第2話 Introduction.─in the Blue Note─



18時にもなるとスーパーは戦場の様だ。

とりあえず、フードコートのテーブルに向かい今日のあがりを集計しなくちゃ。

それからの晩メシのメニュー決めだ。


「おいあおい。キンチャク出しな。集計すんぞ。」


「はいはい。今日はけっこう重いね。

かなりいってるんじゃない?」


ジャラリとテーブルに置かれたキンチャクには、半分くらい入ってるのが見てとれた。

二人で半分こして数えていく。


「おぉ!一万四千五百円もあった!」


「あたしの方は……きゃっ!一万八千二十円!三万超えよ?三万!すごーい!」


「どんなもんだあおい!たったの一時間弱で三万超えだぜ?! 時給三万って凄くないか?新記録だぜ!」


「ほんとすごーい!そーとと居たらごはんに困らないね!」


「おぅよ!お前もおっちゃんもおばちゃんもちゃんと俺が楽させてやるから心配すんな!」


「……ばっ バカそーと!そんなことこんなとこで大声で言うなっ!……バカ…。」


「バカバカ言うな!なんで恥ずかしがんだよ?お前。顔真っ赤だぞ?おかしなヤツだなー。」


なぜだか真っ赤なあおいがキョロキョロと周りを気にしてやがる。いーじゃねーか人目なんて。ほんとの事言って何が悪い?


「知りません‼ 早く行くよ!買い物!」


「あぁぁわかったよ。今夜はすき焼きしよーぜ?お前も今日はうちで食べてけ。お前んちの晩メシは明日朝俺が食べに行くからさ。」


「うん。じゃぁ都ちゃんに電話しとくね。どーせ勇二くんも今日は遅くなるって言ってたから。あたしも居ないなら、都ちゃんもゆっくり出来るんじゃない?」


「えっ。おっちゃん遅いの?おばちゃんさびしいじゃんよ。うちに呼んであげよ?」


「もぅ。そーとはほんと都ちゃん好きだよねー。都ちゃんも喜ぶよ。」


「当たり前だ。おばちゃんは俺の理想のひとなんだから。さ。肉買いに行くぜ!いい肉。うまい肉。」


「………変なとこにライバル居るんだよね…あたし…。」


「は?何か言ったか?」


「知りません‼ はい!行くよ!」


強引に腕を組まれ引きずられて精肉コーナーで肉吟味。

あおいがドン引きする中、5Aの神戸牛買っちゃった。グラム900えん。た たまらん。

あとは野菜シラタキその他もろもろ。

一万五千は超えてしまったな。まぁいいか。 とりあえずスーパーをあとにする。


「もぅ良いでしょ。帰ろ。そーと。」


急かすあおいの自転車に買い物袋を放り込んで


「ごめんあおい。先に帰ってすき焼き作ってて。俺、ちょっと寄るとこあるからさ。」


「ん?いいけど。どこ行くの?」


「えー。ちょいとヤボ用。すぐ帰るからさ。」


「ん。わかった。終わったら真っ直ぐ帰ってね。」


「さんきゅー。行ってくる。」


あおいと分かれて、俺は急いで夜の街をかっ飛ばした。



****************



「ただいまー。」


我が家は表がお好み焼き屋なので裏口が通用玄関だ。

ただいま絶賛営業中。一応20時までは開けてるので、会社帰りの常連さんがわりと来てくれる。

母ちゃんの方針で、がっつりと呑むお客さんはお断りにしてるので、置いてあるのはビールとかチューハイだけ。純粋にお好み焼き屋を営んでいる。


「あら蒼音。おかえり。遅かったのね。」


「おばちゃん!来てくれたんだ。メシは?」


「葵が作ってるみたい。あんだけ張り切ってたら、私は出る幕ないわ。

ね?何かあったの?葵と。」


「へっ?まっ まだなんもしてないぜ?」


「怪しいなぁ…。…あんたその包み………。ほーぅ。な~るほど~。今から渡すのか~。」


「お おばちゃん言わないでよ?! びっくりさせよーと思ってんだからさ!」


「はいはい。…蒼音はいい子だね…。ちゃんと覚えててくれてんだ。」


「ったりめーだろ。あいつは俺の大切な家族なんだから。」


「あら。家族。

家族でいいんだ~?! へ~ぇ。家族ね~。」


「な な 何だよおばちゃん。なんか怖ぇよ。」


「私は蒼音が葵貰ってくれたらなーんにも心配ないんだけどなー? ね。蒼音? 葵の処女貰ってよ?」


「───!? ば ば ば バカ言うなよおばちゃん!なんで お 俺が?!」


「ふ~ん。蒼音。葵のこと嫌なんだ?」


「なっ!好きだよ‼ えっ?! わっ?! ……い 嫌じゃないって意味だよ‼」


「じゃぁ貰って♪お願いね。

あ~。おばちゃん肩の荷おりたわ~。葵~‼蒼音がね~!」


「やっ やめて~おばちゃん!?」


「んー?どうしたの都ちゃん?

