第2話 76th Star 



「そーと!」「ブルーノート!」



放課後のチャイムが鳴ってものの数秒。

あおいとソフィが教室に飛び込んで来た。

二人して俺の身体をあちこちベタベタと触り倒して撫でくり回して

俺はすっかりぐちゃぐちゃだ。

回りの目が痛い。


あおいもソフィもそんなことお構い無しで、必死に俺にベタベタしてる。

うーん。たまらん。


「………大丈夫だよ。」


あおいもソフィも半泣きで


「何が大丈夫だよ?! お昼休み終わっても帰って来ないし、千秋に聞くと、お昼ごはんも食べてないって言うし、午後一の授業も出てないって言うし、心配で心配で心配で心配で心配でもぉぉぉ!」

「以下同文!もぉぉぉ!」


「ごめんごめん。悪かったな。

もう大丈夫だよ?心配させてごめん。」

「「本当に?! 」」


ハモる二人の頭をよしよしして


「大丈夫。さぁ仕事行きな?」


と、送り出そうと……


「嘘。6時限目の途中から来たんだよ。お昼休みに体調不良で倒れて、保健室に居たって。九合生徒会長がわざわざ付き添って下さって授業受けたんだよ。」


千秋……。余計なことを……


「そーと?! 」「ブルーノート?! 」


二人はハモって俺のとこに詰め寄る。

万由ちゃんと聡も心配そうに来た。


「蒼音くん。今日くらいはゆっくりと休みなよ?」

「そうだよ?私、お洗濯と夕食くらいしに行くよ? 時間もあるし……」


うーん。確かに昼休み前は、寝不足でカラータイマーも赤の早い点滅だったんだけど……みいが寝かせてくれて充電出来たからなぁ。


「聡も万由ちゃんもさんきゅな。ほんと、寝たらすっきりしたから。大丈夫大丈夫。」


あおいとソフィは目が……恐い。


「そーと?あたし今日カボワボ休むよ。そーとがそんな状態なんだったら、あたしも仕事なんて出来ない。したくない。」

「私も無理だよブルーノート? いくらあなたが強くても、ごはんも食べてないなら倒れて当たり前だよ?今日は私がごはんしたげるから、帰って寝て?葵がちふゆと店やれば大丈夫。あとで私も葵と合流して店を片付ける。それからまたアパート行く。OK?」

