第15話 She's a little bit dangerous.
9時。
待ち合わせにはさすがにまだ早い。
駅前噴水広場にある、野外常設イベントスペースを今回は貸してもらうことになってる。大した規模ではないものの、バンドがちゃんと全員乗って、窮屈にならないほどの大きさは充分にある。
どうなってんのかな?準備。
とりあえず行ってみることにした。
「マジ…か?」
本格的な野外セット
PAもすごい。卓もちゃんとブースを別に作ってある。
神野さん…いくらなんでも凝りすぎだろ…
たかが二時間程度のチャリティーイベントだぜ?
今からサマソニでも始めんのか?藤宮で…。
あまりの機材の徹底ぶりに舌を巻いていたら後ろから声が、三上さん?!
「よっ。ブルーノート早いんだな?」
「三上さん‼ いつ日本に帰ってたの?」
ハリウッドの俳優も裸足で逃げ出すような美麗の漢は、くしゃっと笑って俺にハグをした。
「昨夜さ。恭平のヤツが、またブルーノートが面白そうなこと始めるから手伝ってやろーぜ。って言うから飛んで来たんだよ。
なんか聴覚障害者のチャリティーイベントなんだって?これ。」
「そうだったんだ。三上さんまで手伝ってくれんなら百万人力だぜ!さんきゅ‼ 」
「難聴のひとだって音楽好きなひとたくさん居るんだ。それを楽しむ為の方法だってたくさんある。だからこそ、この物々しいPAたちが役に立つのさ。
難聴のひとたちは、低音の音圧や振動でリズムを感じたり、高音の周波数でタイミングを読めたりするんだ。完全に聞こえがない人でも実際にそれでバンドを組んでプロになってるひとも居るんだぜ?」
「へぇぇ‼それでこのすげぇ機材の山なんだな? 」
「音楽に難しいことは要らない。身体で、魂で感じるものなんだ。そうだろブルーノート?その方法を知ってる俺たちが教えてやらねーのはウソだぜ?
ありがとな。ブルーノート。
こんな機会をくれてよ。ほんとは俺らプロミュージシャンがやんなきゃいけねーんだ。もっと発信して行かなきゃいけねーんだ。」
「へへ。嬉しいよ。まぁ俺も突然思いついたんだけどね。
俺のガールフレンドがさ。中度聴覚障害を持ってんだ。今日はその子に未来を見せてあげたいんだ。未来にはちゃんと希望が詰まってるんだってことをさ。」
「…あおいちゃん?だっけ?あの子が?」
「はは。あいつはぴんぴんだぜ?違うよ。最近知り合った歳上の女の子なんだ。」
「やるなーお前。さすがタクトの息子だぜー。」
「いやいや!つき合ったりとかはしてねーってば‼……まぁちょっと気になってんだけど…な?」
「乗った! ははは‼お前の恋路!絶対に成功させてやるからな!ははは‼」
「…三上さん。いらないことしないでよ? ただでさえ情けないとこばっか見せてんだからさ。その子に…。」
「任せとけ任せとけ!千人切りの涼二さんに任せとけって!ははは‼」
「えぇぇぇえ……。」
なんだか心配になってきた…
ほんと、みいのことはすごい気になる。
声聞いてるだけでドキドキする。
マジでヤバいのかも……。
「ブルーノート? エンジニアが音欲しいって言ってるからさ。ちょっとチェックがてら、なんか一発やろうぜ?」
「マジで?! 演ろ演ろー!!」
****************
「本日11時からー!駅前噴水広場特設ステージにおきましてー!私たちCaboWabo+が聴覚障害者募金チャリティーイベントを行いまーす!どうかみなさんよろしくお願いしまーす!チャリティーオークションもしまーす‼どうかご参加待ってまーす!」
「お願いしまーす。本日ウチのドリンクをフリーサービスしてまーす‼ よかったらお気軽にお越しくださいませー!」
「チャリティーオークションでは、今着てるこのCabo Wabo+の制服をオークションに出しまーす!奮ってご参加くださーい!」
ふぅ。
みんな張り切っちゃって。ふふ。
急な開催なので心配してたけど、朝駅前広場はもうかなりのひとでいっぱいだ。
今で……100人くらいは超えてるかな?
