第8話 Separate lives
「さて。Ladies and クソガキめ。」
「おい母ちゃん。俺にだけなんでジェントリーじゃないんだよ?」
「ほら。ガキじゃん?」
「うっ………。」
「さて。みなさん。それではここに至った経緯をはしょってお話します。」
「はしょんのかよ?! 」
「お前いちいちうるさい。」
鍋の晩メシも終わり、あおいの淹れたコーヒーとチューハイを片手に、母ちゃんが演説を始めた。
おじちゃんは相変わらず遅くなるらしく、結局は母ちゃんとおばちゃんと俺たち3人だけだ。
場所は店。鍋も鉄板に直接土鍋を置いて豪快に食べた。
6人がけのファミリー鉄板に、母ちゃんとおばちゃんの向かい合わせにして、俺たち3人が座っている格好だ。
「だってソフィはジョージから聞いてんだろ?前から。」
「うん。」
ソフィはにこやかに答える。
「じゃぁ知らないのはお前と葵だけだからね。」
「だから、なんでこんなことになってるかくらいは説明してくれよ!」
「…あーうるさいヤツだねまったく…。分かったよ。」
「千冬楽しそうだねー。
ま。からかいたくなる気持ちは痛いほど分かるけどさ。最後だもんね。」
「都!言わないで!それ以上は…無理!泣く!」
なんだこれは?なんで泣く?
意味わかんねー。
ただ、母ちゃんもおばちゃんもなんか淋しそうに笑ってて…
「…うん。えーっ。あるところに幼なじみな仲良し5人組が住んでいましたとさ。その5人組は生まれた時からずっと一緒で、仲良しで、幼い頃に交わした約束をずっとずーっと大切に大切に守っていました。
その約束は、
“どこに行っても、どんなに遠く離れても、いつも一緒に居よう。そしていつの日か、お互いの欠片を合わせてひとつにしよう。5人の血を合わせた結晶を創ろう。”
その大切に守って来た私たちの約束の欠片があなたたち3人よ。」
………………………………。
言葉に出来ない。
それはあおいも同じようだ。
ソフィは相変わらず微笑んでいる。
おばちゃんが口を開いた。
「幸いにも、私たちは5人以外の他のひとを愛することがなかったの。勇二くんも拓人も、決して私や千冬や陽子以外の誰かを愛することがなかったわ。浮気もなし。断言出来る。あんだけ飛び回ってた大人気の拓人でさえ、私や陽子や千冬以外を触ろうともしなかった。」
ん?
あんだけ母ちゃんにベッタリだった父ちゃんが浮気することは信じらんないけど、おばちゃんの言い方、変だな。
まるで……
俺が口を挟もうとした時、母ちゃんが言った。
「ふふ。蒼音も気づいたかな?
そうよ。拓人は陽子にも都にも告白したことあるの。」
やっぱり!
おばちゃんがさっき“私たち以外触ろうともしなかった”って言ってたから…
ソフィが驚いた様子で口を開く。
「でも!ママは拓人に一度も告白しなかったって、結婚後にぶっちゃけたって…。」
母ちゃんが微笑んで答える。
「そう。あなたのママはね。本当に本当に優しい子だった。私が拓人を小さい頃から愛していたことを一番に考えてくれてたの。自分の想いはずーっと胸にしまって、拓人が陽子に告白した時だって、何も本当のことは言わず、拓人を突き放したの。…私なんかよりもっとあなたを大切に想ってるひとが近くに居るよって…。」
最後には涙声になってた。
ソフィもすんすんと泣いてる。
おばちゃんがあとをつなぐ
「陽子。本当に優しい子だったなぁ。優しいからきっと先に神様が連れてっちゃったのね。
あの子はそれから音大に進んで声楽を学んだわ。そこであなたのパパに出逢ったの。