……あらそーと。おかえり。…どうしたの?こんなとこで楽しそうに。真っ赤になっちゃって…。」


「楽しかねーよ! おばちゃんにイジメられてたんだよ!」


「ふーん。……何持ってんの?」


「──?! な なんでもねーよ‼

ちょっと部屋で着替えて来る!」


はー。顔熱い。恥ずかしー。

おばちゃん超怖ぇ。ヤバかったー。バレるとこだった。もう。


二階にあがってジャージに着替える。

気づかれたかな?とりあえずベッドの下に隠しとこう。


「そーと?ごはんするー?先にお風呂入ってくるー?ねー?」


階下からあおいが呼んでる。

なんだありゃ。世話女房か。


「いや!メシにするー!今降りてくよー。」



***************




「おいしーい!蒼音。葵。ありがとね。

ほら。都も食べて食べて‼」


母ちゃんも仕事終わったので、やっと落ち着いて4人ですき焼きつついてる。

母ちゃん嬉しそうだ。良かった。


「でも蒼音。今日はたくさん稼げたんだね? すごいじゃない三万なんて。あの人も昔からそんなだったわー。ほんとそっくりだよ。ね。都?」


「そうだったね。あいつ。

いつでもどこでも歌い始めて、いつでも人だかり作ってお巡りさんに怒られてたな。ふふふ。でも。カッコ良かったよね?だからあの頃は千冬も私もぞっこんだった。ね?」


「懐かしいなぁ…。物心ついた時にはもうギター持ってた。あれいつだっけ?都に告ったのって?」


「あー。高2ん時だねー。

突然私の教室に押しかけて来て、歌い始めるの。なーんかくさいラブソング。ふふふ。でも、あいつが歌うと最後までみんな黙って聴いちゃうんだよね。本当に、目を奪われるの。」


「えっ?! おじちゃん都ちゃんに告ったの?! 初耳よ?!」


「ふふ。私は当時モテモテだったのだー。

でも、振っちゃった。

私はもぅ他にもっともっと好きなひとが居たからね。 」


「へぇぇ。おばちゃんに振られたらショック過ぎて寝込んじゃうぜ。俺なら。」


「寝込んでたわよ?あなたの父ちゃん。

分かりやすいひとなんだから。

やっぱり似てるわね~蒼音。」


「も もぅ!おばちゃんあんまイジメんなよ!」


「んで、あんな素敵なおじちゃんを振っちゃうくらい好きだったひとって、誰だったの?私も知ってる?」


「葵もよーく知ってるわよ。都はほんと、小学2年からずっとずーっとそのひとの事が好きだったんだから。」


おばちゃん照れてる。やっぱり綺麗だなぁ。


「誰だれ?都ちゃんの初恋聞きたい‼」


「…勇二くんよ。私は初恋を成就させたのだー!ふっふっふ。ぶいっ!」


「えーっ!都ちゃんカッコいいー!えー。いいなー。」


「葵も頑張りな。あんたは都の血をちゃんと受け継いでるよ。都に似て出るとこちゃんと出て、こんな綺麗に育ちやがってまぁぁ…。

蒼音の童貞貰ってやってよね?あんたにならおばちゃんも安心してやれる‼ ほら!持ってけ‼」


「な な な 何言っちゃってんだよ母ちゃん?! 」


「もぉぉ!おばちゃん?! あたしは!……あたしは……もぉぉ!」


「あら。真っ赤になっちゃって。なんだ。蒼音のことそんなに嫌いなのね。おばちゃん残念だわ。ねぇ?都?」


「いやっ! 好きなの‼

えっ?! ちがっ?!… 違……わないけど……そんな意味じゃなく…☆%¢$&@…。」


「あははははは。葵?あんた。さっきの蒼音と同じ反応してるよ?ふふふ。楽しいねー。」


「ねー。都も相変わらずイジメっこだからなぁ。」


この二人。ほんとに親なのか?

鬼だ。鬼。


「まぁでも蒼音。

あんたがおばちゃんの息子だってのは変わんないよ?

たとえこの先あんたと葵が別々に進んだとしても。あんたはおばちゃんの息子だ。それだけは絶対に譲らない。」


「そうよ。そして葵は死んでも私の娘だからね?

本当に、あんたたち二人とも愛してる。」


「「……はい。」」


「さーて。二人を美味しく肴に出来たから私は満腹だ。そろそろ勇二くんも帰ってくる頃だし、あっち帰るよ。葵はこっち泊まってきな。蒼音が何やら企んでたみたいだしねー。」


「おばちゃん?! もぅ!」


「あらあら蒼音?珍しく焦っちゃってどうしたの?なんか企んでんなら、私たち年寄りは退散しときましょうかねー。都?今日は泊めて?」


「OK♪久しぶりに3人で呑もっか?」


「呑も呑もー!

んじゃぁ葵?後片付けもよろしくー!」



俺とあおいが呆然としてる中、

本当にバタバタと退散してしまった。

なんだこれは?どんな保護者だよ?ったく。


****************





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