2章 Will you be there in the morning?

第1話 ロケット


「空ちゃんバイバイ!」「空ちゃんまたねー」「空ちゃんじゃぁねー!」「空ちゃん!」「空ちゃーん‼」


 部室でのゲリラライブが終わり、校舎から校門までのわずかな間に、すごい数の生徒たちから声をかけられる。


「すっかり人気者になっちゃったわね。空ちゃん。」

 美里がなかば呆れ気味につぶやいた。

「そりゃそうでしょうよ。本当にすごかったもん。こんなに凄い子だとは……放課後までの姿からじゃぁ想像もつかなかった。…こんな綺麗だし。」

 あおいが後ろの空を振り返る。

 空は俺のバイクの荷台に横座りして、小動物のように首をかしげてる。

「可愛いいい!たまんないわ私!

 蒼音くん?! 私に譲って!お願い‼」

「……売られてく子牛か?こいつは。」

 美里は空の顔をグリグリと手のひらで撫でくり回してるが、空はいっこうに無抵抗でなすがままにされている。

「空ちゃん北欧系?すっごいお肌がきめ細かいわ?綺麗なエメラルドの瞳だし、銀髪だし…」

 空は指をひとつ立てて

「That'sRight!おじいちゃんがノルウェーのひとなのだ!みさとも綺麗だよ?」

 美里は空に抱きついた。

「も もぉぉ!この子ったら?!かわゆいってばよ!……決めたわ蒼音くん。今すぐ私にこの子をドナってちょうだい。代金はドナの後でゆっくり決めましょう。」

「なんかドナドナが動詞みたいになってるぞ?! ってか、空なら本気でついて行きそうだ。」

「ついてきて良いのよー。ねーよちよち。」

 きょとんと頭を撫でられるに委せてる空。

 本気で小動物に見えて来た。


「そーと?このまま空ちゃん送ってくの?」

「そうするけど?ついでに晩メシも作ってやろうかなと。朝の弁当の仕込みも。」

 美里が目を見開いて

「あなたほんとに小まめだよね?!

 あおいのお弁当もそうだったけど。あんなイタリア男みたいな事もするし。まぁあれはあおいには良く効いたみたいだから誉めてあげるけど。」

 あおいが真っ赤になってる。

「…あれくらい…。イタリア男じゃなくってもするさ。」

「私は他の方向にそのマメさをあんまり向けないようにって言ってるの。ただでさえ目立つ人なんだからさ。ま。空ちゃんにだったら良いのよ。許したげる。おーよちよち。」

 美里のイメージが壊れてく。こいつ案外子供好きなんだろうな。

 …あおいがもじもじしてる。ん?

