第5話 最高のバーディ


「……どう……かな?」


心配そうに上目で伺うみい。


「………美味い!」

「よかったぁ‼ 」


手を叩いて喜ぶみい。

彼女の曇りのない笑顔は、薄曇りの空に反比例して、ひときわまぶしく映える。


あれ以来、みいとはこうして昼休みの間だけの逢瀬を続けている。

お互いに、誰にも見つからない様に細心の注意を払ってる。


“私としょっちゅう逢ってることが周りに知られたら、絶対君に迷惑がかかるもの。”


と、みいが言うからだけど、

確かに俺もみいもこの学校ではかなりの有名人には違いないし、俺のほうも、俺の周りの女の子たちに説明するのがすごく面倒だし、仮に説明をしたとしても、みいのことを受け入れてくれるかどうかはわからない。

みいに辛く当たるような子は居ないにしても、良い目では見れないだろうし…。


友達ってことで始まったけれど、相手は3年生で、しかも、全学年から絶大な人気を誇る、九合水意生徒会長だからな…。


結果、こそこそとした逢瀬が続いてる。

みいはなんだか、それを楽しんでるみたいだけど。


実際こうして、彼女に逢うようになってから分かったけど、彼女は決して、みんなが口々に称賛羨望してる様なひとでは、絶対にない。


女のひとじゃないな。普通に女の子だった。


これには俺もちょっとやられた感でいっぱいなんだけど、

彼女曰く、クールビューティで聡明な見た目は

“そう見える様に努力してるの” ということだ。


その言葉通り彼女は、何て言うか……無邪気そのものだった。


あれ以来、まるで逆さにしたジュースのフタを開けたように、彼女は俺にすべてをさらけ出していく。

信頼出来る友達が居なかったんだろうか?

俺にまさに全幅の信頼を預けてくれている。


「ね?これも食べてみて? ちょっと自信作なの!」


…ハ…ンバーガー……?みたいな形の物体をバスケットから取り出す。


「ハンバーガー? ちょっと小さいけど…。」


手のひらにちょこんと乗るサイズのそれは、確かにハンバーガーに見える。いくつかのカラフルな具材を、全粒バンズと、バジル?みたいな緑色のソースと、マヨネーズらしき白いソースで、見た目可愛く挟んでいる。でも、小さいので、ほんの二くちくらいで食べ終わりそう。