気づいて来てくれた常連さんは、今か今かと待ちわびてくれてる。
オークションが効いたのね。ふふふ。
脱ぎたてほやほやで出すんだから、高く買ってよね?
「─────────♪♪♪♪」
何?!
突然爆音が響いて来た。
これは、そーとの音だ!
来てたのね。そう言えばりょうじさんも居たから、二人で遊んでんのね。ふふふ。可愛いなぁ。
駅前を通るひとたちがみんな音の方に走って流れてく。
すっごい‼
まぁあの二人が演ってんだもんねー。
ウチの子たちも気にしてソワソワし出してる。
踊ってる子も居るよ。
「……葵様ー?葵様~?」
「何?どしたの涼子ちゃん?」
ウチの子たちの中でも一番の音楽好きな16歳涼子ちゃんが、モジモジしながらやって来た。
「…あれーMR.BIGですよねー?コロラドブルドッグ…。すっごい難しいんですよー?速くて。ベースなんてもぅすっごい難しいんですよー?
へーあんなの弾けるひとがこの近くに居るんだー?へー。いーなー。聴きたいなー。いーなー。」
……………………。
「……えっと。涼子ちゃん……?
聴いてきていいよ?」
「やったぁー‼ さっすが葵様!
いってきまーす‼」
…風のように消えた。
あたしもそーと見たいな………
みんなこっち見てソワソワしてる。
よし。
「みんなお疲れ様!あたしたちも見に行こっかー!」
「「わ~い‼」」
そーとの魔法がまた始まった♪ 急げっ
****************
「I'll be your everything~♪yeah!!」
「────────────☆!」
最後のシャウト決めたとこで突然の大喝采。
は?
気がつくと店の女の子たちやお客さんでステージ周辺は満員状態。
いけね。やり過ぎた。
三上さんを見ると困り顔で肩をすくめた。
俺はマイクで
「─えーっと。フライングしちゃった。みんなこのあと11時からよろしく‼」
と言って早々と退散した。
バックステージに降りるとソフィの顔が2倍くらいに膨らんで俺を待ってた。
「ズルい~ブルーノートだけズルい~」
彼女を見つけた三上さんが嬉しそうに近寄る
「ソフィじゃないか?大きくなったなぁ。ジョージはどうしてる?元気か?」
「あっりょうじー!元気だー!父も元気さー‼」
「セクシーになっちゃってまぁ。なんだ?天使か?それ。」
「歌姫だー。今日はブルーノートと私のバンドデビュー戦だよー!」
あっ。そうか。
ソフィとはこれが初のフルバンドだ。
そりゃ拗ねるわな。
「わりぃソフィ。今日は一緒に楽しもうぜ? バックをゼラスが演ってくれるってさ。」
「やったぁー‼ りょうじがベースかぁ‼ Damn it♪」
「ははは。イジメてやんぜ~?覚悟しとけお前ら?! 」
「そーと!」
あおいが女の子たちと来た。
万由ちゃんも居る。
あおいの後ろにいるオレンジのツインテイルの子は、スターティングメンバーの弥生ちゃんだっけ。万由ちゃんかっわいいなー
うわーみんなすげぇエロいな。
目の毒だ。
「あのー。コロラドブルドッグ演ってたのってー。あなたですかぁ?」
横から上目遣いに来た赤毛ポニーテイルの女の子。
あおいくらいの身長だけど、スレンダーで可愛らしい。
「そうだよ?君はMR.BIG好きなの?」
とたんに目をキラキラさせて飛び跳ねる彼女。
「大好きー! ハドロクもメタルも大好きでーす!さっき凄かったです!ぜんぜんミスもしないし笑って楽しそうに弾いてましたね?! もぉカッコよくてー。だんぜんファンになっちゃいましたぁ。お名前聞いてもいいですかぁ?」
