第3話 甘くて 苦い。


「ただいま。そーと?」



ん……もう23時…


やっぱりソフィと母ちゃんと3人でやってもこんな時間になるもんな。

よし、コーヒーでも淹れてやるか。


ん…?えっ……?…万由ちゃん?!


確か独りでベッドで寝たはず…だよな?俺?

なんで万由ちゃんが隣に?! しかも……ぱんつは履いてた良かった…。


いやいやいや‼ ヤバいじゃねーか?!

あおいが……ぁぁ‼


「そーと…?寝てる……え」


上半身起こした俺の腰に裸の万由ちゃんがしがみついてる。

いや。ぱんつは履いてる。セーフだ。


「……何ですか?この状況は……?」

「…さ…さぁ?……俺もよく……」


あおいは嘆息すると


「ふぅ……。とにかく離れて。」


依然、万由ちゃんは夢の中のようだ。

気持ちよさそう。万由ちゃんもけっこう胸あるんだよな……Cカップくらいか。可愛いピンク…


「早く!」

「すみません‼」


恐ぇ。黒いオーラが半端ない。

でもいつもみたいに怒らないし泣き出さない。

これはこれで恐いが。


「万由ちゃん!万由ちゃん起きて‼」

「…そうと…くん…もう朝……?」

「……。朝じゃないし、そーとじゃないわ。」

「へっ? えっ‼ 葵ちゃん?! あれっ?なんで?…私部屋間違えた?」

「……やっぱり…。大丈夫?何もしてないと思うけど。」

「……うん。何もしてくれない……。」


しょんぼりするな。夜這いかけておいて。

ってか、万由ちゃん帰ったんじゃ?


「おうちの人、大丈夫なの?」

「…うん。お兄ちゃんにうまく言って貰った…と思う。」

「……にしてもよ? 裸で男の子の布団に入るなんて、もっと自分を大事にしなきゃダメよ?そーとだから良かったけど、他の男の子だったらあなた、今ごろぐちゃぐちゃのボロボロにされてるよ?」


あおい…。すごい落ちついてる。

前だったら号泣して、外に飛び出すオチなのに。真っ直ぐ向かってってる。


「……よゆーだね…。さすが、葵ちゃんは違うよ。学校イチ美人だし、学年イチ頭もいいし、スポーツだって、美術だって、なんだって出来るし……料理だって、蒼音くんの好みだって…なんでも分かってて、か 身体だって…そんなにグラマーで、モデルより綺麗で……。私なんかじゃ……敵わないの。ぜったい!こんなことくらいしないと!届かないの!

……空ちゃんだって………あんなに綺麗で…なのに…あ あんなに、歌が上手くて、私……私なんかじゃ………神様は不公平だよ……。やっと…やっと…心から好きだと言えるひとが…見つかったのに。……その人には…神様からたくさんの贈り物を貰ってる許嫁が二人も居てさ……笑っちゃう……私…何?

………バカみたい。……こんな…こんなことして……こんな綺麗で…心も綺麗な許嫁さんに…叱られてる…。………蒼音くんを見てなかった頃に戻りたい……。この、蒼音くんへの想いが、聞こえないとこに行きたい……。

