第4話 Introduction.─in the Blue Note─



「……千冬? …ちふゆー!……ちょっとちょっとー?」


「…なに都? なんでそんな小声で………あらまぁ。」


「でしょ?ふふふ。かーわいぃ。」


「……二人とも幸せそうに寝ちゃってまぁ。」


「……でもね。これを見て‼じゃじゃ~ん‼」


都が布団をめくると、蒼音が腕枕している葵は、パジャマをはだけて、下は完全に脱いで、ほぼほぼ全裸で蒼音に絡みついている。


「まー‼ どんな状況なのかしら!

……蒼音は苦しそうだけれど。ふふふ。」


「ね?おもしろいでしょー?

葵のこの幸せそうな顔見てよ。ね? ヤっちゃったのかな? ね?千冬ー?」


「きゃぁぁ。ヤっちゃったのかな? わくわくするね?都?」


「どうしよう?蒼音と葵の子供なんてもぅ‼

ああぁもう私。それだけでごはん三杯はいけちゃぅわ‼」


「私もよ都? きっと可愛いでしょーね。この子たちの子供なら。アイドルくらい…いぇ。ハリウッドデビューくらいしても大丈夫ね‼」


「あぁぁ。早く産んで葵!私、私もぅ我慢出来ない‼」


……うっせーな……朝から……


「……ん?……母ちゃんとおばちゃんかよ……。

朝から何騒いでんの?…もぅちょっと寝るぜ?…俺は……」


ほんっと元気なおばちゃんだよまったく……


「ねぇねぇ蒼音ー?ねぇ蒼音ってばー?」


「なんだよーおばちゃん?寝かせてよー!」


「葵の身体。良かった?」


「……へっ?! ………」


おばちゃんが俺のほうを指差して………あおい‼


「わっ‼わ‼ いやいやこれは!……いやいやいやいや‼」


「照れなくていーわよー。もぅ。可愛い子ねぇ。

ちゃんと葵でイけた? 葵はちゃんとイかせた? ねー蒼音ー教えてよー。ねー?」


「やっ…やっ‼俺は!その……」


「……なぁにーそーと?……何騒いでん…………みっ 都ちゃん?! ……あっ…あたしっ?! ……きゃ‼」


あおいも起きた。早速この異様な状況に取り乱してる。…そりゃそうだろう。


「……ん?………葵~?あんた……?ヤっちゃってないでしょ?! 」


「な な な…何?……都ちゃん?! 」


「いーえ。母のこの曇りなき眼で見る限り、こいつはまだ処女臭いわ?! どぅ思う?ちーちゃん?! 」


「…くんか…くんか…。えぇえぇみーちゃん。確かにこいつはまだ処女臭いわね?! ということは……」


キッと二人は俺を指差して


「「何やってんだこのバカ野郎め‼‼」」


「手を出さなくて怒る保護者ってどうなんだよ?! 」


「葵がこんなに頑張ってひと肌もふた肌も脱いでんのにねー。可哀想な葵……おーよしよーし。」


「母ちゃん何言ってんだよ?! 」


「それともなにか蒼音?! うちの自慢の娘じゃぁちんちんも起たねーってのかコラ?! 」


「おっおばちゃん?! 俺はっ‼……そのっ…ちゃんと……%¢☆&$」


「あんだって?蒼音? はっきり言いな!男の子だろ?! 」


「…ちゃんと起つよ‼ ほんっと大変だったんだからな?! 」


「じゃぁなんでヤっちゃわないんだよコラ?! 」


「……だって……だって…あおい死んじゃうかと思ったんだもん…そんなんやだよ。」


「へ?お前?何言ってんの?

