第7話  You're beautiful


「MyGod!What a sweetie Sophie?! You're my darling! sooo cute!(きゃぁ!どんだけ可愛いのよソフィ?! あたしメロメロよ!たまんない可愛いわね!) 」

「Chifuyu!missed you so much!(千冬!逢いたかったー!)」

「おいおいお前たち。鉄板鉄板。」


店の入り口から入ると、焼きそば中にも関わらず凄まじい勢いで抱擁を開始したソフィのはじっこが焦げている。


「きゃぁぁぁ!ソフィ?! あんたおしりがこんがりよ?! 」

「何てこと?! 千冬!バターよ?! バターさえあればブルーノートも美味しいって……‼」

「いただけねーよ!」


再会早々にコントを始める母ちゃんとソフィをバッサリ切り捨てる。


「あおい?俺のカバン持って上がって。あぁ。ブレザーも。」

「…ん。シャツとエプロンは?」

「要る。」

「はい。」


母ちゃんがコントしてるままなので、とりあえず焼きそばの面倒をみる。

黙ってサクサクと焼きそばを仕上げる横から何だかレーザーが。


「……ブルーノート。葵と夫婦みたい……。」


レーザーの発射口はお前か。膨れて呟くソフィ。

母ちゃんはなんだか嬉しそうだ。


俺とあおいは生まれた時から一緒だからな。誰と比べたってやっぱり歴史が違う。

でも、お互いに知らなかったことなんてたくさんあるんだけど。

こないだからそれを充分に思い知らされてる。今も…。


トタトタとあおいが降りて来て


「はいこれ。あとあたしする。」

「それで4人前だから。」

「はい。」


着替えるためにちょっと奥に引っ込む。

いつの間にか母ちゃんが奥に入っていて、着替える俺の背中越しにつぶやく。


「蒼音。 あんたたち大きくなったね。」

「ん?なんだよ母ちゃん突然。」

「……うーん。あたしも年取ったなーって思ってさ。」

「まだ36だろ? まだ若いってば。」

「…そうだね。もう36なんだね。……あんたも葵もソフィも…あんたたちがこんなにいい子に育ってくれて、ほんと嬉しいよ。ありがとね。」

「…何言ってんだよ母ちゃん。やめやめ。恥ずかしいよ。さぁ。あと俺がするからさ、ソフィと上がっててよ。メシはあおいがするだろうし。」

「よいしょっと。じゃぁ年寄りはそうするかね。ソフィ~?! おいでー。」


ったく。年寄りじみたこと言って……。

ソフィがやって来た。


「あい。ちふゆ?」

「あたしらはちょっと都んちに行くよ。ソフィ早く見せたいしね。葵には鍋だって言っといて。材料は店の冷蔵庫と冷凍室にあるよ。」

「分かった。」


店にはまだお客さんが居るな。

でも一人で充分回せる。


「あおい。」

「はい。これが一番の三人さんで、こっちが四番さん。あと持ち帰りが2つスペシャルで。」

「ん。お前晩メシ頼むわ。鍋だって。店の冷蔵庫と冷凍室にある。」

「はい。すぐに戻るね。」

「いや。メシ出来たら風呂入れて。先に入っとけ。ソフィも入れといて。」

「ん。分かった。」


****************


「空ちゃん?…お風呂 先に入って。これあたしのだけど…着替え。」

「うん。葵ありがとう。」


ごはんも出来たし、洗濯物も取り込んだし、空ちゃんを呼びにあたしんちのほうにやって来た。


都ちゃんはおばちゃんと二人で空ちゃんを手ゴメにしていた。

綺麗だもんなぁ。都ちゃんもメロメロだ。


間近で見るとほんと綺麗。

可愛いんじゃなく、綺麗。


深いエメラルド色の瞳に吸い込まれそうで、あたしなんかじゃ話しかけるのもなんだか悪い気がして、なかなか踏み込んで話もしづらかったりする。


いいなぁ。綺麗だし。良い子だし。

歌もあんなに巧い。

そーとと同じ目線に居れるんだ。

同じものを見れるんだ。


いいなぁ。


「…葵?どしたの?私の顔なんか変?」


あんまし見つめてたら、空ちゃん怪しんじゃった。


「ごめん空ちゃん。見とれてたの。あんまり綺麗だから…」

「葵も綺麗だよ? 私男の子だったら絶対girlfriendにする。」


そう言って笑った空ちゃんは、私なんかよりもずっとずっと大人びていて、ずっとそーとが好きそうな女の子だ。


ふぅ。また胸が苦くなってきた。


昨夜はほんとに死ぬかと思うくらい苦しかった。

目を閉じても、出てくるのは悪い考えばかり。

あたしはやな子だ。


誰よりも近く、誰よりも長くそーとのそばに居たはずなのに、空ちゃんが来たほんの数日間で、それはガラッと変わってしまった。

ほんとあっという間。


だってこんなに魅力的なんだもんな。

しょうがない。

あたしは努力しないと。

努力して、やっとそーとのそばに置いて貰えてる。

やっと後ろ姿を見ることが出来る。


そーとのそばに居たい。ずっと見ていたい。

それだけでいいんだけどな。


「空ちゃん。お風呂行こ?こっちよ。」

「うん。ありがと葵。」


あたしは、ほんと弱くて小さい。



****************



葵はすごい。


時々見せる表情が、本当に胸を貫くほどに美しくて、なんか居ても立ってもいられなくなる。


不安? うーん。違う…かな?

なんかもっと…潜在的に畏怖を感じるって言うのか…。


今も、葵がこうして迎えに来てくれて、胸がすごくドキドキしてる。


歩くだけで櫛の通るようなさらさらの髪。切れ長で少し潤んだような目には鳶色の瞳。繊細な鼻筋に艶やかな唇。控え目についた目元のほくろが、神のギフトのよう。

圧倒的な色香を漂わせている。


やっぱり親子だし、都に似てるけど、この圧倒的な美しさは遺伝とかのレベルを遥かに超えていると私は思う。

だって、女の私でも、初めて見た時に息を呑んだもの。


こんなに美しいひとがブルーノートのそばにいつも居たんだ。

生まれた時から、ずっと一緒に居たんだ。


敵わない。

こんな私では、絶対に、敵わない。


だから昨夜は頑張って、彼の気を惹こうとしたけど、やっぱり彼の目には、この破壊的な美しさの天使が映っていた。


どうしたら良いんだろう。


どうすれば、ブルーノートは私のほうを向いてくれるんだろう。


独りに戻りたくないな。


葵は、すごい。



****************



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