葵ちゃん……ごめんなさい…。ごめんなさい……ごめんなさい…」


万由ちゃん………


言葉に出来なかった。

せめて、彼女が俺やあおいを責めてくれるんなら、何か言えることも出来たかもしれないけど、彼女はあおいも俺も責めなかった。

自分だけを、傷めてる。


俺が一番ダメだったんだ。

万由ちゃんに期待を持たせてしまったから。

こっぴどく断れば、そのほうが優しいんだろうか。

それは逆立ちしたって俺には出来ないけど。

そこが俺の罪なんだ。

分かってるけど、どうにかしなきゃいけないんだけど、俺にはまだ出来ない。


ベッドの隅で、身体を丸く縮めて泣きじゃくる彼女が、俺にはすごくまぶしく見えた。


少し茶がかかったストレートの髪が、泣きじゃくる度に華奢な白い肩で躍る。立てばあおいより頭半分ほど大きいけれど、今は何よりも小さく見えた。

自分がこの世から消えればいいと、叶わない呪文をかけ続けている。


ダメだ。それは許さない。


俺が口を開こうとしたその時、あおいが黙って万由ちゃんを抱きしめた。

ゆっくりゆっくり肩を撫でて、


「ごめんね万由ちゃん。もういいの。ごめんね。」


と、繰り返してる。

万由ちゃんの手が、あおいを抱きしめ返す。


「…うん。葵ちゃんも、大好きなんだよ?…ごめんね。」


二人がそうやって謝り続けてるから、俺はそっとその場を離れて、二人に何か淹れてやることにした。


甘いチョコレートミルクにしよう。

人肌くらいの。


二人が冷えたりしないように。



****************


「えへへっ。おはよっ。蒼音くん!」


「…おはよ……うわ。これ朝メシ?すごくない?」



結局。

万由ちゃんもあおいも泊まった。

聞けば、昨夜は俺が万由ちゃんを見送る前に、鍵の束からこっそりと部屋の鍵を一本抜いてたらしい。

俺が寝静まってからの凶行だったそう。

ソフィはと言えば、シンディさんからの緊急連絡で、急遽カボワボ+に連れ去られたとのこと。おそらくこの土日で開かれる初イベントの関係だと思われる。


「へへっ。張りきっちゃった。ねー葵?」

「えー?呼んだ万由ー?…あらそーと。おはよ。」


……………………?


「朝イチのほにゃほにゃした蒼音くんはまた格別ね?! お腹がキュンキュンしちゃう!葵?毎日これ見てたんでしょ?いーなー。これいーなー。」

「でしょ?可愛ーのよこれが。 まだ活動が活発化するまでもぅちょっと時間かかるから、これくらいが襲い時よ?これ。」

「ほんとに?! じゃぁ早速ぱんつを‼」

「……脱がないの。あおい。何?この状況?」

「何って?……何か?」

「いや……なんかこぅ……馴染んでないか?万由ちゃん。」

「馴染んでいいじゃない。可愛い。ねー万由?」

「むぅ?葵を取られるって妬いてんなさてわ?! 大丈夫。葵は渡さないよ?! 裸で一緒に寝た仲なんだから…ねー葵?」


なんだこりゃ。すっかり仲良くなってやがる。

まぁ良いことか。


「…と。じゃぁいただきます。これ、万由ちゃん作?」


エッグベネディクトを手にする。


「そーよ?なんで分かったの?」

「いや…あおいなら朝は和食だから…。」

「そうなんだ。和食のほうが好き?」

「うーん…米は好きなんだけどね。俺は、自分が作ったもんが嫌いなだけ。何でも食うよ?」

「なんで?蒼音くんの料理凄いじゃん?私より上手いと思うけど?」

「んー…上手く言えない。」

「……??」

「あははは。そーとはね。誰かが作ってくれた料理なら何でも美味しいの。誰かが自分のために作ってくれたものなら、たとえ苦手なものばっかりだったとしても、残さず美味しく食べちゃうの。そういうひと。料理の味も食べるけど、何よりも作った者の気持ちを食べてくれるのね。だから好き。ほんとに美味しそうなの。見てて嬉しくなる。」

「へえぇ。そうなんだ…。やっぱり蒼音くんは他の男の子と全然違うよねえ…。葵は毎日そんなことをこんな平然とやられてきたのねー?私だったらイチコロよ?一回そんなことされたら死んじゃう。」

「でしょー? またこいつ自覚してないとこが余計ムカつくの。平然と他の女の子たちにもやっちゃうの。そりゃぁみんなそーと好きになるはずだよ。他の男の子みたいに計算したり、ガッついたりしてないんだもん。素でこれやられちゃうとねー。ずきゅーんって来ちゃうでしょ?普通に。」

「苦労…してきたのね。葵。」

「解ってくれた?万由。」


…………………。


「最初に軽音部で軽いライヴになっちゃったことあったでしょ? あの時だって、こいつ、何の自覚もしてないからあぁやって目立っちゃってさ?あれでどんだけファン増えちゃったか知らないでしょ? コージ先輩言ってたよ? 毎年恒例の3年生ルーキー人気投票でダントツの一位だったって。2年のほうでもだってさ。このたった3ヶ月の間でよ?