「いいからいいから。ふふ。そのままガブリといっちゃって。」


いたずらっ子の様な含み笑いを浮かべて薦める彼女。

昼メシ食ったんだけどなぁ。まぁいいか。

じゃぁそれでは


「─────────?! 」


「あははは。分かる?それおかしなの。全粒粉パウンドケーキのクッキー&ブラウニーサンド。緑のソースは抹茶チョコでー。白いのは練乳チョコなの。」


脳が100%塩味だと思ってたから、ちょっと本気で驚いてしまった。

でも…


「驚いた……驚いたけど、なんだこの美味さ。ハンパないぜ?! 普通に商品化してても買うぜ?これ……。すげぇなみい!」

「……ほんとに…? 蒼音にそう言って貰えるだけで嬉しいよ。満足満足。」


いやいや。ちょっと頭ん中で計算機叩いてしまった。この美味さ。


「パティシエになれよ?絶対みいならやれるよ。俺が保証する。」


みいは少し困ったように笑った。


「…予鈴だよ?そろそろ戻ろ?ほら蒼音。早く早く。」


彼女に促され腰をあげる。


「じゃぁ。また明日な。」

「うん。楽しみにしとく。」


胸の前で小さく手を振る彼女に、片手で応えて、その場をあとにした。



****************



うーん。

いつだってそうなんだよな。


あの困ったような笑顔。


なんだかひどく気になって仕方がない。


普通の話はいつも、どんな他愛のない話だろうと、本当に嬉しそうにじーっと俺の顔を見て、聞いてる。

時には声をあげて笑ったり、お腹を抱えて苦しそうに爆笑することだってある。


だけど、時々見せるあの笑顔。


どうにも、黙って見てられくなる。

力いっぱいだきしめてやりたくなる。

儚い笑顔。


どうにか、してやりたいな……。


かといって、どうにかして欲しいと言われた訳ではないんだけど…。

なんか放っておけない。


みいに、進路を聞いたときもそうだった。

あの時も結局ははぐらかされたから、進路聞いてない。


今日は…パティシエだったっけ……


「蒼音くん。戻ってたんだ。ハカセたちが探してたけど…逢った?」


万由ちゃんか。


「…いや。逢ってないけど。まぁ大した用事じゃないだろ。」

「ふーん。…… 最近お昼休みに居ないね?どこ行ってるの?」

「えっ。どこって……昼寝。もぅ迷惑かけたくないしさ。」

「……ふーん。小雨の日でも?」

「い いや。さすがにあの日は…図書室に…」

「蒼音くんが図書室?! ………まぁいいわ。信じるね。」

「……………うん。」

「蒼音くん。大好きだからね?」

「………………………。」


なんかすごい罪悪感…。


別に言ったところで問題はないとは思う。

だけど、みいが……あぁやって他の人に演技してまで、自分を見せられ

ないんだから…。

彼女なりに理由もあるだろうし、俺からそれを、ないがしろにしたくない。

ごめん万由ちゃん。

心の中で唱えながら、午後の授業に向かった。


次は体育。サッカーだから運動場に集合だ。


****************



グラウンドに出ると、ハカセと聡がやって来た。


「昼探してたんだぜ?大事な話があったんだ。」

「わりぃ。なんだ?大事な話って。」

「……実はな。姫様の近辺で不穏な動きがある。」

「…………不穏?」

「まだ数名しか特定は出来ていないが、近々、姫様を拉致監禁して集団暴行するという計画が一部の男子からあがっているらしい。外部の一般人も計画に協力しているそうだ。」

「は?! 警察沙汰じゃねーか。」

「もちろんそうだが、今現在は情報を掴んだというだけで、確かな証拠はない。そして警察も、何も事件が起こっていないから、動かない。」

「…じゃぁどうするんだ? 」

「尻尾を出したところを押さえるしかない。幸い、ファンクラブの目は光っているし、犯行グループの何名かは素性も知れている。」

「誰だかわかんのか?」

「今、そこにいる。橘と佐藤と飯山と黒森。」

「……あいつらって……。」

「そう。入学早々に姫様に玉砕したサッカー部の一年だよ。おそらく、残りのメンバーもサッカー部の先輩とOBだろう。」

「そうか。分かった。さんきゅ。」

「お前はまだ仕掛けるなよ蒼音?尻尾を掴まないことには、絶対に終わらない。くれぐれも、何もするな。」

「……分かった。」


久々にムカムカする。

こんなに腹が立つのっていつぐらいだ?

出来れば今すぐに殺してやりたい。

くそったれ‼


「────♪」


体育教官のホイッスルが響く。


「みんな。今日は自習だ。3組に分かれてサッカーの試合を行ってもらう。

現サッカー部員はバラけてそれぞれ縦割りの班に散らばるように。そして手が空いてるサッカー部員が各審判にはいってくれ。それでは1班と2班。すぐに入れ‼」


「─────♪」

試合開始。


俺とハカセと聡は2班。同じ班になった。

さっきハカセが言ってたヤツらの中からは、橘ってヤツが入ってる。

その橘ってヤツがノコノコとやって来る。


「よー桐野。足引っ張ったら殺すぞ?」


いきなりあからさまに威嚇かよ?バカだなこいつ。


「あぁ。のんびりやろうぜ?」


にこやかに対応したのが気に入らなかったのか、ツバを吐いて去っていった。アホアホだ。


ハカセが言うなら仕方ない、見逃してやったんだよ。


ハカセは軍師だ。

こいつはただのヤサオトコではない。


こいつの恐さは同じ学校出身者なら誰もが知っている。

頭に詰め込んだ膨大な知識は、どれも知識をひけらかす為の無駄な雑学ではない。

災害救助法、古式兵法、各種格闘技術、暗殺術、気象学、地質学、心理学、ハムスターの飼い方、

こいつは頭に詰め込んだあらゆる知識を、必要なものだけ効率よく引き出して、常に俺たちを勝利に導いて来た。

ケンカやトラブルでもそう。

こいつが勝てると言えば絶対だ。

俺はこいつを信じて駒になり、全力を出せば、いつも勝利を手に出来た。

一中のゴールデンバーディ。

俺たちの通り名だ。


まずは様子を……


「行ったぞー桐野‼」


ウィング位置でプラプラしてると、例の橘からパスが回って来た。ゴールがら空きじゃん。よし獲った‼


「ぐっ……!」


後ろからのタックル。

明らかに背中に入った。

前のめりに倒れるが、何とか二回転で受け身をとれた。


「ゴフッ‼背中にまともに……クソが!誰だ?! 」


「─────♪黒森イエローカード!」


見渡すと、ニヤニヤと薄ら笑いしながら黒森とか言うヤツと、橘ってヤツが俺を見ていた。

なるほど。グルか。

教官居ないし、審判自分たちだし、そりゃやりたい放題だな?

