第11話 宇宙一のシンガー。
放課後。
空を迎えに、飛びつかれない様に身構えて教室をのぞくと空は美里にベッタリだった。
「あおい?ちょっと?」
俺に気づいたあおいが駆け寄ってくる。
「そーとも終わり?…あぁ。あれ。すごいでしょ?」
美里にしがみついてる様に見える…な。
「…なにがあった?」
「体育でバレーだったの。美里が何かと空ちゃんに話しかけてたり、チームに誘ったりペア組んでストレッチしたりしたら、あれよ?よっぽど寂しかったみたいね。独り暮らしなんでしょ?小動物みたいって、美里もたいそう可愛がってるわ。」
「…そ そうか。よかった。美里に馴れたんならもう大丈夫だな。」
美里と空が来る。
「蒼音!みさと優しい‼ 大好き!」
「…よかったな。美里もさんきゅ。」
「空ちゃん素直でいい子よー。まだクラスには馴染めないみたいだけど。大丈夫。私が面倒みたげる。……で?帰るの?私が送ろうか?」
「そうだな。最終的にはお前がそうしてくれたら助かるかな。でも、いろいろと面倒かけるし、今はまだいいや。 こいつを軽音に放り込もうと思ってるから。」
美里もあおいも驚く。
「軽音部?! こんな内気な子を?! 可哀想じゃない?! 」
「えーっと。確かに引きこもりではあるんだけど……まぁお前らも一緒に来たら解るさ。行こうぜ。」
釈然としない顔の二人も連れて、いざ軽音部へ。
****************
「おはよーございます。」
人混みの中、軽音部のドアを開けると、部長と聡とかおり先輩とコージ先輩と万由が、Jpop的な何かを演ってた。
空の目が輝いてる。ふふ。
相変わらず美里の袖を離さないけど。
「いらっしゃい。来てくれたんだね。」
「はい。一応約束したんで。正式に入部で構いませんよ。」
一同が喜ぶ。コージ先輩が肩を叩く。
「ようこそ軽音部へ。」
「ところであの人混みは何なんですか?」
廊下にすごいひとがたくさん居たけど…
部長が
「…あぁ。昨日のゲリラライブが評判に評判を呼んだんだよ。ギャラリーだよ。今日もゲリラライブが始まるのを待ってるんだろうね。君のおかげで、入部希望者が激増してる。びっくりだよ。あんまり多いんで後日オーディションでもしようと思ってるんだ。」
部長が後ろの3人に気づく。
「…後ろの子たちも入部希望かな?」
美里とあおいが慌てて首を振る。
「いえいえ。今日は付き添いで…」
部長と聡とコージ先輩が残念そうに
「なんだ。蒼音くんが綺麗どころ連れて来てくれたのかと思ったのに。残念だなぁ。」
コージ先輩が
「そっちの子は話題の子じゃないの?病的に綺麗な新入生が入ったって3年の間で持ちきりだよ?ほんと芸能界に居たって不思議じゃないよ?生で見たらほんとに凄いな。名前は?」
かおり先輩が口を挟む
「コージ先輩?可愛い子に目が無いんだからほんとにもぅ。怖がってるじゃないですか。」
「ごめんごめん。怖がらせちゃったかな?ごめんよ?」
あおいが慌てて口を出す。
「いえいえ先輩。大丈夫です。私は遠藤葵っていいます。こっちは田中美里。後ろの子は佐久間空。私と蒼音と美里は、小学校からの幼なじみなんです。」
「しっかりしてるねー。ますます惚れちゃった。蒼音くん?紹介してくれないかな?」
「ベースの人が部長さんで3年の柊真先輩。ドラムスで3年の池田公二先輩。キーボードが2年の杉本かおり先輩。あとの二人は知ってるよな?」
「よろしくね葵ちゃん。また良かったら映画でも行こうよ?」
「…すみません池田先輩。あたし好きなひとが居るので。ごめんなさい。」
「あーぁ振られちゃったねーコージ先輩。ソッコーだ。」
かおり先輩楽しそう。俺も楽しい。
やるなぁ。あおい。何人目だろ?
