『爆風ニ掃滅サレタ光タチノ遺言』第14回入選作
光が永眠したのはおよそ午前零時であった。
私は其の日の事を今でも闇の内に想起できる。月は暗雲に蝕され部屋の蛍光灯は不規則な点滅の末に消え家族で肩を寄せ合い蝋燭の明かりを頼りに点けたラジオの声に耳を澄ませていた。
――中東での大陸間弾道ミサイルの暴発を以って勃発した戦争は十九日午後十一時第三次世界大戦と正式に命名されました。各大陸からの情報は寡少な上に事実確認が取れない状況です。気象庁によれば核爆発による暗雲は今後少なくとも二百年は……。
「明日学校あるかな」と弟が呟く。私は使い捨てライターでゴールディングの小説を燃やし灰皿に放り入れた。「ノーベル賞作家の小説も数分間の光にしかならないんだよな」私は早朝の眩しい光を思い出し最高の芸術はいつも朝に始まるのだと思った。
父は無言を貫き母は哀哭に徹した。
――大戦勃発から二日が経ちました。
午前零時の時報の後DJが云い何時も通りそして最後のヒットチャートを放送し始めた。「こうやって肩を寄せ合うのは大地震以来だな。あの時もお前が一番怖がってたよな」父が私に向かって苦笑する。「一番っていったらお父さんじゃないの」母が泣きながら笑う。「僕が一番怖かったよ」弟が妙な意地を張る。「あの時は本当に世界が終わると思ったな」私は声を上げて笑いこの微かな光で照らされた三つの笑顔を最後まで忘れてはならないと胸に誓った。
残された灯が消えるまで皆で笑い合った。心の中の光は誰にも消されないと私は深く思った。
――今週の第七位『光の季節』です。
ラジオのDJだけがさびしげに泣いていた。
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