「ほんとに大丈夫だってば。それじゃお前らが倒れちまう。俺は大丈夫だから、お前らはカボワボ行きな。」


俺の席辺りで話し合っていたら、入り口がざわめく。

振り向くと、


「蒼音くん。もう平気?」


みいがやって来た。

手には何やら包みを持って。

教室の空気が急激に緩む。みいの空気感だ。

スズランの香りが漂う。


千秋があわあわし出して、クラス内がみいの登場に騒然とする。


「みい。さんきゅ。もぅ平気だよ。」

「そう。良かった。」


みいは笑ってウィンクひとつ。

俺もおかしくて笑った。


俺らを見て、あおいとソフィが警戒色を顕にする中、千秋が慌てて口を挟む。


「く 九合会長! 6時限目は桐野が本当にお世話になりました!ありがとうございます‼」


みいは千秋に微笑んで


「副委員長さん。大したことじゃないのよ?そんなに恐縮しないで?…あなたのお名前は?」

「はっ はい‼ 森 千秋と申します‼ 九合会長の大ファンですっ‼」


大ファンってなんだよ?千秋。

みいだったら確かにカリスマ性あるし、人気はあるだろうけど。


「そう。あなたはなかなかやり手だそうね?噂は耳にしているわ。…千秋ちゃんって呼ばせて貰ってもいい? 」

「こっ こっ 光栄です! ありがたき幸せです‼ やったー!!千秋ちゃんですって?! もぅ無理!死んじゃう!」

「ふふ。頑張ってね。」


嬉しそうに自殺発言すんな。

でも、すげぇな。

あのクールで腹黒い千秋がこんなに慕ってるなんて。

あおいとソフィも面食らってる。


ハカセが耳打ちしてくる。


「蒼音?お前いつの間に女王に取り入ったんだ?かなり親しげに見えたが…」

「女王?…なんか俺にもよくわかんねーんだ。昼休みに逢ったのが初めてなんだけどさ。気に入られたみたい。」

「相変わらずアメイジングなヤツだなお前は。彼女はウチの姫様と天使がランキングのワンツーを獲るまでは、ずっとこの学校のトップに君臨していた女王だぜ?今は総合ランキング3位に甘んじているが、それでも根強い人気は衰えていない。蒼音?身の危険を危惧していたほうが良さそうだぜ?男どもにリンチされるかもしれん」

「そんなにすげぇ人気なのか彼女…?知らなかった…。」


確かに周りを見渡すと、彼女を見る目はみな尊敬の眼差しだ。


彼女は俺の前まで来て、手に持っていた包みを渡した。


「はいこれ。食べて。

結局、朝食も昼食も食べてないでしょ?蒼音くん。夜までまだちょっとあるわ。少しだけでも食べておかないと、倒れちゃうから。」


包みを開けると…色とりどりのおにぎりが。


「…どうしたの?これ?」


彼女はまたウィンクしながら


「用務員室のおじさんに頼んで、お米炊いたの。ふふ。彼も私の友達よ?」

「はは。やっぱすげぇな君は。ほんと、腹へって死にそうだったんだ。さんきゅ。みい。」

「……うん。またね。」


また紅い顔して、彼女は小さく手を振って帰って行った。


おにぎり美味そう。せっかくみいが無理して作ってくれたんだ。あったかいうちに食おう。


一口かじったら真っ赤になった千秋に胸ぐら掴まれる。


「いやいやいやいやコラ蒼音くん?!

何シレっと九合様のおにぎり食ってやがんだこんちくしょーめ!! どんな関係だ?! みいだと?! なんであんたが九合様のことを呼び捨てにしてんのよ?! ってか、なんで九合様があんたにお礼言われて真っ赤になって帰ってんの?! 説明しろ!!はい‼ 説明しやがれ~!!」


………すげぇ。

千秋って、こんなキャラだっけ?

もっとクールな…


「そーと?」「ブルーノート?」

「「みいって何?! 」」


ひいぃ。恐い。


「…とりあえず、すげぇ腹へってるんで、おにぎり食っていい…かな?」


「「「ごゆっくり!!」」」



***************



まぁとはいえ

説明もクソもなく。

なぜだか気に入られたとしか言いようもなく。

今日はソフィのプランで、俺は休むことになった。


今はソフィとなぜか万由ちゃんが、コラボで夕食準備中。

あおいはしぶしぶ店へ。

母ちゃんとコラボで店の切り盛り。

俺は……やることも無いのでリビングでフラットホワイト片手に寝ている。


みいって何なんだろうな結局。

俺が一番分かってないんじゃないかな?

しかし千秋のあの崇拝ぶり。

ただ者ではないことは確かだ。


とにかく、

せっかくなので寝かせていただきます。

お疲れ様でした。


****************


「ブルーノート?じっと寝てるのよ?」

「分かってるよ。」


3人で夕食後、ソフィは葵を助太刀に早々飛び出して行った。

残るはリビングでなぜかソワソワしてる万由ちゃんだけ


「…どした?万由ちゃん。」

「い いや私実は、男の子の家に来るのって初めてなんだよね。へへ。ちょっと緊張しちゃって…ごめんね。」

「意外かも。万由ちゃんって男女分け隔てないからさ、馴れてるもんだとばっかり思ってたよ。今日も普通にあがってたし。」

「だって空ちゃん居たでしょ?そんなに緊張することなかったもん。」

「ふーん。可愛いぜ。そんな万由ちゃんも。」

「やだ蒼音くん?! もぅからかわないで!…余計緊張しちゃうじゃない。」

「ごめんごめん。万由ちゃんコーヒーでも飲もうか?」

「うん。私やるよ!」

「エスプレッソマシーンだから大丈夫。万由ちゃんはありありで良いの?」

「そだね。ありありでお願いします。」

「OK♪」


****************


「はい。カフェラテにしたぜ。」

「ありがとう。いただきます。」


蒼音くんカッコいいなぁ。


ほんとに私と同い年なんだろうか?