千冬?こいつ何?」


「…さぁ? 葵? こいつ何言ってんの?」


「……え?! あたし?! ……いやだからその……あたしが…胸で……イっちゃって……その……¢☆&$%」


「葵あんた胸揉まれたくらいでイっちゃって満足しちゃったの?! そういうこと?! 」


「…えーと……9割方はそうです……」


「…都。この子ダメだわ…。あんたに要らないとこまで似てるみたいね? イきやすい体質。」


「あらまぁ。でも初めてからイけちゃうからいいのよ?これ。痛かったの最初のふた挿しくらいだったもの。もぅ気持ちよくって気持ちよくって処女喪失だとかそんなもん考えてるよゆーなかったわ。何回イっちゃったかわかんない。」


「……都ちゃんも?胸だけで…その…イっちゃう…?」


「うんもちろん。好きな人限定だけどね。5分でイけちゃう。あんたもそぅでしょ?蒼音だから…ね?」


「……そっかー。……あたし…変じゃなかったんだー…良かった。」


「まぁまぁそういうことだから。

はい。早く産んで?お願い!

蒼音もさっさとヤっちゃいなさい。私も千冬も勇二くんも楽しみにしてんだからね?早く。」


「……どんな親だ?! 怖ぇよ?! 」


「さてさて。私たちはもぅ行くわ。

なんだったら続きヤっちゃってね?じゃぁね~。」


「ふふふ。頑張ってね~蒼音~。母ちゃん店に行くから~じゃぁね~」


な なんだったんだ……。


****************



嵐の様に過ぎ去った親御さんたちを見送ったまま、二人とも呆然と動けない。

でも……明るいとこで見たら……これは……。


あおいの裸身に見とれてしまう。

なんて綺麗なんだ…。


おばちゃんが自慢の娘って言うだけはあるよ。ほんと。

首筋から鎖骨のしなやかな線。

大きいけれど上を向いた形のいい胸。紅いというより明るいピンクの乳首。

胸と病的に華奢なウエストのギャップが、より一層身体の減り張りを強調してる。

なんだよ。この綺麗さ。

幼なじみ的なひいきめなんかじゃない。

こいつは本当に綺麗なんだ…。

…他の男なんかに見られたくない。


あぁ ヤバいヤバい。また……。


「……おはょそーと…。……どうしたの?」


「いっ…いや…あの……綺麗だなって……。」


「やだ?! それで見てたの?………嬉しいけど……ふふ。」


悔しいけど

そんな風に笑われたらもぅ。たまんねーよ。


「……とりあえず…着替えて外に行こうか?」


「…うん。そーと?ペンダントつけてね?」


「あぁ。そうか。じゃぁこっち来て。」


「はい。やっぱこれ綺麗ー。ふふふ。」


もはや何一つ隠そうとしないあおいは、ほぼ全裸のまま、ぺたんこ座りで俺のほうに上向く。

あおいに抱きつくような格好になるけど、それがまた…くぅぅ…いいにおいだ。


「そーと? ……ん。」


へっ?目閉じて何してんの?あおい?


「……え?」


「……ん。……ってば。もぅ。」


なに? 何すんだこれ?


「……んー。………もぅ。ちゅぅはー?一回も二回も同じでしょ?はい。ちゅぅー。」


「………ちゅ。」


「はい。良くできましたー。ふふふ。」


や ヤバい。可愛くてまともに顔が見れねー。

どうなっちゃったの?俺。


「着替えて来るね。準備出来たら迎えに来て。」


「…うん。」



****************



「あおいー。どうだー?仕度出来たかー。」


玄関先からあおいを呼んでみたら、奥からぱたぱたとおばちゃんが出てきた。


「うふふふふふっ。蒼音ー。ビシッと革ジャンダメパンでキメちゃって。今日はどこ連れてってくれんのー?」


「うん。お世話になってるカボワボでさ、今日はちょっとしたイベントがあるんだ。あおいって邦楽のアーティストよく聴いてるじゃん?今日はカバーバンドイベントで、色んな邦楽のカバーバンドが集まってるから、色んな曲を聴けるんだ。」


