第10話 笑顔のじゅもん


「どうしたの?空。目の下すごいよ?」



今朝は早くから万由とカボ+に行って、制服を合わせる為のこまやかなサイズを計って、メーカーに発注してから、一緒に登校した。


私のデザインした制服は、すべてオーダーメイド。

一人一人の体型に合わせてあるので、特にスリーサイズは重要だ。

一ミリ狂うと、かなりキツい思いをさせてしまうから。

スカート丈なんて、見た目にすごく影響するしね。

短すぎると下品だし、長すぎると可愛くなくなる。

カップサイズだって、ブカブカだとちょっと屈んじゃうと出ちゃうし、小さいと閉店まで苦しくてもたない。


万由は意外とグラマーさんだから、しっかりと、かなり細部まで計測して発注しといた。


夏用の新作もある。

ふふふ。みんな驚くかな…?


ウチの子たちはみんな、ファッションには目がない子ばっかりだから、恥ずかしがったり嫌がる子は居ないと想うけど…

そろそろお店に届くはず。


そうそう。それよか空よ。

登校するなり机に突っ伏したので、心配だ。顔色が悪い。大丈夫なの?


「いやー。無理だねー。私はもう無理だー。」


えぇぇ?なんだ?


「おはよ。葵。空ちゃん。………どうしたの?」


美里がやって来た。


「いや空がなんだか顔色悪くって…

「え?ダメじゃない‼ 空ちゃんちょっとごめんねー?可愛い可愛いお顔見せてねーよちよち。」


空が突っ伏した前に屈んで、両手で優しく優しく顔を持ち上げる美里。

ちょっと鼻息も荒い。

私はそんな美里も充分にダメなんじゃないかと想うけど言わない。怖いから。


「あらあらーダメでしょー?寝不足はー。お熱は無いみたいだし、目もかわゆいし、鼻水出てないし、お口もすっごく綺麗よ。キスしていい?ね? 寝不足以外は大丈夫みたいね。」

「……なんだかところどころに過ちがあった気がするけど、大丈夫なのね?空?」


美里の鼻息が荒くなってる。え?美里が大丈夫じゃない?


「…昨夜さー。弥生泊めたんだよー。」

「弥生?五反田弥生ちゃん?なんで?」

「お風呂工事中だってゆーからさー。いいぜーってさー。」

「だから寝不足なの?」

「いやいやー続きがあるんだよー。」


美里が鼻息も荒く割り込む。ふんっ。


「ちょっと待って空ちゃん?! あなた知らない子をおうちに泊めたの?」

「…美里?ウチの店の子よ?五反田弥生ちゃん19歳フリーター。スターティングメンバーのひとりなのよ。すっごく可愛いの。あたしより胸おっきい。」

「私が知らない子よ! ……何?19歳フリーターの巨乳?はんっ。そんな子がなんで私の空ちゃんに馴れ馴れしくしてんのよ?」

「……いや、だって、仲良くしてるわよ。ウチの子たちはみんな仲良しなんだもん…。みんな学校も歳もバラバラだけど、すっごく仲良しだから、お休みの日もみんな集まって遊んだりしてるみたいだし…」

「ふーん…。で、泊めてあげただけだよね?空ちゃん?」


半分以上寝てたと思われる声で、空が美里に強烈なクリティカルをさらっと繰り出す。


「ふぁ~。お風呂入れて一緒に寝てたら、イかされかけたー。処女無くなるかと思ったー。」


「はぁあああああ?!!

あ~お~い~!!? 今すぐ私をそいつのとこに連れて行け~!!」

「えっ…いやっ……あのっ…すみません!すみません!すみませんでした!……なんであたしが謝ってんの?」

「がおーっ!!」


****************



「…とまぁそういうことなんで、今日空はそーとのお見舞いに行かせてから、おばちゃんの手伝いに行かせるね。……あ。シンディさん?夏服届いてる?………やったー!じゃぁ今週末に発表イベント出来るかな?

…うん……うん。じゃぁ準備するよ。楽しみにしててね?じゃぁまたお店で。お疲れさまー。」



放課後

あれからずーっと空を胸に抱いた美里と、トホホな顔でそれを見ている万由とを連れて、校門をくぐる。


これからあたしと万由はカボ+へ。

空は美里の巨乳に挟まれたまま、そーとの病院へお見舞。

美里がどうしても弥生ちゃんとのキャットファイトを望んでいたけど、さすがにそれは必死で止めた。


弥生ちゃんはかなり優秀なクルーだ。

頭の回転が早く、機転がきいて、愛想も抜群。

どんなにウェイト客が混んでて、店内が満席であろうと、決して笑顔を絶やさず、焦らず、常に店にとっての最善で接客が出来る。

他のクルーたちへのフォローも欠かさず、だからこそ信頼も厚い。

実際スタート時は、あたしと彼女と空の3人だけで、実に一日300人強

の来客を掃かせていた。

一日総売上50万超えよ?ただのライヴカフェの出せる金額じゃない。

祇園祭のベビーカステラ屋さんには負けるけどね。

今ではクルーも全員で9人。当時の3倍。

売り上げも日に日に増して、今や平均して80万を超えている。


でも、彼女は本当に頼りになる大事なクルーだ。

あたしがちゃんと話をしよう。

彼女に辞められたら困るもの。

万由の教育係もお願いしようと思ってたからちょうどいい。


「それじゃ美里?空を頼んだよ?」

「わかってるわよ。グルルルル…。」


野獣?! 胸に挟んだそれは生まれたての我が子か。


「……あぁ空?」


「なんだよー。」


「そーとにキスを。あたしと万由からの。」



空が今日初めて笑った。


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