ジョージはね。穏やかで聡明で、とても心の綺麗なひと。すぐに私たちとも仲良くなったわ。拓人も勇二くんも兄弟の様に扱った。
陽子を任せられるのはお前だけだって、結婚決まった時は、彼の家にまで行って、何日も何日もご近所に挨拶して回ったりして…陽子をよろしくって…ふふふ。バカなんだから。」
父ちゃんとおじちゃんならやりそうだな。
「一番信じらんないのがね?俺たち6人は奇跡を起こすんだ‼ って言って、3人でお互いに電話しながら、同時にヤるの。同じ誕生日の子供を産むんだ‼ って。ほんっとにバカでしょ?! 爆笑したわ。タイミングなんて合うわけがないじゃない。私は逝きやすいし、陽子は遅いしさ。」
あおいが真っ赤になってる。
俺もさすがに恥ずかしい。
ソフィは爆笑してる。お前。
「でも結局は同い年に生むことが出来た。私たちの絆の勝利ね。奇跡だ‼ってみんな手を挙げて喜んだ。
ほんと、奇跡よ。あなたたち3人は。
こんなに美しくカッコよく良い子たちに育ってくれた…。
蒼音も葵も空も私たちの誇りよ。
私たちの絆が生んだ大切な奇跡。
だからね。続けさせて欲しい。
この約束を。この6人が命懸けで守って来た絆を。守らせて欲しい。
お願いします。」
おばちゃんが深く頭を下げる。
母ちゃんも同じように。
「私たちのワガママだと分かってる。だけど、私たちはこの夢の果てがどうしても見たい。あの人が、拓人が守り抜いた想いを乗せたあんたや、陽子が命懸けで切り開いた想いを乗せたソフィ。そして、今もずっと守り続けてる勇二や都の想いを乗せた葵の、確かな絆の結晶をこの手で抱きたいの。
お願いします。どうか、私たちの夢を創るひとりになって欲しい。
未来はあなたたちのもの。だから、私たちは望みを伝えるだけ。あなたたち3人が決めて。」
…………………………………。
ソフィも葵も呆気にとられてる。
どうしよう。俺は幸いにもこの二人以外は考えられないけど…。
「……母ちゃん。おばちゃん。頭をあげてくれよ。
いいぜ。俺は元々、あおいが好きだ。ソフィも好きだ。二人以外には考えられない。だから、俺は乗った。
父ちゃんの遺志は俺が継ぎたい。」
「…蒼音……。ありがとう。」
おばちゃんが俺を抱きしめた。
すごい泣いてる。おばちゃんが泣いてるの初めてみるかもしれない。
ソフィがそれに被さるようにおばちゃんを抱きしめてから
母ちゃんを抱き寄せて、
「ちふゆ?みやこ?私は変わらないよ。ママの想いはずっとここにあるの。だから、ずっとOK♪」
「ソフィ‼ 愛してる。ありがとうね。」
母ちゃんも泣いた。
今までずっと黙ってたあおいがすっと立って、食べ終わった皿をひいていく。
調理台のエスプレッソマシンに電源を入れて、人数分のカップを用意してから、ひいた皿を洗い出した。
みんなその姿をずっと黙って見ている。
ここからは表情は判らない。
母ちゃんもおばちゃんもソフィも心配そうに見ているが、誰も声をかけられない。
俺はおかしくて笑った。
「どうしたのブルーノート? なんで笑うの? こんな…」
ソフィが心配そうに聞いてくるけど、いやそりゃおかしいさ。
俺はあおいに普通に声をかけた。
「今日はカフェオレでいいよ。お前と同じやつ。」
振り向いたあおいは一点の曇りのない笑顔で答える。
「はい。空ちゃんはカプチーノで良かったっけ?」
ソフィは面食らったようにパチパチしてる。
おばちゃんも母ちゃんも同じ。
そして、綺麗に片付けたテーブルに人数分のコーヒーを並べると、おばちゃんと母ちゃんに微笑んで言った。
「何を黙って見てんの?
あたしもそーとと同じだよ?