中学校の時なんて話してたらキリがないけど…謝恩会の時だって、そーと独りで演奏するワクが用意されてんの。先生たちがこぞってみんなそーとの歌を聴きたくてね?

で、当たり前だけど、普通に出てきて普通にめちゃめちゃカッコいいの。みんな泣いて泣いて、そーと先輩‼行かないで!とか言われて一人一人ちゃんとバカ丁寧にお別れしちゃって……。もっと自覚しろ!!そーとは本当に違うんだってば!あんたは普通の男の子じゃないの!! 宇宙一カッコいいんだから、女の子に接する時は本当に本当に考えて!!!!


って言いたい。さぁごはん食べな?」


「…………………………はい。」


万由ちゃんも俺も黙ってもくもくと食べた。

そんな朝の一幕。



****************



朝は3人で並んで登校。

あおいは万由ちゃんと腕を組んで仲良く歩いてる。

おーおー懐かれちゃって。

まぁ仲良きことは…だな。

あおいの場合、同性ならなおさらだ。


昔から同性からの妬み僻み嫉みをふんだんに受けてきたからなぁ。

仲良くしてんのはちゃんとあおいを知ってるヤツだけだったしな。

あおいの性格知ってるヤツなら嫌う訳がない。あおいは見た目も超絶綺麗だけど中身も半端なく綺麗だからね。

まぁ分かろうとしないヤツからは相当嫌がらせされてたよな。よく泣いてた。


「蒼音くんおはよ。」


そんなことをつらつら考えてたら後ろから声が。みいか。

何人かの友人らしき人たちと歩いて登校してる。けっこうな人数だ。


みいの脇を通り抜けるものたちからの挨拶に、丁寧に返事をしてる。

あの教室で見たのと同じ、みんなの目には尊敬や憧れが見てとれる。


慕われてんだな。

俺は立ち止まり、目立たないよう少しだけ振り向いて


「おはよ。みい。」


とだけ言ってまた歩き出した。


とたんにあおいと万由ちゃんが構えたのが、視線のはじっこに映ったけど、気にしない。

目立たない目立たない。

俺の今週の目標は“目立たない”


後ろではみいが周りから、

えー誰?とか 近所の子?とか言われてるけど、振り向かない。目立たない。


ぐんぐん進む どんどん進む。

後ろの話声が遠くなる。

安全地帯まではあと少し。校門をくぐればあとは俺の席まで直行だ。


今日はあおいと万由ちゃんのおかげで余裕もってアパートを出た。したがって、みいにも逢ったし、第一に通学路に人が多い。

校門の付近もかなりの人数が居た。


もう校門をくぐるかというところで、後ろがざわめいた。

なんだ?と思った瞬間。左腕に柔らかな衝撃が。


腕を襲った衝撃にえっ?と左を振り向くと


「つっかまえた‼ もぅ。素っ気ないんだから。」


と息を切らしたみいに、左腕を両手で抱えられていた。


「────────?! ‼」


当然周りからは驚愕の声があがる。そりゃそうさ。校門だぜ?みいだぜ?女王だぜ?生徒会長だぜ?

なんか悲鳴も聞こえた気がするのは気のせいか。


「なっ‼ みい?! 胸が‼むぎゅって‼コラ離せ!!」


みいは紅い顔でぺろっと舌を出して笑う。


「ごめんね。我慢出来なかった。ふふ。」


可愛い!こんな顔するんだ?!

ギャップが半端ない。


「俺は…い 良いけど…。さすがにみんな見てるよ?君がヤバくなるからやめな?」

「………ありがと。やっぱ蒼音くん…良いね。……誰とも違う。」

「へ?何?」

「ううん。聞こえなくていい。もぅ行くね。お昼またあそこ来て?約束だよ?じゃ。」


元の通学メンバーに駆け出すみい。

周りからはかなり突っ込まれてるみたい。でも難なくかわしてるようだ。 良かった。


「そーと?」「蒼音くん?」

「「何ですか?あれは。」」


俺は全然よくなかった。


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