第10話 たったひとりの大切なひと。
門をくぐると少し余裕があるくらい。
駐輪場まで一緒に歩いて、そこから一組を目指す。
ってか……
「……空…?借りて来たんじゃねーよな?ニャーニャーって。」
校門くぐった時点ですでに大人しくなってた。そのダテ眼鏡…コンタクト…似合うけども。銀髪はどうしようもないだろうに…
「……だって…。怖いもん。」
「誰も襲いかかったりしないさ。グリズリーや狼のほうがよっぽど怖いぜ?! 」
「…あの子たちはウソついたり、仲間外れにしたりしないもん。」
「…まぁわからんでもないけど…。」
転校を繰り返した先でいろいろあったんだろうなぁ。
でもここではそんな思いはさせない。思いっきり楽しんで生きて欲しい。自由なお前の歌が聴きたい。
「いいよ。ゆっくり行こう。…っと着いた。」
教室に入ると一斉に視線を浴びる。
指差してる子も居る。そっか。昨日ハデなことしたからな。うちにあおいが来たほどのざわめきじゃないが。
でも…みんな予習?してる。うわー。これが選抜クラスってヤツだな?怖ぇ。
入り口に立って退いた目をしてると美里に見つかった。少しのざわめきが起こる。
「蒼音くんおはよ。どうしたの?葵は?一緒じゃないの?」
「おはよ美里。今日は別々なんだ。…ここ。すごいな?」
「そう?これでもザワザワしてるほうよ?あなたみたいな目立つ人が来てるから。昨日…大変な騒ぎだったみたいね?」
「いや!昨日はほんとごめん!またあおいの面倒みさせちゃったみたいだな?ほんとごめん。ありがとうな美里。」
「…よくないけどまぁいいわ。いつものことですもの。…で?なんか用?」
「…いや。今日は用というか…こいつを送って来た。」
後ろで俺の背中にコソコソ隠れてる空をデンっと引っ張り出す。
美里が驚いてる。空はアワアワしてる。
「……誰?」
「誰って……1年1組佐久間 空。俺の古い友だちなんだよ。」
訝しげな表情で空をひとしきり舐めるように見る美里に、空がびくついてる。
「…おはようございます…。」
視線に耐えきれなくなった空は消え入りそうな声で、美里に挨拶をした。
「おはよ。佐久間さん。」
返事が返ってきた空は若干嬉しそう。
とにかく。
「美里?あおいには言ってあるけど、この子ちょっと人間が苦手なんだ。当分俺が送り迎えとかするから。んで、出来れば仲良くしてやってくれねーか?お前になら安心して頼めるしさ。」
美里は頼られたら断れない。今もまんざらでもない様子。
「…いいわ。頼まれてあげる。でも、他人ばっかり気にしてないで、あおいもちゃんとケアしてやってよね?あなたはあの子の家族なんだからね?」
「わかってるよ。さんきゅ美里。
じゃぁ空?これ弁当。俺は行くから。」
「…うん。Thanks蒼音。」
「頑張ってな。っとあおい?遅かったな?」
あおいがやって来た。
「…そーと。来てたの?」
「ほぃ。お前の弁当。そいつが例の佐久間 空な。頼んだ。じゃあな。」
後ろ手にひらひら手を振って、教室をあとにした。
次は昼メシん時だな。
あーぁ眠い。
***************
王者の席に君臨するとすぐにハカセと聡と万由が来た。
「昨日は凄かったらしいな?今朝はお前のネタで僕は大人気だったぞ?」
ニヤリと笑うハカセ。
こいつ…
「お前?いらないこと吹き込んだんじゃねーよなぁ?」
「めっそーもありません王子さま。あなたのお陰で当分メシには困りませんぜ。」
「…嫌な予感しかしねーよ。」
万由が前に来て
「…蒼音くん。お弁当持ってる?」
「…あぁ。今日は俺の当番だから。あおいにはさっき渡した。」
「そうだろうねー。きっと要らないだろうなぁって思いながら軽く作って来たの。サンドイッチ。放課後とか食べない?」
「…えっ?あぁ。昨日なんか言ってたもんな。さんきゅ。昼メシに一緒に貰うよ。」
「へへー。貰ってくれたー!あっ。また後でね。」
始業のチャイムが鳴った。
もう放課後並みに疲れてるぜ。
****************
昼メシ。
1組に来た。ちょっとだけのぞいてみる。
メシだからと騒いでるヤツが居ない。整然と机に弁当を拡げてるヤツばっかりだ。ここは俺には無理だな。うん。
入りにくい雰囲気だから入り口で呼ぼう。
「空?メシ行こうぜ?」
声をかけた瞬間ザっと一同の視線が集まる。
「蒼音!」
空がすごい素早さで俺の元に来て、飛びつく。
勢いあまって後ろに転びそうになるのをしっかりと踏ん張って抱き止める。
「わゎっ!なんだよ空?危ねーよ!」
朝どころじゃなく周囲がザワめいた。
みんな抱き合ってる俺たちに釘付けだ。
「…だって……怖かったんだもん…。」
消えそうな声でつぶやく空の頭をよしよししながら見渡すと、釘付けな視線の中にあおいと美里の姿が…。
慌てて空を引っぺがして外へ。
中に顔出して、あおいと美里を呼ぶ。
あおいはなんだか暗い表情で、美里は鬼瓦のよう。
ひぃいい。
「とりあえず、うちの教室行こうぜ?」
「…了解。葵?ほら。行くよ。」
「…う うん。」
****************
「──えー。というわけでみんなこれからこいつと仲良くしてやって欲しい。以上。質問はメシ食いながらだ。」
俺の机に空を座らせ、まわりに俺、あおい、美里、千秋、万由、聡、ハカセと、机を合わせて昼メシ。
あらかた紹介も終わってそれぞれ弁当を拡げてる。
俺はチャーハンっと…あっ。万由に貰ったサンドイッチがあったんだ。先に食わなきゃ入らねえ。
サンドイッチを拡げてると万由が嬉しそうに
「辛いのいけるのか分かんなかったけどマスタード使ってるよ?」
とたんにあおいの表情が曇り、美里が鬼瓦にトランスフォームする。
「あ…あぁ。マスタード大丈夫だよ。さんきゅ。」
美里の視線が頬に痛い。レーザーか?