「どした?あおい。」

 あおいは口に出そうとするのを何度かためらいながら

「…えーっと。そーと?……あたしも空ちゃんち行っても…いい?」

 何かと思えば、

「…そんなことか…。空?あおいも家行ってもいいか?」

 空はにっこりと。

「いーよ。葵なら。みさともおいでー。」

 美里がまた空をグリグリといじくる。

「ありがとー空ちゃん。お邪魔するわ。」

 けっこう遠い空んちまでの道のりを、4人でのんびりと帰った。



 ****************



「何?!この驚きのブルジョアぶりは?ふつーのアパートだと思ってたら、超高級マンションじゃないの!? 大丈夫なの?」

エントランスに入って、美里とあおいが驚愕してる。

無理もない。俺も最初はそうだったよ。

「大丈夫。お父さんは大会社のエグゼクティブマネージャーだから。今は東京で仕事中で、空だけこっちに一人暮らししてるってわけだ。中に入ったらもっと驚くぞ。」

朝方貰ってた合鍵でドアを開ける。

「何?合鍵持ってんの蒼音くん?」

目ざといな。さすが鬼姑。

「あぁ。朝くれたんだ。いつでも叩き起こせるように。こいつ朝はほんとダメなんだ。…まぁ入れよ。」


部屋のあまりのゴージャス加減にひとしきり驚いたあと、今は3人で探検中。俺はキッチンで朝の洗い物を片付ける。食材は買い足さなくて大丈夫みたいだな。

マンゴーとバナナがあるし、生クリームあるし、ケーキ用の小麦粉あるし、軽くパンケーキでも焼いてやるか。

焼いてる間、御宅探訪はバタバタと続いてる。


「コーヒー淹れるけど、美里は?ありありで良いのか?」

美里が興奮に上気した顔で、キッチンに来る。

「ほんっとすごくない!? 寝室がうちのリビングより広いの!……エスプレッソマシーン?! 空ちゃん?私ここに住むから!」

「わかったわかった…。だから、ありありで良いのか?」

「うん。味は任せるわお願い。」

なら美里はカフェラテにしよう。あおいは苦いの無理だからカフェオーレで。

空はカプチーノだったな。

よし出来た。

「お茶淹れたからこっち来いよ。」



****************



「美味しーい!蒼音すごーい!」

「やだ。本当に美味しいわ。芸も細かいし。あなた、コックさん目指しても食べてけるんじゃない?」

「そーとのパンケーキはほんとにお店のより美味しいの。レシピ教えてくんないんだけどね。んー!マンゴーとバナナが入ってておいし。」

レセピは絶対に教えてやらねぇ。粉に秘密があるのさ。

「空は晩メシ何食いたい?」

「パンケーキおかわり!」

ソッコーで食い終えた空が皿を嬉しそうに差し出す。

「じゃなくて。ちゃんとメシしてやるから。何食いたい?」

しばらく考えた空は

「焼きそば!焼きそばが食べたい!」

「…OK。」


………?

なーんか忘れてるような気がするんだよな……

空と過ごす時間が長くなるに連れて、それが大きくなっていく。

デジャヴ? なんだろう…?


「私はそろそろ帰らなきゃ。名残惜しいわー。葵?あんたはどうするの?」

「あたしは…」

そう言いながら俺を見るあおい。

「俺はまだまだメシ作って明日の仕込みしてからだから、きっと帰りは遅くなるぜ?お前に用事がないなら、一緒に2ケツで帰ったらいいけど。」

「どうしようかな……。今日は都ちゃん出かけてて遅くなるって言ってたし、勇二くんはいつも通り20時には帰ってくるから、ごはん作んなきゃだしな…。んー……。…美里と帰るわ。」

残念そうなあおい。

母ちゃんも20時までは店だしな…しょうがないか。

「じゃぁ私たち帰るけど、空ちゃんをよろしくね。出来ることがあったら何でも言って? じゃぁあおい。帰ろ?」

「うん。また明日ね。空ちゃん。」

「葵もみさともおやすみー。」


****************



「さて。メシが出来るまで明日の準備したり、宿題したり、風呂入ったりしてな。」

「はーい。」


素直に机に向かう空を見届けて、俺はキッチンへ。

使いやすいキッチンだ。綺麗好きってのもほんとみたいだ。

さてと。甘いソースがないみたいだから、ソースから作らなきゃな。

もう19時過ぎてるからちょっと急がないと。



****************



「ごちそうさまー。蒼音の焼きそば久しぶりに食べたー。美味しかったー!」

今日の焼きそばは70点だな。足りないものが多すぎた。

今度は気合い入れてやろう。

「おそまつでした。宿題は済ませたのか?」

「済んだよ。私、こう見えて勉強は出来るんだから。順位には全然興味がないんだけどね。」

「分かる気がするよ。テスト勉強とかしなくてもノリだけでいい点取ってそう。」

「ノリはすごく大事よ。」

指を立ててウィンクする。

こういうヤツが居るから、俺はいつまで経っても中の下止まりなんだよ。

「じゃぁ片付けるから、風呂に入って来い。」

「Sure thing!」


****************


「────♪♪♪」


歌が聴こえてくる。

シンディローパーだ。

“Money changes everything”じゃん。

楽しそうだなぁ。

アップテンポの曲でもちゃんと音を正確に拾えてる。

第一、シンディの歌は難しい。

彼女は声域のレンジが広いし、肺活量も半端ない。

だから、生半可に歌おうとすれば、声にパワーが無くなったり、逆にパワフルに歌えば、彼女の歌の醍醐味である繊細さがぶっ飛んでしまう。

その声質の強弱を、いかに上手く使い分けられるかが彼女の歌を歌う一番の難所なんだけど……

…楽々と歌ってやがんな。

シンディのもっとも得意とするロングトーンも、声の線が細くならないまんまで見事に出してる。風呂場だぜ?大声出せる環境じゃぁ無いのに、どうやったらこんなハイトーンが声痩せしないで出せるんだ?