ううん。学校の男子見渡して見ても、蒼音くらいちゃんとした男って居ないもん。


そうそう。その目。

絶対私たちと同じ色に見えてなさそう。不思議な目。

いつも私たちより遥かに遠くを見てる。


こんなひとの彼女になんてなれないよね…。


やっぱり葵ちゃんや空ちゃんくらいじゃないと、全然釣り合わないよね。

私じゃ蒼音くんのレベル落としちゃうよね…。


はぁぁ。

嘘でも良いから好きだよって言ってくれないかなぁ。


蒼音くん。

蒼音くん?


大好きなんだよ?私。




「どしたの?」


「へっ?」


突然声をかけられてすごい間抜けな返事しちゃった!恥ずかしー‼


「ぼーっとしてたよ? 大丈夫?眠い?」

「…いやいやいやいや。……大丈夫。なんでもないよ。」

「そう? ってか、もう遅いけど、帰らなくて大丈夫?送ってくよ?」

「い いや大丈夫‼ 蒼音くんこそ寝てて?私はそのために来たんだから。」

「充分休ませてもらったよ。さんきゅ。」


もぉぉぉ。たまんない。何?! このカッコよさ。

もっと見ていたい。もっと声を聞いていたい。

その一心なの。そのために残ってるの。

私はいやらしい子なの。


「でもお家のひと心配するぜ?こんな遅くまで男の一人暮らしのアパートに独りで…。俺は襲わないから心配しなくていいけどね?はは。」

「……襲って!」


あ。しまった!


「……………は?」

「ごっ ごめん。つい…本音が…」

「はははははは!万由ちゃん可愛いな。」


笑われちゃったじゃん。もぅ。本気だってーの。


「万由ちゃんもエロいんだ?うちの女子はまったく……くくく。面白いな。」

「……エロいさ。ふん。処女は耳が早いですからねー。いいもん。いつか襲ってあげる。」

「いやいや。こっちからお願いするかもだから、その時はお手柔らかに頼むよ。」


えっ?


「ほんとに?! 葵ちゃんや空ちゃんは?! 」

「……あぁ。そりゃ気にするよね。

確かにあおいもソフィも親同士が決めた許嫁なんだけどさ。

でも、ぶっちゃけ俺もよく分かんないんだ。本当に父ちゃんたちがおれらにそうさせたいのかが。本意はね。別のとこにあるんじゃないかって、俺は思ってるんだ。漠然とだけどね。」

「……そうなんだ……。

でもあの二人は知ってるの?その考え。」

「いいや。言ってない。泣くだろうからね。あおいは特に。」

「じゃぁ。……私もまだ望みはあるってこと?」

「ちょっとおこがましい気はするけど、望みはあるよ。俺は万由ちゃん好きだしね。」

「えっ。えっ? 今なんて?」

「ん?望みはあるよって。」

「そのあと!なんて?」

「……俺は万由ちゃん好きだしね…?」

「………うっ……え……えっ…」

「はぁぁ?! なんでだ? 今の泣く要素どこだ?! 」


バカ‼ 嬉しいのよ! ほんとに鈍いのね。千秋や葵ちゃんが言ってた通り。


「あーん嬉しいよー‼ 蒼音くん大好きー! 好きだ~!! がおー!」

「ああぁぁぁ。なんだこりゃ?! 」

「今日から一肌もふた肌も脱いでやる!とりゃー!!」

「わっ‼脱ぐな!万由ちゃん?! 生ちちが?! ぱんつはやめときなさい!コラ!あぁぁぁぁ?! まっぱー‼」


見てなさい。

その辺の一般ノラネコでもどれだけ魅力あるか、思い知らせてやるんだから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る