「へぇぇ。神野くんとこか。そりゃおばちゃんも行きたいなー。

って邪魔しないからのんびり楽しんできな。」


「うん。帰りはなんか食って帰るからメシ要らないよ。あんま遅くなんないと思うけど。」


「いやいや遅くなれよお前。せっかくの誕生日なんだから。あの子。気合い入れてるよ?ふふふ。」


「……遅くなれとかおかしいだろ…。」


「そーと?ごめーん。お待たせーっ。」


「ほら来たぜお姫さまが。」


「………………………………。」


「なんだよ蒼音?なんとか言えよ?どうだ‼惚れ直したかこの野郎‼」


「………そーと?………変……かな…?」


黒と赤をベースにしたレースをふんだんにあしらったコルセットワンピース。

ゴシックパンクって言うんだろうな。ストラップ無しで、胸と肩の部分が大きく開いた膝丈より少し短いワンピース。胸の谷間に挟まるようにアクアマリンのペンダントが光っている。真っ黒のニーハイを合わせて、髪は紅いシンプルなピンで片側の前髪をきっちり上げている。もともと色白できめ細かいのでメイクはほんのりだけ。でも唇には鮮やかに紅い口紅を差している。

まだまだ肌寒いので、前に一緒に買ったスエードのライダージャケットを手に持ってる。焦げ茶でしかもスエードのライダージャケットなんて、珍しくてロックで俺が一目惚れしたヤツだ。絶対あおいに似合う。ちくしょーヤバい。

とにかく。カッコいい。綺麗。

それしか出ない。


「………すげぇ……綺麗だ………。」


「おっ。本音が出たねこの野郎め‼

脱がしてお持ち帰りもアリだからね?」


「もぅ!都ちゃん!

………ありがと…そーと…。行こっか。」


「う うん。手。貸して。」


「あ。はい。ありがと。」


あおいの手を取って歩き出す。


「なんだ徒歩で行くのかお前ら?チャリは?」


「…いーよ。ゆっくり歩いてく。

あおいのワンピ。汚したくないし。」


「あらあらこの野郎。なかなかジェントルじゃねーか?気をつけていくんだよ?」


「うん。行ってくる。」



****************



商店街から緩やかに続く長い坂を登り、少しだけ街を見下ろすことの出来る小高い丘の上に俺たちの家がある。

坂の両脇にはいくつも桜が植えてあり、この季節になると桜に提灯を灯してライトアップするので、夜はちょっとした名所になっている。

駅から見上げると、まるで空へと続くピンクの橋の様で、地元の人間はみんな『桜橋』って呼んでる。

基本、学校関係は坂の下なので、俺もあおいも毎日この桜橋を通学してきた。


「そろそろ桜が咲きそうだね。今年は寒かったからちょっと遅れてるけど、またそーとと一緒に桜橋を通えるんだね。 」


あおいは本当に嬉しそうに微笑む。

俺も嬉しい。っていうか、一緒に通えないとか想像も出来ない。

それくらいいつも一緒に居たから。


でも、

俺はあおいが推薦を全て蹴ってまで、俺と同じ高校を選んだことを知ってる。

本当は、この辺で一番の進学校の推薦が決まってた。あの時は、「家政科があるからね。」という説明に納得してたけど、そんなわけない。ちゃんと近くに家政科がしっかりした偏差値の高い高校がある。だけどあおいは俺と同じとこを選んだ。

でも、昨夜のことで、鈍いながらもさすがに気づいたよ。

こいつは俺を選んだんだ。

いや。思い起こせば、ずっと俺を選んで来てたんだ。

そう考えたらほんと、なんだか自分が情けない。

なんでもっと早くに気づいてやれなかったんだろう。

俺の中であおいはいつでも家族だったし、物心つく前からずっとそばに居て、一緒に大きくなるのが当たり前だと思ってた。

だけど、こいつはこんなにも女の子だったんだ。ほんと恥ずかしい。情けない。

ごめんな。あおい。


「…何考えてるの?」


あおいがうつむいて歩く俺をのぞきこんで笑う。


「……あおいのこと。大丈夫。俺も頑張るよ。」


「突然何言ってんの?

