第3話 想い出と、答え合わせと。


「……ソフィ。ありがとう。ずっと覚えていてくれて。」



ソフィの目から涙が溢れだす。

俺の手を大事に、愛しそうに頬にあて微笑む。

「本当は、ずっと何もかも黙ってて、ピックだって見せないでいようって思ってたの。

でも無理だった。あなたが愛しすぎて。我慢出来なくなっちゃった。」

「ソフィ……。

やっぱりピック、渡しといて正解だったよ。君は本当に綺麗になった…。」

膨れるソフィ。

「分かんなかったでしょ。もう。バカ。」

「ごめん!謝るよ。…俺も色々とあってね。」

「うん。私が知ったのはずいぶんたってからだったけど、あなたが心配で心配で気が狂いそうだったわ。ごめんね。そばに居てあげられなくて…」

「いいよ。俺は強いからさ。知ってるだろ?前を向いて真っ直ぐ歩くさ。」

「……そう。あなたがまだ私に気づいてなかったあの河川敷で、あの時と同じ台詞を言ってくれたの。それを聞いたら安心して泣けちゃった。……ブルーノート。あなたはやっぱり変わらない。いつでも私のヒーローだわ。

本当に私を見つけてくれた……。」

俺をぎゅっと抱きしめるソフィ。

俺はソフィに身体を預け、胸の中で言った。

「ただいま。ソフィ。」

ソフィも耳元にささやく。

「おかえりなさい。ブルーノート。」


二人でしばらくの間ずっと抱き合っていた。



****************



「どうする?」


ソフィがネグリジェを着ながら聞いてくる。

「どうするって、何を?」

「これからのこと。それに、とりあえず今日のことね。もう遅いわよ?」

ほんとだ。もう23時じゃん?!

「とりあえず家に電話するよ。これからのことって?」

「…そうね。たとえば、私が何者か思い出した今、みんなの前でもソフィって呼んでくれるの?とか…その辺りどうする?」

「…そうだよな…。俺はもぅ君を総天然色の小動物的な目では見れないしな…。」

「なんか失礼なこと言われてる気がするわ?! 」

「いやいや。可愛いってば。

…その辺りちょっと話し合わなきゃいけないし、今日泊まってっていいかな?」

ソフィは飛び跳ねて喜ぶ。

「ほんとに?! わーい!一緒に寝れる‼夢みたい!」

「さっきのこともあるし、一緒に寝るかどうかはさておいて、喜んでくれるのは嬉しいかな。じゃぁちょっと電話する。」

「うん。フラットホワイト入れて待ってる。」

「さんきゅ。」

ソフィは鼻歌混じりにキッチンに立つ。

さてと。


****************



「あぁ蒼音?連絡遅かったね。こっちは心配しないでいいよ。積もった話もあるだろうしね。ソフィ。元気?」

「へ?母ちゃんなんで知ってんの?」

「葵から聞いたし、こないだジョージから電話来てたしね。ソフィをよろしくってさ。」

「……なんだよ。早く言えよ。

思い出したから良かったけどさ。」

「全部思い出したの?ソフィのこと。」

「思い出したよ?何で?」

「…そっかぁ…。自分で見つけちゃったんだもんね。ソフィを。」

「…なんだよ?! はっきり言えよ‼」

「ソフィから聞いてない?…まぁいっか。葵には試練の時だね。…ソフィは、あんたの許嫁だよ。タクトと私と勇二と都とジョージと陽子の6人で話し合って決めた。ね。

正確には葵もそう。あんたは二人のうちどちらかを選ばなきゃいけないの。」

「えぇぇぇぇぇええ!!」

「前に話しただろ?あんたと葵に。

あんたたちは別々の道を進んでも、ずっと私たちの子供なんだって。あれはそういうこと。ソフィも私たちの可愛い娘だよ。ソフィのお母さん、陽子は私と都とタクトと勇二の幼なじみなんだよ。みんなの夢をあんたたちでも実現させたかったからね。みんなずーっと一緒に居られるようにね。タクトもあんたに言い残してたでしょ?家族みんなを守れってさ。」

「……………………………すごい重大な事実を今さらっと聞いてる気がする。」

「まぁ詳しくは帰ってから葵と一緒にね。今夜は泊まっていきな。ジョージにも了解もらってるし、フライングでソフィをヤっちゃってもジョージは喜ぶだけだからね。葵は泣くかもしんないけど。ふふ。都も勇二も私もOKよ?上手くやんなさい。じゃぁおやすみー。」


一方的に切りやがった……。

えーっと。

頭が混乱して何がどうやら???



****************



ベッドルームに行くと、ソフィがもう1つ枕を出して、いそいそとメーキングしていた。ヤる気満々だな。


「ソフィ?取急ぎ母ちゃんには電話しといたけど…いろいろ複雑だからまたあとで。あと、あおいに電話しときたいけど…」

「いーよ。して。カフェはまた入れ直すから。」

「さんきゅ。じゃぁ。」

戸口を出るすんでのところで呼び止められる。

「蒼音?」

「うん?」

「愛してる。」

「………うん。」


確かに

思い出した今、ソフィへの気持ちは桁外れにレベルアップしてる。

好きとかより、愛してる…って言ったほうが近い。

だけど…あおいへの気持ちも本物だし……まいったな。

とにかく、あおいの声を聞きたい。


時刻は0時過ぎ。1コール目で出た。


「あおい?もしかして待ってた?」

「……うん。…でも、大丈夫だよ?用事しながら…だから。」

携帯持ってずっと待ってたんだな。すぐに分かるんだから。こいつの嘘は。

「ごめんな。あれからソフィ…空といろいろと話してたら、けっこう重大な事実があれこれ判ってさ、その7年間のソフィ…空との空白を答え合わせしてたらこんなに遅くなってしまって、んで、母ちゃんに相談したら、さらに重大な事実が舞い込んでしまって、今俺の中で、どうしたらいいのか整理が全然出来てないんだ。俺が帰ったら葵にも一緒に話すってさ。とりあえず今日は泊まってじっくり話せって母ちゃんも言ってくれてるから、今夜は泊まってく。」

「…………うん。」

「明日、たぶん母ちゃんとおばちゃんから話あるはずだから。」

「……………うん。」

「…だから心配しないで早く寝ろよ?明日の弁当も作んなくていいよ。朝はゆっくり寝ときな。」

「………………うん。」

「…じゃぁな。切るぜ。」

「………うん。……そーと?」

「ん?どした?」

「………愛してる。」

「…………………うん。」

「………おやすみなさい。」

「あぁ。おやすみ。」



………………あおい…。

いろいろと聞きたいんだろうな…。

言いたいことも

いろいろと我慢してんだろうな。


俺は……どうしたいんだろう…。









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