決まってるじゃない。何を心配することも謝ることもありません。あなたたちの娘ですから。
それに、私はそーとを愛しています。他のひとなんて眼中にあるように見える?」
ほらね。決まってる。
こいつにとってはデフォルトなんだよ。それは。
みんなほっとしたように笑った。
おばちゃんも母ちゃんも
あおいを抱きしめながら、泣き笑いで。
****************
「それでね。可愛い子には旅をさせようと思うの。」
「は?母ちゃん突然何を…」
「あんたは一人暮らししなさい。」
「どして?」
「だーかーらー。葵と離れて暮らしなさいって言ってんの。」
「なんで?」
「フェアにいきましょうってこと。」
またわけのわからんことを…
あおいもちょっと驚いてんじゃねーか。
おばちゃんが補足する。
「空はね。生まれた時からずっと一緒だったあんたたちと違って、歴史的にも開きがあるでしょ?だから、今日今からは、3人ともがフェアな状態でスタートラインに立ちましょうってこと。そのためにあんたが家を出るの。空と葵は物理的に同じ立ち位置に立つの。その上であんたが選ぶの。どちらかを。」
「期間は高校卒業するまで。
その間の学費は出すよ。生活費と家賃は自分で稼ぎな。お前なら出来るだろ?」
「えぇぇぇ。なんだよそれ!……まぁ出来るけど…。」
「ここで働きゃバイト代は出すよ。その辺のバイトくらいのね。」
あおいが口を挟む。
「でもでも、それだと寝てる暇ないんじゃない?キツくない?だって炊事洗濯もしながら勉強しながら仕事もでしょ?…可哀想じゃん。」
あおい。お前…可愛いヤツだなぁ。ありがたい。
「大丈夫さ。その間の行き来は自由にすれば良いからね。お前かソフィが助けてやってくれりゃいいだろ?
まぁそれだけに、他の女の子が入るのも自由にすれば良いんだけどね?」
ウィンクひとつ。おいおい母ちゃん。あおいとソフィの顔色が一瞬で変わったぞ。怖い。
おばちゃんが楽しそうに
「恋愛は自由さ。葵と空に関しても、男の子連れ込んだりするのも好きにしたらいい。そこで違う道に進んでも私たちは祝福するよ。心からね。」
母ちゃんも続く。
「お前たちが我慢出来なくなって、もしもヤっちゃっても、何も問題ないよ?たとえ子供が出来たとしても、それは母ちゃんも都も手を挙げて喜ぶだけだよ。ジョージも勇二もね。その辺は日替わりででも好きにしたらいい。」
「千冬?早く赤ちゃん抱きたいね? 」
「もぅ出来ちゃったら親には帰さないわ?あたしたちで育てましょう都。」
こいつら……
空が質問。
「私は?そのままでいいの?今日ブルーノートをヤっちゃってもいいってことなの?」
お前バカなの?!
あおいを見ろ‼ あの黒いオーラを。
「あらあらソフィも陽子そっくりなのねー。エロい子。それは葵と殺し合いにならない程度にヤっちゃってもいいわ。だけど、あなたたち二人にもオファーがあるのよ。」
いいのかよ?! とめてくれよ‼
あおいが
「オファーって?」
「シンディがね。どうしても葵と空が欲しいんだってさ。新しくオープンするライヴカフェに、あんたたち二人を看板にしたいんだって。くくくく。」
おばちゃんが含みのついたいやらしい笑いかたで答えた。
「何よ?なんかあるの?」
「みやこ?怖いぞ?」
二人がビビってる。
あぁなんかシンディさん言ってたなぁ。
「制服がね。凄いらしいよ?」
「制服?! 何? なんで?」
「明日二人で行ってみな。」
…たぶんシンディさんの趣味丸出しなんだろうなぁ。あの人、可愛い子には目がないから…。
「さて。だいたいこんなもんだね。
蒼音のアパートはすでに手配済みだよ?鍵はこれ。はい。明日引っ越しするよ。引っ越し業者も朝から来るからさ。」
「仕事早ぇな?! 急な話だし、準備も何も…」
「急じゃないよ。前々から計画はしてたんだ。あとはあんたたちに伝えるタイミングだけだったんだよ。
……しかしまぁほんとに早いねぇ。
もうこんなに大きくなっちゃって3人とも。
あの人も陽子も喜んでるよ。
ほんと。嬉しいねぇ。」
……母ちゃん。だからあんなに淋しそうだったのか…。
「蒼音が上手くやるのは信じてる。
葵?ソフィ?こいつのことは頼んだよ?あんたたちの出す答え、楽しみに待ってるよ。」
「「「はい。」」」
そして俺たちの奇妙な学校生活が始まる。
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