でもそーと。 頑張んなくていーよ? あたしの前では、頑張んなくていい。

あたし。カッコ悪いそーとも情けないそーとも、ぜんぶ知ってるから。

ぜんぶ見てきたから。

だから、あたしの前では頑張んなくても大丈夫。絶対嫌いになんてならない。

どんなそーとでも大好きだからね。」


「……あおい。」



ひとを心から愛するって。

愛してるって。

こういうことなんだろうな。


音楽でも

世界にはたくさんのラブソングがあって、『愛』って言葉は本当にたくさん世の中に溢れてる。

みんな誰もが、自分のこの溢れる『愛』を伝えたくて、なんとか形にしたくて、相手に分かってもらいたくて、しょうがないんだろうな。


でも、こんなにも言葉は上手く伝えられないから、何とか音に力を借りてでも、乗せて伝えようとしてる。


ほんとだ。

歌の歌詞にもあるけど、想いって上手く言葉に出来ないもんだな。


あおいへのこの想いを

いつか俺の音に乗せれたらいいな。

いつかあおいに届けられたら、いいな。



****************



「蒼音くん?」


ふいに後ろから声をかけられる。

振り向くと…美里だ。


「おー美里。昨日はさんきゅな。」


「…桐野せんぱいだ…」

「…蒼音せんぱい女の子連れてる……すごい…綺麗…」


後輩たちを連れて出かけるところみたいだな。美里の後ろで口々にボソボソと言ってるのが聞こえる。

うへー。知り合いに逢いたくなかった。


「上手くいったの? 葵、喜んでたでしょー? 葵にみんな連絡してんだけど、出かけてるみたいなんだよね。私たちもプレゼント渡したくてさ。葵どこだか知らない?…………って、蒼音くんは今日はデート?」


ん?

なぜだか訝しげに見られてる。

後輩たちも口々にあおいのことを言ってるみたいだ。

ってか、


「本人に聞いたらいいじゃねーか。」


眉間にシワ寄せて美里が


「は? だから連絡つかないんだってば。あの子おうちの人とどっか出かけたのかなって。みんな連絡してもケータイ通じないのよ。」


は?意味わかんねー。

あおいに振り返って…………ん?

あおい?  後ろ向いて顔そらして…


「……コラあおい。美里にもしもしって言ってやれ。

もしかして、昨日からケータイ切ってやがんな?」


あおいは振り向いて満面の笑顔で舌を出した。


「てへ。やっほー美里。安藤ちゃんに吉見ちゃんと佐藤ちゃん。どっか行くのー?」


一同がそれにどよめいた。


「「「えぇぇぇぇえ?! 」」」


こいつ………。バックレてやがったな?


「あ 葵? …葵だったの?

……また蒼音くんが綺麗なコ連れてるわーとしか思ってなかったわ‼

何よその…その…その格好?!

めちゃくちゃ綺麗じゃない?! 大人の女かと思った……。」


「えへ。ちょーっと気合い入れておしゃれしてみましたー。バレないならバレないでそのまま行こうと思ったんだけどねー。

ごめんね。昨日からあたしケータイ持ってなかったの。また夜に連絡しようと思ってたから…。」


「……いやそれはいいんだけど…みんな困ってたよ?誕生日お祝いしてあげたいけど、ケータイも家電も連絡つかないから、旅行でも行っちゃったかなとか…。……まさかずっと蒼音くんちに居たとか…?」


「正解ー♪そーとのストリートで稼いだお金のおごりで家族ですき焼きパーティしてたの。そっからずっとそーとん家に居た。

………ごめんね美里。みんなに言っといて。夜に連絡するからって。」


「ごめんな美里。俺があちこち引っ張り回してたんだよ。ほんとごめん。それから誕生日ちゃんと覚えててくれてありがとな。」


「……相変わらず仲いいわねー蒼音くんと葵は。

ここに居る後輩たちも君のファンなのよ?ずっとチョコも貰ってたから顔も覚えてるでしょ?…あなたちょっと自覚しなきゃ、葵が可哀想よ?