「コージ?俺が慰めてやるからあとでマックでも行こう。」
部長優しいなぁ。
コージ先輩は口をへの字に曲げて
「大丈夫だもん。コージ負けないもん。」
みんな大爆笑。
いいひとたちだ。
「部長?今日はちょっと聴いて欲しいものがあるんです。」
「ん?どうしたの?好きに機材使ってくれて良いけど。」
「ありがとうございます。まだ一度も合わせたことないんで、俺も出来るかどうか分かんないんですけど、出来るなら、凄い魔法をお見せしますよ?とびっきりの。」
にやっと笑って言った。
万由と聡がすぐに反応する。
「昨日みたいな?! 私聴きたい!」
「蒼音くんが歌うの?! 独りで?! 」
「いや。歌うのは俺じゃない。こいつなんだ。」
空を捕まえて前に出す。
アワアワする空。
美里とあおいと聡と万由が驚いてる。
「「空ちゃんが!???」」
***************
「そうだよ。空が歌うんだ。」
にわかに信じられないって風な美里が
「空ちゃん歌えないよ。恥ずかしくって泣いちゃうんじゃない?止めときなよ?」
あおいもうんうん首を振って同意する。
万由が
「いくらなんでも…こんな華奢な子に蒼音くんの音で歌えるとは思えないよ…可哀想。」
「そうだよ。万由の言う通りだよ。どんな歌を歌うのか分かんないけど、君のギターにはちょっと…」
コージ先輩とかおり先輩は見守っている。
部長が、
「蒼音くんがそこまで言うなら、僕は聴いてみたいな。彼女は本当に凄いのかもしれない。」
俺は部長に微笑んで
「ありがとうございます。
俺が知る限り、こいつは世界一のシンガーです。俺が唯一、死ぬまで一緒に演りたいと思えるシンガーなんです。まだ一度も一緒に演ったことはないですが、こいつには俺と同じ魔法が見えています。魔法の瞬間を掴む方法を知ってるんです。
そうだよな?空?」
空は俺を見てすごい楽しそうな笑顔で
「…Magic moments? Yeah!I'm always in it!I can freely walkin the Magic moments♪」
俺が空の頭を撫でて微笑んでると万由が、
「何?空ちゃんなんて言ったの?」
「空は感情的になると英語になっちゃうんだよ。ごめんな。今は俺と歌える事がほんとに嬉しいみたい。
空はね。──私は魔法の瞬間の中にいつも居るよ!魔法の瞬間の中を自由自在に歩けるんだ。──だってさ。はは。空らしいな。」
あおいが言った。
「……聴きたい。私、空ちゃんの歌聴きたい。」
美里もうなずく。
部長さんが
「OK。好きに使ってよ。僕たちで良ければいくらでも手を貸すよ?」
「はい。ありがとうございます。
じゃぁ空?準備しよう。」
****************
「マイクは要りません。まずはアコギ一本で演ってみます。いろいろ試させて下さい。空と俺のコンビネーションを。」
「分かったよ。また開放してもいいかい?」
部長が楽しそうに言う。
「良いですよ。じゃぁ空も本当の顔を見せようか?」
そう言って嬉しそうに俺の前で跳ねてる空を捕まえる。
「空?ダテ眼鏡取るぞ?コンタクトも外せ。ケースはここか。」
ブレザーのポケットからコンタクトケースを取り出して、コンタクトを外させる。
「みんなびっくりしないでな?」
そう断ってから空を振り返らせる。
「「────────?! 」」
ほら驚いてる。
無理もないな。
「元々こいつは目は悪くないんだよ。これはダテ。コンタクトも茶色いカラコン。目立たない様にするための変装。」
美里とあおいが目を見開いて近づく。
「空ちゃん!あなた凄い綺麗じゃない?! なんで隠すの?! もったいないよ!」
みんな空に寄って見る。空はアワアワしてるが。しょうがない。
「本当だ……美人さんだ…。」
聡とコージ先輩が見惚れてる。
かおり先輩と万由も
「凄い…綺麗な瞳。プラチナブロンドだし…羨ましいー!綺麗ー!」
いまだ空カミングアウトが収まらない中、恐縮してる空の首ねっこを摘まんで、
「よしよし。そろそろ演るか。
何歌いたい?空は。」
「蒼音の音なら何でもいい。あなたの好きな歌をうたってあげる。」
とにっこり。
「じゃぁHeart演るか?」
「OK♪」
空を部室のセンターに立たせて、ドアの方に向ける。
俺はアコギで空の左側に立ち、みんなはドアの方に移動。ギャラリーも集まってる。
「じゃぁいきます。曲はHeartのAlone.」
****************
I hear the ticking of the clock
時計の針の音を聞きながら
I'm lying here the room's pitch dark
真っ暗な部屋に体を横たえる
I wonder where you are tonight
今夜 あなたはどこにいるの
No answer on the telephone
電話も全然通じない
And the night goes by so very slow
夜があまりに緩やかに過ぎていく
Oh I hope that it won't end though Alone
お願い このままひとりで朝を迎えさせないで
Till now I always got by on my own
ずっと ひとりで何とかやってきたわ
I never really cared until I met you
あなたに出会うまでは孤独に気づかず過ごせた
And now it chills me to the bone
けれど 今は寂しさが骨身にしみる
How do I get you alone
どうすれば私のものになるの?
How do I get you alone
あなたを独り占めしたいの
****************
凄まじい声量。圧倒的な歌声。
アン・ウィルソンに決して負けてない。
あのアメイジンググレイスの様な美しいハイトーンではなく、凄みの効いたハードロックボイス。
やっぱりこいつは凄い。
サビの凄まじいハイトーンも楽々とフェイクしてる。神業だ。
みんなに原曲を聴かせてやりたいくらい。完璧に空の歌にしてる。
俺も負けない。ハイトーンコーラスで空に寄り添う。
空が俺に微笑んで目の前に来る。
二人で全力で最後のハイトーンコーラス。
「How do I get you alone─ How do I get you alone─Alone─ 」
「──Alone──。」
そしてエンディングはピアノパートをアコギでプレイする。
最後の1ノートを弾いた時、空が俺を強く抱きしめた。
「────────────!!」
拍手の渦。校庭にまで鳴り響く。
昨日以上にギャラリーが居る。
空を見ると、彼女は笑顔でボロボロ泣いていた。
俺は空の手を取って上に挙げる。
「こいつは宇宙一のシンガー佐久間 空。
俺と一緒に世界に行きます。」
そしてもう一度、空を抱きしめた。
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