わ。こんな子超苦手。
俺のこと知らねーのかな。
三上さんとソフィと話してたあおいがこっちに気づく。
「そーと? なに涼子ちゃんにまで手をだしてんの?」
「お前人聞き悪いこと言うな‼ 俺が声かけられてんの‼」
「そうでーす!葵様?もしかしてお知り合いですかぁ?」
「……えっと。涼子ちゃんは知らないんだっけ? まぁいいか。 こいつは、私の許嫁の桐野蒼音。今日のイベントの発起人よ?」
「えー?許嫁さんですかぁ?えー。カッコいいのになー。えー。いーなー。葵様いーなー。」
「…………時々で良ければレンタルくらいしても……」
「良くねーよ?! なにお前サラッと許嫁をレンタルしよーとしてんだ?!」
「ほんとですかぁ?じゃぁー。今夜とかぁ。ありですかぁ?」
「………えっちなことしないなら……」
「ねーよ‼ お前らなんか怖ぇよ‼ 」
「だって……あたしなんかこの子に弱くって……」
「葵様だーいすき‼ じゃぁ。今夜ぁ。お迎えに行っちゃいます‼」
びしっと敬礼。
無理です。
「じゃあおい?ちょっと俺、ゲスト迎えに行ってくるから。」
「ゲスト?」
「……うん。このイベントを企画したのはその子のためなんだ。」
「………女の子…?」
「……うん。ま まぁちょっと行ってくるからよろしくな?じゃあ。」
あおいの黒オーラを振り切って駆け出した。
****************
うわ。10時回ってる‼ヤバい!
急いで駅前へ。
待ってるだろうなぁ。ごめんな。
どこ……だ?
ぜんぜん見当たらない。
怒って帰った?まさか。
みいがそんなことするわけない。
えー………居ない。
どこだ……?
「蒼音?」
は? みい?
どこ?
「蒼音…。」
えー?わかんねーよ。人いっぱいだし…
……………ん?
「蒼音。見えない?」
………………まさか…とは思ったけど、
このグレーのニットワンピの超絶綺麗な美人って……
「みい?」
「どうしたの?さっきからずっと手を振ってたのに。」
………アメイジングだ。
ノースリーブのミニ丈ニットワンピ。
ぴったりと身体のラインが分かるため、グラマラスな彼女の身体が一目に分かる。
足元にはフェミニンなワンピとは対照的なブラウンのウェスタンブーツ。
それが、ミニ丈ワンピから覗く長く細い足に、より存在感を主張させている。
ノースリーブの肩からスラッと長い白い腕には、革紐のブレスレットと小さなピンクのオメガ。
濡れた様に美しい彼女の黒髪は、グレーのニットワンピにたおやかに流れて、みいの女性らしさをふんだんに演出している。
分かってる。ファッションというものを、自分の見せ方を、ちゃんと分かってる。見事だ。
正直に言おう。
みいは世界一美しい。
今まで見た、どの女の子も、このみいの美しさの前には霞んでしまう。
あおいもソフィも人間離れした美しさだけど、みいは人間だ。女だ。
これほどとは…
ちょっとまともに顔も見れないくらいドキドキしてる…。
「蒼音…?どうしたの?」
──?!
……声をかけられて飛び上がるほど
ドキっとした。俺、マジで参ってる。ヤバいな…
「……いや。あんまり綺麗だから…わかんなかった。ごめんな。」
「やだ。恥ずかしいこと言わないで…。」
あぁぁぁぁぁ‼可愛いちくしょー!
落ちつけ…落ちつけ…
出来るだけ平静を装って
「……それじゃ行こうか。」
と彼女の手をとって会場へ向かった。
****************
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