第8話 柴犬かパグか
空を送ってって家に着いたのが、21時を過ぎた辺り。
そっから鉄板磨いて店片付けて、晩メシ食って風呂入ってたら、すっかり23時も超えていた。
ふぅ…。今日はほんと、慌ただしかったなぁ。
一気にいろんなイベントが起こりすぎて、ひとの名前覚えてるんで精一杯だったぜ。
…でも。最後にあんな最高な出逢いがあったから…。
へへ。空ちゃんかぁ。綺麗な声だったなー。
「……そーと?入るよ?」
妄想突入してたら突然声かけられて飛び上がるほどどっきりした。
なんだあおいか。
「いーよ。」
濡れた髪にタオル巻いたあおいが、寝間着にしてるいつもの長いTシャツ姿でやって来た。
こんな姿、ハカセが見たら鼻血噴いて倒れるに違いない。
俺は机で明日の時間割しながら、コタツに座るあおいを見た。まだホカホカだ。風呂上がりたてなんだな。
「…遅かったんだね?…おばちゃんから聞いたけど…。」
母ちゃん!どんなことを?!
余計なこと言ってないだろーな?!
「あぁ。ちょっと帰りに河川敷行ってたから。」
「万由ちゃん…だっけ?…と?」
「いや?! 一人だよ!万由は真っ直ぐ家に届けたぜ?」
バカか俺は?! 焦んなくても…余計に心配させてしまうだろうに。
ほら?あおいが固まってる…。
「…好きなの?万由ちゃんのこと。」
えぇぇえぇぇ!
「ちょっ!ちょっと待てよあおい?!
なんでそうなるんだよ?! 」
あおいはうつむいてきゅっと目を閉じてる。
「……だって。騒ぎになってて…部活…。そーと覗きに行ったら抱きついてたり…。…だっ 大好きだって言ってたり…。」
…見てたのか…。まぁそりゃそうだな。大騒ぎだったもんな。
「帰りも…ずっと腕…組んでて…。あたし、一緒に帰ろうと思ってたけど、女の子たちに囲まれてたし…仕方なく美里んちに連れてかれて…。なんか…ごめん。面倒くさいね。うん。らしくない。ごめん。おやすみ。」
すっと立って出ていこうとするあおい。
とっさに手を掴んで引き寄せる。
「…うぅぅう……ごめんなさい…。あたし…面倒だ……。」
うつむいて泣いてるあおいを見たら、どうしようもなく自分に腹が立った。
あおいをぎゅっと抱きしめる。
「…あおい?ごめん…。万由ちゃんは何でもないよ。妙に懐かれちゃっただけだよ。本人も、ファン的な感じなんじゃないかな?
今日は軽音部の部長にまんまとハマって、あんな目立ってしまったしさ…。それに、お前以上に可愛いヤツなんてどこに居るんだ?毎日毎日こうしてこんな病的に可愛いお前を見て育って来たんだぜ?もしもこの先、お前を超えるヤツが現れたなら、そこは心配してくれよ。な?」
あおいが顔をあげて膨れる。
「あたしより可愛いひとなんて、結局はそーとの主観の問題じゃない。そーとにとって柴犬が綺麗か、パグが綺麗かって話でしょ?じゃぁあたしはずっと心配だよ?それじゃぁ姿かたちなんてあたしじゃなくても良いんだもん。」
…それはそうなるな。いかん。理詰めじゃぁ学年一位には敵わん。じゃぁ素直にここは。
「あおいは俺の唯一無二だよ。お前の前でしか泣けないし、お前の前でしか甘えたり出来ない。お前の前でしか見せられない顔いっぱいある。
お前が居ないと俺は止まってしまう。成り立たない。歌えない。これが素直な今の気持ち。……ダメかな?」
必死に言ってたら胸の中であおいがくすくす笑う。なんだよ?
あおいにぎゅぅっと抱きしめられる。
「嬉しいよそーと。ありがと。ちゃんとあたしを見ててくれてるんだね。新しく知り合った女の子たちばっかり見てて、あたしのことまったく忘れてんのかと思ったよ。流されやすいからねー。そーとって。」
「失礼な!ちゃんと見てるよ!…でも俺はあんまし心配してないけどな?お前がどんなヤツに言い寄られても。」
顔をあげて抗議するあおい。
「あー。あたしだってわかんないんだからねー!今日だって2年や3年の先輩たち何人かから誘われたし!」
「早いなぁ。さすがだな。よしよし。」
と頭を撫でる。
「むー。心配してくれないんだ?可愛くないんだ?ぶー。」
「だって断るだろ?お前。そんなヤツ苦手だし。」
「うっ。そうだけどさ…。」
「ほら。だから心配してない。」
「信じてくれてるのは素直に嬉しいけど…釈然としねぇ‼」
猫みたいにふーふー言ってるあおいの濡れた頭をタオルで拭いてやりながら、明日の朝はどうしようかなぁとか思ってる。言わなきゃいけないんだよなぁ。
「あおい?明日の朝、俺早く出るから。チャリで。」
「どうしたの?朝練?じゃぁないよね?」
「ちょっと古い友だちを迎えに行くんだ。アメリカで知り合った友だち。」
「アメリカで?そーとが?誰?」
あおいはすっごく不審そう。そりゃそうなるよな。でも言っとかなきゃ。
「あおいと同じクラスの子。ハーフなんだけど…。知らない?」
「…分からない。そんな子居たっけ?」
「目立たないように努力してるって言ってた。ちょっと人間が苦手なんだよ。それで、俺が毎日送り迎えしたり、昼メシ一緒にしたりして友だち増やしてやろうかと。ね。」
あおいはため息を吐いて笑った。
「そういうことなら協力するよ。同じクラスだしね。名前は?」
「さんきゅ。名前は…佐久間 空。
プラチナブロンドの綺麗な女の子だよ。よろしく頼むよ。」
「…女の子なんだ…?ふぅ…。」
また大きな嘆息をしてあおいは、俺の胸に頭を預けて来た。
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