ハカセが来た。


「蒼音大丈夫か?立てるか?」

「…あぁ。これくらいなんともねーよ。」

「案の定、全開で仕掛けて来やがったな。グルだぜ?」

「あぁ。気づいてる。で、どうするんだ?」

「本来なら、フェアプレイであいつらをやってしまうのが理想的なんだが、審判まで握られてるんじゃ、それはあり得ないからな。蒼音?もう少しだけ耐えてくれ。」

「わかった。それから?」

「目には目を。だ。」

「了解。」


****************



「…………!」


教室に小さく悲鳴が響いた。

周囲がざわめく。


「なんだ?寝ぼけたのか?ちゃんと起きてろよ?お前らはもう大切な時期に入ったんだ。気を引き締めていけ?」


英語教師が注意をした。

しかし、ざわめきは酷くなる一方だった。


………?


窓際の女の子たちがグラウンドを見て、顔を押さえてざわめいているのが分かった。

私の席はグラウンド側の窓から三番目なので、首を伸ばせばグラウンドの様子は伺えた。


……体育の授業?この時間は一年生だ。サッカーか…


あれは……蒼音?!


間違いない。私が彼を見間違える訳がない。


彼は立っているのがやっとという風に、腰を曲げ、右腕を押さえて肩で息をしている。


何?! サッカーの試合ではないの?

蒼音は今にも倒れそうだ。


茶髪気味の子が蹴ったボールが蒼音に向かって飛んでいく。

蒼音は胸でそれを合わし、ドリブルしながらゴールへと向かっていく。


その後ろから、大柄な黒短髪の子が、オーバーアクション気味に腕を振り回して、蒼音の後頭部めがけて突き立てた。

吹き飛ぶ蒼音。


「………!」

またも教室から小さい悲鳴が。

それと同時に私も思わず立ち上がる。

「蒼音!」


「どうした?九合?」


教師が呼んでる。

教室が騒然となる。が、構うもんか。

蒼音!無事で居て‼


私はそのまま教室を飛び出した。



****************



「あれ、蒼音くんたちじゃない?」


美里がグラウンド指差してささやく。


「午後一はサッカーなんだね。」


今は家庭科室で洋裁の仮縫い中。

あたしは水玉のレトロワンピを作る予定。

空ちゃんはスカートをチクチクとどうにかしてる。けど、何?! それ。私にはTシャツにしか見えないけど?


「あれちょっと酷くない?」


クラスメートがグラウンドを見ながらつぶやいた。

とたんにみんなが窓に集まる。


「うわ。桐野くんボロボロじゃん…」

「倒れそう…」

「かわいそうだよ…」

「もうやめて……」


みんな次々に口にする言葉に驚き、窓に走る。


そーとが立ってるのもやっとな感じで苦しそう。

それでもパスが回って来て、走り出したけど、ゴール間際で後ろから殴られた…?何?! あれ?!


クラス内からも悲鳴があがる。

先生も慌てた様子でグラウンドを見た。


「なんで警告出さないの…」

「明らかに殴ったじゃん?! 」

「体育の先生居ないの?」

「桐野くんかわいそうだよ‼」

「あれサッカー部員の黒森と橘じゃん。サイテー。」


そーとが起き上がったところにまたボールが、

そーとが走り始めると今度は横から二人が飛び蹴りを。


でも…ハカセくんが動かない…

なんで…?

一中のゴールデンバーディでしょ?


ん…?ハカセくんの手に……。


「誰か止めないと!体育の先生は?! 」


美里が叫ぶ。

空ちゃんが黙ってあたしを見てる。

あたしはうなずいて窓を開け、そーとに向かって叫んだ。


「そーと!!ちゃんと見てるから!!みんな見てるからね!!」


クラスのみんながあたしに唖然としてる中、

あたしの言葉の意味が解った美里と空ちゃんが来て、笑う。

それから一緒に叫んだ。


「一中のゴールデンバーディをナメんなー!! クソサッカー部!!」


そーとは起き上がって親指を高く立てて、少し離れたところでハカセくんはこちらも見ずに親指を下に向けた。


それを見て3人でまた笑った。



****************



「そーと!!ちゃんと見てるから!!みんな見てるからね!!」



その声を聞いたのは、ちょうど私が保健室を出た頃だった。


葵…ちゃんだっけ?

あの子の声ね。

見てるからって言った…?

どういう状況なの?


急いで階段の窓から外を見る。

……蒼音が起き上がってるとこだ…またやられたの?……蒼音…!


「一中のゴールデンバーディをナメんなー!! クソサッカー部員!!」


また葵ちゃん?

ゴールデンバーディって確か…蒼音とハカセくんって相棒の通り名だったわね……こないだ教えてくれた。


見てるから……ゴールデンバーディ……

あっ あの子がハカセくん…?!


蒼音が笑って親指を立てた。


ハカセくんは……下げた。

彼の手には……なるほど。


私の仕事は分かった。


まずは職員室に向かいましょう。

それから校長室も。

救急車は要らないかしら?


ふふ。蒼音。あなたのいう通り

最高にカッコいいバーディね。


あとは私に任せてね。



****************






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