ちょっとこいつの声帯開いて見てみたい。


さて。あらかた仕込みも終わったし、フラットホワイトでも飲んでまったりしてよう。

さっきオンにしてたエスプレッソマシンからフラットホワイトを取り出して、何で出来てんのか分かんないフカフカの長いソファに沈み込む。

あー疲れた。今日も長い一日だった。楽しかったけど。

ふぅぅ。


****************



「───と!…蒼音ってば‼ wake up!」


……ん。空?……………寝てた。


「起きた?寝るんならベッド行こうよ。ね。」

「……起きるよ。帰んな…きゃ?! ってお前‼  なんで真っ裸なんだよ?! 」

慌てて上半身を起こす。けど、空は俺に馬乗りになってる為、余計に間近で空の裸を見ることに。

華奢な体には、あおいほどではないけど、しっかりとCカップはありそうな透き通るような胸の双丘が。乳首は淡いオレンジで、ほどよい大きさの乳輪に乗っている。

細くくびれた腰は抱きしめただけで折れそうで、俺に足を拡げてまたがっているため、その……丸見えだ。


「…なんでって、お風呂あがったからだよ?」

と、ぜーんぜん気にしてないらしい。

「タオルくらい巻け!ってか服着てくりゃいーじゃん?! 何してんだよ?! 」

空は俺の慌てふためき振りを見てくすくす笑う。

「いーよ。蒼音だもん。」

「俺がよくねーよ‼ のけよ?! 」

馬乗られてるから身動きとれない。ってか、目のやり場がない。

それでも動かずくすくすと笑う空。

「いーの。蒼音なんだから。…逢いたかったよ。ずっと。」

空はそのまま倒れこんで俺を抱きしめる。いやいや。ヤバいから。

「そっ 空さん?! そろそろマジで退いて貰わないと色々と…。」

空は俺の耳元でくすくすと

「やだ。蒼音は私のもの。退かないよ。」

うわ。空の綺麗な声でそんなこと言われたら……

手のやり場にも困るし、第一こんな騎乗なカッコで。お前が素っ裸で乗ってるとこってまんま俺の…。あ 当たってる…。泣きそう。

「冗談抜きにヤバいんだってば。空?なぁ?」

「いいってば。蒼音だもん。これ。可愛い。」

「──‼」

空が俺の俺を触った。そのまま自分のにあてがう。素っ裸だから何となく感触が分かる。生々しい!

