第7話 明日から響いてきた音
蒼音……寝てる…。
放課後、私が飛び出してしまった授業時の教師に事後説明をして、校長と蒼音の担任とサッカー部顧問と会合をした。
一番心配していた、蒼音が相手側に負わせた怪我については、学校側としては、一切不問としてくれたよう。良かった。
しかし、怪我をさせたことには変わりなく、明日は相手側の親御さんとの話し合いもあるので、その対策の為の会合だった。
サッカー部顧問曰く、うちのサッカー部は体制も甘く、風紀が乱れていた傾向にあったと言う。
私はこの顧問に激昂し、校長に処分することを求めた。
女子を集団で拉致監禁凌辱するなど、計画であっても、風紀が乱れていたでは済まないものだと。
私は私のすべてを使ってでも、彼らと彼らを作ってしまった者たちを赦さないと宣言して、その場をあとにしてきた。
蒼音とハカセくんのしたことは、確かに暴力と強迫ではあるけれど、あれでも生ぬるいと私は思っている。
蒼音…。あなたたちは優しいね。
…うつ伏せで寝てる…。
背中何度も蹴られてたからね。
布団を背中にかけれなかったんだろう。腰まで布団をかけて両手をベッドに拡げて寝ている。
寒くない?
今日は曇りだからか少し肌寒い。
私は布団をかけようと蒼音に近づいた。
……赤黒い。
Tシャツの襟元から覗いた蒼音の背中が酷く赤黒く腫れている。
…もぅ。
こんなに我慢してまで…
つくづく解る。
葵ちゃんの存在の大きさ。
入院するレベルの暴行を受けながら、しかもそれに抵抗出来る力を持っているのに、感情や激情をも圧し殺してまで我慢して、守ろうとした女の子。
私は、葵ちゃんを知らない。
いや。見たことはあるし、男女問わずこの学校の噂の頂点にある美しい子だ。彼女の話を聞かない日は無い。
だけど、どんな性格で、どんな人間であるのかは知らない。
逢ってみたい。
話してみたいけど、怖い。
私じゃ。
こんな私じゃぁ、遠く離れた差をより深く拡く広げてしまうだけ。
まだまだ駄目だ。私は。
蒼音……。
あなたの音が、私を動かしたのよ。
この役立たずの耳じゃなく
胸にまで直接響いてきた
あのあたたかい音。
いつもの長い長い暗闇の中で
その音だけは、真っ直ぐに私に聴こえてきて
胸に響いて、
居ても立っても居られなくなって、
そして、あなたを探し始めた。
私でも、始められる気がした。
私でも、未来が見える気がした。
私にも、ちゃんと、未来が聴こえた。
ねぇ蒼音?
もう少しだけ
私に勇気をください。
そしたらきっと、
始められる気がするから。
蒼音の横顔にそっとキスをして
病室をあとにした。
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