散々言われて来てるんだから…。」


「ちょ 美里?! そんなこと言わなくていいって…」


「いやいや言わせて貰います。

高校に上がったら他所の中学出身の子たちも居るし、先輩たちも居るんだから。

…蒼音くん?あなたは目立つんだから、ちゃんと自覚して、しめるとこちゃんとしめて、いい加減な返事や対応してちゃダメ。それで今までたくさんのコが勘違いや期待しちゃって、葵がどんだけ陰で言われてきたか…知らないでしょ?知らないわよね?葵は絶対言わないでしょうからね。

葵が大事なら、ちゃんと葵を見てあげて。

ちゃんと、葵を解ってあげて。

私が言いたかったのはそれだけ。」


し ……知らなかった……。

ちゃんと見てって

昨夜あおいが言ってたのと同じ……。

俺。ほんとにあおいに甘えてばっかりで、楽に逃げてきたんだな。

あおいを守るって……守られてたのは俺のほうじゃないか……。


「……美里。ありがとな。

葵を見ててくれたんだな。ほんとありがとう。ごめんな。」


「解ってくれれば結構です。

葵ー?アクアマリンすごい似合ってる!チェーンもぴったりの長さでしょー?すごく綺麗よ。」


「…ありがと美里。あんたが選んでくれたんだってね? ほんといつも感謝してますよ。姐様?」


「えぇえぇ妹分。あんたは世話好きなクセに、自分の世話はほんっと出来ないんだから。…………でもほんと綺麗よ。はっきり言えたの?蒼音くんに。」


「………うん。……ごめんね美里。」


「私はいーの!こんなヤツよりもっともっともっと素敵なヤツ連れて見せびらかしてやるんだからね‼」


「……美里……。ありがとう。」


「じゃぁ私たちは行くけど、蒼音くん?葵を泣かせたら私が許さないからね?ちゃんと守ってあげてね! 葵? みんなにとりあえずの連絡はしとくからね?……楽しんでおいで。じゃあね~。」


…美里ありがとな。あおいは任せろ。



****************



そして俺たちは商店街を抜け駅南の路地に入る。ここに俺が世話になっているライブバー『Cabo Wabo』がある。

一階はちゃんとした楽器店で、けっこうマニアックな機材がところせましと並んでいる。

二階は喫茶&軽食店で、夕方からはショットバーに様変わりをする。

色んなジャンルの曲が楽しめて、アコースティックのライブも出来たりする。

地下はライブスペース。

けっこうしっかりとしたPAが揃っていて、アンビエントもよく計算されて造られているので、ジャンルを問わずたくさんのプロミュージシャンも利用してる。この界隈では有名なハコだ。

俺もたまにお世話になってる。

実はオーナー兼店長の神野さんは、父ちゃんのプロ時代のバンド仲間。

タイコ叩いてた。センスと巧さが半端ない。ほんとすげぇ。


「さて着いたっと。あおい?なんか飲むか?」


「うん。ちょっと暖かくなったもんね。」


「じゃあ上でパフェでも作ってもらうか。」


二階に上がるとこの時間はまだ喫茶店。

こんな目立たない立地にもかかわらず、たくさんのお客さんでごった返す。

センスのいい店内に低く響くジャズが心地いい。

メニューは、ニューヨークの名ダイナーで長く修行してた神野さんの奥さんのシンディさんが、最新のトレンドに合った自分の好きなものを厳選したオリジナリティー溢れるメニューばかり。だから、流行に敏感な中高生の女の子たちから絶大な人気を誇っている。

神野さんは父ちゃんのバンドのツアー中にシンディさんとNYで出逢って、一時はNYに住んでたんだけど、解散後は店を出してあげたいからとタイコを降りて、ここで店を構えている。

だからここのお客さんは外国人も多い。有名なアーティストも神野さんとシンディさんに逢いに忍んで来たりもする。

俺も父ちゃんと母ちゃんに連れられ、ガキん頃から何度か有名なアーティストに逢ってたりする。

今日はシンディさん出てるかな……?


「Hey!Blue note?! How's goin'!i miss you so much!! 」


やた!シンディさん居た!


