第91話 【連載トータル100回到達記念】 1981年 映画「セーラー服と機関銃」


連載100回目にしてメディアミックスの最頂点である映画「セーラー服と機関銃」を。ここを通過しなければ、メディアの梯子かけや、アイドル映画の進化は無かった筈です。



□セーラー服と機関銃/東映配給

□監督:相米慎二

□脚本:田中陽造

□原作:赤川次郎『セーラー服と機関銃』

□製作 角川春樹/多賀英典/伊地智啓/山本勉

□出演者:薬師丸ひろ子/渡瀬恒彦/風祭ゆき/大門正明/柄本明/北村和夫/寺田農/三國連太郎

□音楽:星勝

□撮影:仙元誠三

□製作会社:角川春樹事務所/キティ・フィルム

□公開:1981年12月19日

□製作費:1億5000万円

□興行収入:47億円

□配給収入:23億円



連載100回目ならば角川のあの金字塔映画かなと思ってましたが、BSの正月映画特集が「セーラー服と機関銃」を拾ってくれたので、これかなと変更。そんな軽い気持ちで軽く視聴してたら、これは…と正座せざる得ません。

ネタバレは映画封切りから、もう40年は経ったのでもういいかなと思います。とは言え適度に。


年代的には学生時代の初視聴で、ああ何か違うなの違和感が有りました。確かにフィクションだけどどうしてもヤクザ世界が生々しくて、確かに引いたかなです。

当時は原田知世一択でしたので、そこまで薬師丸ひろ子にのめりこまなかったですけど。見る度にエンドロールあたりの大人の入り口の振る舞いは、それでも皆々を振り向かせる事が出来る素養は発揮されてます。


今見ると、昭和のリアルヤクザ世界に本当に女子高生放り込んで、どうするのです。夢も何もなくドギツすぎます。

撮影当時の薬師丸ひろ子は女子高生で、映画とは言え、今の倫理から行くと常に虐待しかなく2度と再映画化は出来ないと思います。いや振り切っても、ちょっとしたアングルの配置で、たけしのお笑いウルトラクイズになりかねないので危険です。


ここですよね。赤川次郎原作『セーラー服と機関銃』として、今作の映画1981年版/映画2016年版/ドラマ1982年版/ドラマ2006年版の4つが制作されてますけど、映画1981年版の相米慎二監督作品には到底敵いません。


いや映画1981年版は役者全員の目力が半端ではなく、押し並べて食いつきが良すぎます。その決定的で名シーンと思われるのが、目高組一向が星泉を高校迄迎えに来るのですが、皆思い思いに考えて動いて、星泉どうするんだよがテレビモニターでも伝わって来ます。ここ、昨今の映像では一様に心配しての演出で閉じられるところですが、流石は相米慎二監督の演出ここに有りと澄み渡ります。


やがて時代のセンセーションとしての「セーラー服と機関銃」は、昭和の興行収入として47億円を弾き出したので、時代の変背を経て若き女優としての登竜門になるかの動きは有ります。

昭和時には原田知世、平成では長澤まさみと橋本環奈が送り出されましたけど…意図としてはやはり成功していると思います。


そうとは言え相米慎二監督作品では、アイドル映画を大幅に超えて、日本のフィルムノワールとして覚醒剤を巡るサスペンスが重厚に描かれています。これを超えることはやはり難しいです。

昭和のあの時代は、どうしてもの覚醒剤が蔓延が社会問題になっており、これを現在にそのままキービジュアルとして展開すると、よりカジュアルな印象を与えかねないので、やや甘噛み要素の強いフィクションに落ち着かせるしか有りません。そのバランサーが薬師丸ひろ子とは今のキャスティングでは信じ難いものです。

そして「セーラー服と機関銃」という新人女優のファーマットメディアは出来たものの、先々の「セーラー服と機関銃」の制作は社会的影響を考慮しないと、この先の本当取り扱いは難しいと思います。



何よりは映画「セーラー服と機関銃」によって、アイドル映画では無い、新人女優が看板となれる映画群が制作出来た事は喜ばしいと思います。それは日本で出来そうで出来なかったハリウッドニュースターシステムが思わぬ形で結びついたと思います。

映画1981年版の大成功で、その後ジャンル薬師丸ひろ子が確立出来たのも大きいです。そこから分岐してジャンル原田知世が生まれ、ジャンル宮沢りえも生まれ、より作品への一体感が生まれファンでなくても共感出来た事は、娯楽としての日本映画の突き抜けるべき壁を打ち破ったと思います。


とは言え、今では想像出来ないでしょうけど、当時は2本立ての映画が多く、如何にバーター併映の戦略も有りました。「セーラー服と機関銃」も然りの併映で、この後も角川映画の幾つかは二本立てが続きます。記憶の中では1988年映画「ぼくらの七日間戦争」に、1991年映画「幕末純情伝」あたりが最後で、ここから若手俳優映画でも邦画の大ジャンルに漸く認められ組み込まれては単作上映が普遍化して、映画界に十分過ぎる貢献をしたと思います。



あとはメディアミックスとして重要な事も、映画「セーラー服と機関銃」で起こりました。主演薬師丸ひろ子による楽曲「セーラー服と機関銃 」が大ヒットし、諸説あれど100万枚以上を売上ました。ここは知れば知る程、作詞作曲の来生姉弟とのやり取りが長くなりますが、結果は大成功です。


その大成功の要因は何よりもの、薬師丸ひろ子そのものの歌唱です。聖歌隊の様な歌唱ですが、その声質は聞けば聞くほど唸ります。海外で録音したかの様なビンテージコンプレッサーの掛かった様なボーカルが、何と彼女の体内から自然に歌われます。


私はその神秘性的な声故に、可能な限り社会人になった時に彼女のCDを一通り集めます。どれも傑作ですが選ぶのなら、切実に届くアルバム「Heart's Delivery」でしょうか。今迄セレクトされた事がないのが残念ですけど、一言も二言でも語り尽くせないです。


歌手薬師丸ひろ子としては、オリジナルアルバム10枚を出した大ベテランですけど、正当な評価を貰う迄に長い時間が掛かっています。その契機は、まあ朝ドラで際立ったセンセーションを起こした「あまちゃん」の「潮騒のメモリー」の歌唱です。もはや彼女の持ち歌で、初めて、いややっと思い出した方が「あまちゃん」へと更に没入しました。生歌でここまで機材の性能を凌駕する声色を出せるのは、現代でもほぼいません。再々評価のタイミングは、Jシティポップ再評価が終わりそうな時にクローズアップされると思います。


巡り合わせと言うべきか、キャラクラー映画を切り開いた薬師丸ひろ子が、キャラクタードラマを切り開いた「あまちゃん」にも関わった事はフロックにしては、然るべきして起こった現象と思います。薬師丸ひろ子は次は何を起こしてくれるのでしょうか。



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