第83話 2000年 小説「希望の国のエクソダス/村上龍」 

00年代から小説を読む機会は10年に1度の集中読みに変わって行きます。それは今こそビジネス書読まねばと、話題作と傑作は得てして剥離して行く傾向でもあるので。そんな事やってるから出版不況が…は。それは時代が思った以上に減速しているからで、夢を与えて貰うものに投資し難い面も大いにあると思います。


その中で執筆当時からずっと気になっていた、村上龍の「希望の国のエクソダス」ですけど、やっと読めました。この20年一体何してたのになりますけど、それは本屋に置いてないし、amazonでもよく分からない取り扱いで、ずっと何かなでした。


それが、あの一般的なブックオフにありました。正直普通の本屋よりかなりの取り扱い多いのでたじろぎます。あれもそれもあるのですから。正直高をくくっていました、単行本の棚に「希望の国のエクソダス」が無いのでそうだろうから、ついでにハードカバーの方も探索したら有るのです、初版本そのまま価格200円で。まあ眩暈しながら買いました。


ハードカバーは今の時代では無いなと思われますけど、単行本より行間とフォントも大きいのでさくさく読めます、年相応には大変有り難い文化です。そこでふと、カクヨムのweb版もハードカバーテイストなのかと深く感じ入りました。カクヨムの初期設計は間違って無いと思います。



「希望の国のエクソダス」のお話は。迫る金融危機で閉塞した日本そのものに、パキスタンの地雷処理をする16歳の日本人に触発されて、約80万人の中学生達が実力行使しながら学校を捨て、自ら希望を見出そうかの近未来物語。


ここからはネタバレです。











想定物語ですが、「愛と幻想のファシズム」で半ば実現している村上龍の筆致は健在です。ただ読む程に凄い違和感が有るのです。タリバンの少年兵は出て来るのに、何故か時系列上に911が出て来ない。これは何故かとWikipedia見てもピンと来なくて、あとがきをパラパラと捲ったら、2000年7月のタイムスタンプが押されてるので、ああやや聞いた近未来物語なのかと得心しました。


物語は転げ落ちようかの日本国が渦中にいます。社会がやさぐれれば学校もは、過去何度も経験してる事なので有り得るきっかけです。そこから約80万人の中学生達が学校に行かず起業する展開は、当時のITバブルの質感があれば十分有り得た事でしょう。


ただ現実は911が起こり、激しい民衆の憤怒があれば、国連素通りで多国籍軍でアフガニスタンに兵隊を送れる大人の恐ろしさを見せます。多分執筆中に911があったら、恐れて何も起こりえなっかった結末になった事でしょう。


その結末も、NHK中継を容易くハッキング出来る技術を持つ、やや成長した中学生達が北海道の廃れた街を市に迄格上げしては、実質独立国の様相を見せます。そこには管理社会的認証と電子通貨と風力発電で先進的な姿を見せます。


ただそれは本当に、中学生当時の望んだ何かしらの希望の国かどうかは、やはり破綻しています。そのシステムは大人の世界を踏襲してITコンサルがスマートにした行政特区そのものです。それも独自の資金力があればこそなのですけど、その資金確保に至る過程も大人の相場の逃げ切りで成したものです。


いや実質希望の国が完成したのならば、彼らの大勝利でしょう。ただそこは村上龍がそっと差し込んでいます。首謀チームの仲間がアルコール依存症から病で死に至る事で、希望の国とは結局大人が考え付く何れかで、ここ迄何を失って何を成し得たかのさぞやの落胆は察して止まないです。


リーダーたるポンちゃんは国会いや世界にこう響かせています。「この国には何でもある。だが希望だけが無い。」。いやひょっとしたらその最先端の技術の先にブレイクスルーと論理の飛躍があるかもしれません。でもそれに関しては、ITバブルで得たものは大企業体へのオーサライズのみで、ずっと失われた年代のままになっています。希望の国も、やはり廃れてしまう公算が大きいです。



でもと。このコロナ禍だから「希望の国のエクソダス」は再考しなくては行けません。ワクチン接種は原則18歳以上からで有り、ノンワクチンでほぼ無理強いで登校させている状況は、「希望の国のエクソダス」の通り不登校の拒絶を幾らでも発揮出来るはずです。ただ、その兆候が全く見られない。


それも911以降の目に見える紛争という大人の恐怖がむざむざと見てきたからでしょう。幾らでも力づくで排除出来るのであれば、出ばなを呆気なく挫かれます。ここで現代でリーダーたるポンちゃんがいれば何かが変わるかもしれません。厚労省絡みの委員会で私に発言させて下さいの未成年達が現れて欲しいは大人の願望でしょうか。いや、ここの手札をあざとく使い倒す大人もいるので気を付けましょうも添えておきます。


総じて「希望の国のエクソダス」は時代を超えて考えさせられます。

ただ…金髪のポンちゃんが、この現代故に、どうしてもカズレーザーの面差しとトーンで、どう覆しても結果カズレーザーになってしまうのが、かなり苦いものです。





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