「i'm fine!! long time no see Cindy! miss you too!!!

あおい?この人がオーナーの奥さんのシンディさん。

Cindy? This girl is my girlfriend 's Aoi. It is my …precious girl.」


「……はっ初めまして。葵です。」


「My Goddess!! She's sooo cute?! ……you gotta make it Blue note?

Indeed Tact's son. Truely. 」


「ははは。i gotta made it!! 」


「………そーと。凄い‼ あたし知らなかった……。

ちゃんと外人さんと……英会話してる……。」


「そっか。そうだな。ガキん頃から父ちゃんにひっついてよくNY行ってたからなぁ。イギリスにもよく行ってたしな。」


「そう言えばそうだったよね。よくお土産貰ってたね。

それにしても……なんで英語あんなに成績悪いの?! 意味わかんない。」


「ネイティブな日常会話と日本語英語ってぜんぜん違うんだぜ?日本の英語覚えて成績良くたって、海外行っても一歩も通じないぜ。俺ちんぷんかんぷんだもん。学校の英語。文法とかなんとか意味がわかんない。」


「へぇー知らなかったよ。あたしにはさっきからのそーとたちの会話のほうがちんぷんかんぷんだもん。ほんとにわかんないもんなんだね。日本の英語覚えてても。」


「ちなみに、母ちゃん英語ペラペラだぜ?ネイティブスピーカー並みに。」


「えぇぇ?! おばちゃんが?! 知らなかった…。」


「ふふん。何気にグローバルな家庭だからなうち。」


「でもカッコよかったそーと。

さっきあたしの紹介してくれてたんだよね?

なんて紹介してくれたの?幼なじみ?」


「い いや……そうだったな……そうそう。幼なじみって。」


「んー?怪しいなぁ。ほんとに?余計なこと言ってない?」


「言ってない言ってない‼ 幼なじみの女の子って……」


「あら。ブルーノート? そこのあおいちゃんは俺の大切な女の子だって言ってたよね?こんなキュートな女の子掴まえてあんたなかなかやるわねーって言ったら、やったぜ俺!って言ってたじゃない?」


「わっ!シンディさん?! 突然日本語とか反則だよ?! 」


「…………そーと…。ありがと…。」


「あらあら。そんなに慌てちゃせっかくのいい男が台無しだわ? あおいちゃん?なんか作ったげよーか?パフェとかがいい?」


「日本語お上手なんですね?すごく綺麗な日本語。

なんでもいいです。ありがとうございます。」


「遠慮しないでいいのよ?ブルーノートの大切な女の子なら、私の家族と同じなんだから。……ほんとこのコ可愛いわねブルーノート? よくやったわ。褒めてあげる。」


「……ありがとーシンディさん。バラしてくれちゃったし嬉しいよ。」


「もっと堂々と愛を語りなさいブルーノート。天国の拓人に笑われるわよ?」


「へいへーい。父ちゃんがカッコ良すぎんだよ。息子はいい迷惑だよ。まったく…。」


「じゃぁパフェでいい?あおいちゃん。とびっきり美味しいの作ったげよ♪」


「ありがとうございます!」


「まぁどっか座ってよーぜ。俺シンディさん苦手なんだよな。ちっちゃい頃から。親戚のおばちゃんって感じ。口うるさい。」


「ブルーノート?聞こえてるわよ?」


「うへーすんません!愛してるシンディさん!」


「よしよし可愛いコねブルーノート。あなたはいつものフラットホワイトで良いわね?」


「さんきゅー。」


「ねえねえ?なんでシンディさんそーとをブルーノートって呼んでるの?」


「あ? あぁ。ブルーズやロックンロールの音階の中に『ブルーノート』って呼ばれてる音があるんだよ。こぅ…ちょっとだけ外れたよーな音。無しでも充分に音階として成り立つんだけど、そのたった1音を入れると、世界がガラッと変わるんだ。ブルーノートを極めるギタリストは全てを極めるっていうくらい、ロックンロールやブルーズには鍵になってる大切な音。