あおい…そんな顔すんなよ。
サクサクと急ぎ早に食べ進めて味が分かんなかった。
「万由ちゃんごちそうさま。美味しかったよ。」
「うん。お粗末さま。食べるの早いよねー。美味しそうに食べてくれて嬉しかったけど。」
そうだったか??俺のスキルもなかなかのもんだ。
さてと、俺の弁当だ。げふっ。
見ると空は黙々と食べている。嬉しそう。だけどお前それは…。
あおいのほうを見ると…あおいはまだ弁当開けてないのか?早く開けろ。いつもの様に笑ってくれ。
代わりに空がにっこり笑って
「…蒼音?これすごい美味しいよ?きんぴら?このリンゴとマヨネーズのサラダなんてほんと美味しい。チャーハンも。よくあんな短時間で作れたよね?」
「空がトロすぎるだけだよ!こんなのあおいなら15分もかかんねーよ。」
「…へぇぇ。凄い…。」
空があおいのほうをキラキラと尊敬の眼差しで見てる。
「…もぅそーと。あんたも出来るじゃない。」
「年季が違うからな俺らは。ふふん。」
「…っていうかそーと?そのお弁当も作ってあげたの…?」
「……あぁ。こいつがなんも支度せずに優雅にコーヒー飲んでるからだよ。セロリが苦手だって言うから、セロリづくし。ははは。」
「あたし、セロリ好きなのかと思ってた!そんなにセロリばっかりなんだもん。」
空がとたんにアワアワしだす。
「What?! Is this lunch Celery?! 」
ニヤニヤする俺を見ると空は
「Damn!what the hell you doing蒼音?!」
フォークを握りしめ激怒して肩で息する空。
「ははは。でも、美味しかったんだろ?is it wrong?」
「……美味しかった…。its amazing!美味しかったよ?蒼音!凄い‼」
一転して目を見開いて驚いてる。
「そうだろそうだろ。それはあおいのレセピなんだよ。な?」
あおいにウィンクするとちょっと照れて
「…昔そーとがセロリ嫌いだったから、いろいろ考えて作ってみたの。それだったらセロリの味が気にならないからパクパクいけちゃうよね?空ちゃんも美味しそうに食べてた。」
「……うん!葵凄い‼私の料理の先生になって?! お願い!」
あおいの手を取って懇願する空。
あおいは複雑そうにうなずいた。
美里がにこやかに
「良かったね空ちゃんも葵も……って葵?お弁当食べないの?開けもしてないじゃないの?」
「……うん。食べるよ。」
とやっぱり元気なさげに言う。
ノロノロと弁当を開いて、固まる。
やっと開けてくれた…笑えあおい。
……あおい?
蓋を開けて固まったまま動かない。
心配そうな千秋が
「…葵?どした?蒼音くんが嫌がらせしてんの?」
と心外なことを言う。千秋コラ。
「…………。」
あおいは無言で首をふるふると振る。ついには口を押さえて泣き出す。おいおい。
美里が俺にまたトランスフォームした顔で
「蒼音くん!葵のお弁当に何しやがった?! 」
「いやいやいやいや?! 何もしてねーよ!あれ?! なんで?! 」
千秋まで
「何もしてないわけないでしょぅ?! じゃぁなんで泣くの?蒼音くん!」
二人に責められてオロオロしてると、あおいが美里の袖を引っ張って首を振る。
「…ちがう……違うの…。嬉しいの…。…これ……食べれない…。」
一同が弁当に向かう。
空が口に出して読んで、笑って肘で俺をつついた。
「You're the One 4 me. いいなー葵。幸せだね?」
美里と千秋とハカセが顔を見合わせて笑った。
万由と聡は複雑そうだったけど。
まぁいいんだ。あおいが笑ってくれるなら。
****************
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