた曲をね。


****************



「なんだと~!!空~てめぇ~!!」


シンディさんの同時通訳と曲が終わったとたん葵ちゃんがステージに吠えた。


「へ~んだ!ステージは私の世界だー!」


「あははははは。面白ーい!空さん?! 私もぜっったい負けないからね~!!」


蒼音やバンドのひとたちが肩をすくめて笑った。



****************



「それじゃぁそろそろ今日のメインアクトを呼ぶぜ?みんな拍手!!」


え?メインは蒼音と空さんじゃなかったの?


「NYを拠点に活躍中のゴスペルクワイア‼

Deaf Wizardsデフウィザーズ!!」


「───────────!!」


「Deafって日本語で“聾唖(ろうあ)”耳の聞こえない人のこと。

Wizardsは“魔法使い”だよ。

このゴスペルチームは、35人中29人が完全に耳が聴こえない重度聴覚障害者なんだ。でも、音楽を心から愛していて、ずっと歌い続けてる。


まったく聞こえないんだぜ? どうやってメロディーが分かるんだ?どうやって歌い出しが分かるんだ?そもそも、音が分かるのか?

俺も昨日までぜんぜん知らなかったんだ。


今日、ここに来てくれたみんな。

ちゃんと目を開いて、ちゃんと聴いて、帰ってそれをたくさんの誰かに教えてあげて欲しい。

何も不可能なんてないんだよ。

魔法は確かにあるんだ。

今日、みんなはそれを知ることが出来る。

ここに居る35人の魔法使いたちが、何も不可能はないって教えてくれるんだ!」


「───────!!」


拍手で迎えられた彼らは、自信に満ち溢れた顔でステージに登場し、満面の笑顔で観客に手を振る。


私は何も言えなかった。


彼らの笑顔を見ていたら、自分が酷く矮小に思えて、胸が苦しかった。


シンディさんが私の背中を抱いた。

ふと顔を見ると、微笑んで、その腕にぎゅっと力を込めてくれた。


知らないうちに私は嗚咽していた。


葵ちゃんがそばに来て、一生懸命背中を撫でてくれる。

そして、優しくふわりと言った。


「あいつが、あなたに見せたかった未来には、きっとその涙が必要なんです。だから我慢しないで。いっぱい泣いてあげて?今までのあなたのために。」


私は泣いた。声が枯れるまで。

葵ちゃんとシンディさんに抱かれて。

ずっとずっと。



****************



「そして、もう一組、世界最高のミュージシャンを呼んでいます!

みんな!おいで!!」


「「「わ──────!!」」」


「公立藤宮聴覚特別支援学校の子供たちです!みんな拍手!!」


「──────────!!」


葵ちゃんに支えられて、涙で霞んだ目でステージを見ると、幼稚園児くらいから小学高学年くらいの子供たちが20人ほど、お揃いのスモックを着て、水色のベレー帽をかぶって、ステージにに元気よく上がってきた。


子供たちはデフウィザーズの前に並ぶと、綺麗に整列した。


「この子たちも、ほとんどの子が重度の聴覚障害者で、まったくと言っていいほど耳が聞こえません。

でも、歌を歌えるんです!

みんな音楽が大好きで大好きでしょうがないんです!

世の中には手話で歌を歌う、手話歌というのがあるそうですが、これは手話で意味を伝えるのが目的であって、実際には歌になってなかったりするそうです。

でも、この子たちは自分の声で歌います。言葉としてはちゃんと発声していないかもしれません。ですが、しっかりとメロディーを歌えるんです。それがどれほどすごいことか!

俺たちでは考えられないほどの練習を積んで、この子たちは歌えるようになってるんです。

なぜなら、歌いたいから!

この子たちは音楽が大好きでしょうがないんです。

だからどうか、この子たちの未来に、何も不可能なんてないんだよって自信を持って言えるように、みんなの力を貸してあげて下さい。

寄り添ってあげて下さい。

今日ここに居るみんなが、それを世界に教えてあげて下さい。

みんなで、このすっげー大きな大きな未来の宝物を、大切なものを、一緒に築いていきましょう!!」



「─────!!!!!!」



ありがとう。


ありがとう。


蒼音。



「ソフィ!いこう!」

「Oh! Happy day!!みんな歌お!♪♪」



****************


Oh happy day

なんて幸せな日

Oh happy day

なんて幸せな日

When Jesus washed

イエス様が心を洗ってくれたとき

When Jesus washed

イエス様が心を洗ってくれたとき


Washed my sins away!

私の罪を洗い流してくださった!


He taught me how

彼は教えてくれた

To wash

どのように心を洗い、

Fight and pray

どのように戦い、祈るかを

Fight and pray

どのように戦い、祈るか


And he taught me how to live rejoicing

また、彼はどのように喜んで生きるかを教えてくれた

yes, He did. and live rejoicing

そう、彼は教えてくれた。

喜んで生きる!


Oh yeah, every, every day

そう、毎日、毎日

oh yeah! Every day!

そう!毎日!


I'm talking about that happy day

私はその「幸せな日」について話している


He taught me how

彼は教えてくれた

To wash

どのように心を洗い、


Fight and pray

sing it, sing it, c'mon and sing it

戦い、祈るかを

歌おう、歌おう、さぁ歌おう!

Fight and pray

戦い、祈るかを

And to live

そして生きることを


yeah, yeah, c'mon everybody

and live rejoicing every, every day

そう、そうだよ、さぁみんな!

毎日喜び生きる、毎日!

Sing it like you mean it, oh....

確信を持って、歌おう!


C'mon and sing about the happy days!

さぁ、みんなで幸せな日々について歌おう!



***************



「今日はほんとありがとう!」

「ありがとー!大好きよ!みんなー!」


「────!!!!!!!!!!」


割れんばかりの大合唱で終わったライヴアクト。


観客やカボ+の女の子たちみんなで飛んで踊って歌った。


デフウィザーズと子供たちは、本当に楽しそうに歌っていた。


なんの問題もないだろ?って。

その笑顔が、すべてを笑い飛ばしていた。


私が今までしてきたすべてのことは、今日、この日、笑顔のうちに幕を閉じた。


空さんとみんなが一緒に、手を大きく拡げて歌った、

─Sing about the happy day─を最後の言葉にして。


本当ね。


未来には希望しか詰まってない。







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