第5話 恋は桜混じりに



 結局

 一曲どころか、先生方からもリクエストが出たりして、合計10曲ほどプレイして終了。途中、顧問の先生とBeatlesやったり、黒レスポール使いの服部先輩とホワイトスネイクやったり、かおり先輩とナイトレンジャーやったりと、かなりの盛り上がりをみせ、俺はすっかり時の人になってしまったよう。

 今は、たくさんの知らない人に囲まれて下校中。いろんな女の子たちから質問責めに遭ってた俺を、さりげなく万由がガードしてくれながら帰ってる。っていうか…

「万由ちゃんって帰り道違うんじゃね?俺んち、桜橋の上だよ?」

 万由は俺の左腕に絡んで

「そうだよ。蒼音くんちのお好み焼き買って帰ろうと思って。さっ。行こ行こっ!みんなじゃぁねー!」

 と腕を牽いて駆け出す。

 俺はすっかりなすがままに引きずられ帰宅することに。

 時刻は17時過ぎ。遅くなっても大丈夫なんだろうか?この子。



 ****************



「ただいま。」


 引きずられるままに家に着いたけど、着替えに戻る訳にも行かず、そのまま店に顔を出す。

「あら蒼音おかえり……いらっしゃい…?」

 母ちゃんの目が俺に絡んだ万由に向けられてる。そりゃそうだな。

「お母様はじめましてー!私、蒼音くんのクラスメイトで軽音部ドラム担当の柊 万由と申します。よろしくお願いしまーす!」

 と深々お辞儀をすると、母ちゃんは笑顔で万由に向かい

「あらあらはじめまして。蒼音の母です。まー早速可愛らしい子捕まえて来やがってこのジゴロ息子は。いらっしゃい。ゆっくりしてってね。」

 その言葉に万由は嬉しそうに手を胸で合わせて

「はーい。ありがとうございます!お母様すっごい綺麗ー!やっぱり蒼音くんのお母様だねー。カッコいい!」

「やだ。この子ったらかわゆいわね?蒼音?でかしたぞ。」

 母ちゃんはまんざらでもないみたい。

「……ちょっと着替えて来るから。この子お好みテイクアウトだって。」

「あら?お好み焼き食べてくれるの?じゃぁありありのスペシャルサービスしたげるわね?御家族何人?」

「4人ですお母様!わー嬉しい!」


 …なんだか気があってる二人を尻目に二階へ。

 店の黒のTシャツと黒の長いソムリエエプロンに着替えて戻る。

 …ふぅ。なんか嫌な予感しかしないんだけど…。



 ****************



「………でね?泣きわめいてたの!」

「ほんとに?! 蒼音くんって泣き虫だったんだ?! 可愛いー!」


 ……すっげー盛り上がってる…。

 18時超えてるぜ?大丈夫なんだろうか?

 とりあえず教えとこう。

「…えーっと。万由ちゃん?帰んなくて平気なのか?時間?」

 ケータイを確認する万由。

「ほんとだ!帰ったら19時超えちゃう?! お母さんにさっきLINEしたからお好み焼き待ってるはず。じゃぁそろそろ帰ります!お母様ありがとうございました!楽しかったぁ!」

「いえいえ。蒼音居なくてもいいからいつでも来てね。蒼音?送ってきな!」

 俺は黙ってエプロンとバンダナを外して、店先にマウンテンバイクを回して来る。配達にも使うからキャリアをわざわざとり付けている。

「後ろ。乗れよ。」

 万由が紅い顔で荷台に横座りする。

「…ありがとう。お願いします。」

 母ちゃんがにこやかに手を振り見送る中、万由を乗せたバイクで桜橋をゆっくり下っていく。

「遠慮しないでいいからぎゅっとしがみついてて?危ないからさ。」

 その言葉に、遠慮がちに手が添えられていた腰が両手でぎゅっと抱きしめられる。それを確認して俺はスピードをあげた。

「……ほんとハマっちゃった。」

「…ん?! 何?! 」

 何か呟いたのが背中に付けられた口の感触でわかった。

「…なんでもないよ!ありがとうって!」

「いいよ!こっちこそお買上ありがとうな!」


 桜混じりの温かな風が、柔らかく耳元を撫でていく。

 腰にしがみつく万由の力がちょっと強まった気がした。



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