「─こら!空!マジで止めろってば‼ 冗談になんねーよ?! 」

「冗談じゃないもん。本気だもん。make loveしよ?蒼音?」

「───!」

キスで口を塞がれる。すぐに空の小さな舌が口の中に入って来た。

前歯から上顎をゆっくりと可愛い舌が撫でていく。蕩けそう。

空の左手は俺の顔をホールドして、右手でズボンのファスナーを開け、器用にパンツから手を入れて、俺の俺を引っ張り出した。

「ふふ。凄い。かたーい。可愛い。」

腰を浮かせてちらちらと触る空。

うわぁぁぁ。気持ちいい。たまらん。

「蒼音も触って?」

空が俺の手を胸に。

すげぇやらかい!服着てたらこんなに大きく見えないのに。

「…ぁ……気持ちいい…。……ん。…ぁん……あ。」

しだいに甘くなる空の声。

こんな時も綺麗な声であえぐんだ。可愛いな。

もっと聞きたくて手を動かすと

「……ぁ…ん!…蒼音!……気持ちいいよー!…ぁん…あっ」

空はもじもじと腰を動かして俺のを掴んだまま、空のに擦り付ける。くちゅくちゅと空の愛液の音が生々しい。ドロドロだ。気持ちいい。

空は恍惚とした顔でどんどん腰の動きを早くする。ヤバい!気持ちよくて抗えない。

「……はぁ…はぁ…蒼音。…気持ちいいよ!…あっ……い…いっちゃいそう……我慢出来ない……ぁん…」

ヨダレでも垂れそうな勢いの顔の空は、もう今は身体を両手で、俺のお腹の上で支えて、前後に激しく腰を動かして、今にもいきそうに、時折痙攣している。

これが世に言うあの有名な素股だな。

と、冷静になってる場合じゃねぇよ?俺もヤバそう。

俺が上を向いて耐えてる顔を微笑んで見てる空は

「蒼音?…私もう我慢出来ない……挿れていい?! …ねぇ?! …挿れるよ?! …ぁ…ぁ…ぁ…ダメっ…挿れる‼」

おいおい?!

「ちょっ?! 空?! ちょっと待て!こら!」

挿れられるのを全力で阻止する。腰をずらしてセーフ。ふぅ。

「…ぁん!…ぁ…もぅ…ぁ…なんで?!…ぁ… 」

空は細やかに痙攣しながら抗議する。もぅいきそうじゃないか。

「…いやだってお前。こんなレイプ紛いのことして…。」

「ぁ…ケチ!……ん…蒼音…の…ぁん…ケチ!」

「ケチじゃねーよ!ったく…。とんだエロエロシンガーだよ。いーからそこ降りろ‼」

しぶしぶ降りる空。

「うわ。べったべたじゃねーか!ズボン。」

開けられたファスナー周辺がもぅドロドロのベタベタ。

空が膨れっ面で文句を言う。

「…だって気持ち良かったんだもん。蒼音のおっきいし…。」

「誰と比べてだ?! このエロエロシンガーめ!」

さらに膨れる空。

「…触ったのは蒼音が初めてだもん。私まだVirginだもん!Idiot‼」」

「へっ?! ……初めて?! …そんなエロエロで?! 」

突然空はガバっと俺の手を掴み、自分の股間へ突っ込む。

「えっ?! 」

そのまま手を重ねて自分の指で俺の指を空の中へ。

「えっ?! えぇっ?! えぇぇっ!!」

空は膝まづいて両足を拡げて、片目をつぶって、どんどん俺の指を空の中へ挿れていく。中ってこんななんだ?! ヒラヒラしててぬるぬるしててあったかい!

「……ぅ……んっ……ぁ…」

空は片目を閉じたままで苦しそうに息を漏らす。

「…痛いんじゃないのか?」

空は首をふるふる振って

「……思ったより痛く…ない…。」

一緒に添えられてる空の手が微かに震えてる。膝まづいてる両足も、時折わなわなと震える。

「…空?……わかったからもうやめろ?…初めてなのは分かったからもういいよ。」

空はまだふるふる首を振る。

「……やだ。…蒼音とmake loveする。指でも…いい…。」

見ると、空がボロボロ泣いていた。

俺は焦って

「いやいや空?落ち着け?! 指でなんてもったいねーよ!泣かないでくれ!」

「…だって…だって蒼音は私とはやなんでしょ…?」

「や…嫌じゃないけど!……そんな急に言われたって……。」

空はさらに泣き出して

「…葵に勝てない…。…私が何にも思わないであのお弁当見てたと思う?……あの時…7年前あなたに出逢ってからずっと…。…ずっと蒼音の隣に立つことだけ考えて頑張って来たんだよ…?あなたにふさわしい女の子になろう…もっと歌を巧くなって、蒼音にふさわしくなろうって…ずっとずっと…。」

………なんか……またデジャヴ…。


「……これ…覚えてる…?」

胸元のロケットを触る。

そう言えばいつもずっとぶら下げてたな。

「…お風呂の時も寝る時も外したことないのよ?これ。」

空がロケットを開けると、ボロボロの小さなティアドロップ型ピックが。…昔から特注してる俺のモデル?!

…あっ…………………

………………思い出した!

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