俺の名前の由来だよ。蒼の音。だからブルーノート。

オーナーの神野さんもシンディさんも父ちゃんの親友だからな。バンド仲間。だから父ちゃんを知ってる友達はみんな俺をそう呼んでるんだ。」


「そうだったんだ……今日はそーとの私が知らなかったことばっかりに出逢えて嬉しい。ぜんぶ見てきてぜんぶ知ってるはずだったのに……。

ふふふ。ブルーノートかぁ。カッコいいな。」


「俺も好きだよブルーノート。

なんかすごく特別な音なんだ。」


「へぃお待ちー!あおいちゃんはこれ。ラズベリーとワイルドベリーのベリーベリーパフェ。お好みで上からこのシロップかけて食べて。キャラメルアップルのシロップ。

ブルーノートはいつものね。フラットホワイト。お待ちー。」


「うわー!すごーい!綺麗で食べるのもったいない‼ けどいただきまーす‼

ん~?! おいしーい!キャラメルアップルってすごいです!ベリーの味がすごい変わるんだ‼おいしーい!」


「ほんっと可愛いコ!たまんないわね‼ あんたグッジョブよ?ブルーノート。毎日連れてきなさい。」


「出来るだけね。高校上がったらあおいも毎日来ればいいよ。タダで食わせてくれるぜ?」


「ほんと? シンディさん好きだし、あたしほんと毎日来たいな。」


「もーどんだけ可愛いのよあおいちゃん!

大丈夫。毎日来なさい。ってかうちの養女になりなさい!」


「それはダメだ‼シンディさん。

こいつはうちのコ決定してんの。母ちゃんの中で。」


「くーっ!千冬のヤローめ。ツバつけてやがったな?あいつ覚えてろよ?! 」


「ふふふふ。シンディさんって可愛い。絶対またお邪魔しますね。」


「ま。このコったら上手ね?

見たとこセンスもなかなかいいみたいだし… ちょっと磨けばそんじょそこらのハリウッド女優より綺麗になると思うわ。……ブルーノート?取られちゃわないように気をつけなさい。きっと凄く後悔するわよ。」


「すげぇ……。あのシンディさんがべた褒めなんて珍しい。よっぽど気に入られたなあおい。」


「素直に嬉しいけど……恥ずかしいね。」


「まぁゆっくりしてってねブルーノートもあおいちゃんも。うちの人にもあなたが来てるって言っとくわ。」


「さんきゅシンディさん。」


「ね?シンディさんの髪ってすごい綺麗だね。プラチナブロンド? あたしもあんなカッコいい女のひとになりたいなぁ。」


「なれるさ。シンディさんの太鼓判貰ってんだぜ?あのひとの目は絶対だからな。なんせダイナーやる前は、ハリウッドセレブに引っ張りダコのスタイリストだったんだから。」


「えぇぇぇぇえ!凄い‼ そんな凄いひとだったの?! 」


「だからこの店にもよく逢いに来るんだよ。ハリウッド女優やアーティストたちが。……内緒だぜ?」


「……言わない言わない‼ えー。カッコいいなぁ。

あたしね。家政科行きたいのは、実は将来ファッション関係の仕事がしたいからなんだ。今日着てるようなゴシックパンクとか、ゴスロリとか、こんな服をあたしがデザインして作りたいんだ。」


「へぇ。いいじゃん。似合うよあおい。お前こまめだし世話好きだし。

あとでシンディさんにいろいろ紹介してもらおうぜ? あのひとなら芸能界にたくさんのバイパス持ってるから。」


「それすごい嬉しい‼ そーとありがとね。連れてきてくれて。ほんとに嬉しいよ。」


「良かった。いい誕生日になりそうだ。」


よろこんでくれて良かった。


でも、

あおいがもしもシンディさんみたいになって、色んなものを見聞きして大きくなって、ちゃんと自分の価値を見つけた時に、あおいの隣に俺の場所はちゃんとあるのかな?


…まぁなくたっていいや。

あおいが笑っていてくれるなら、それが一番嬉しい。



****************




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