駄女神VS女神

 かつて消えたはずの敵女神と駄女神チームの戦いが始まる。

 鐘の音をゴング代わりにし、両者一斉に動き出す。


「先手必勝! 活殺女神螺旋!!」


 サファイアのいつもの必殺ビームだ。

 だがリュカの拳に触れた瞬間消え失せる。


「あれは!?」


「カレンの無効化? どうしてあんたが!」


『今の駄女神連合は成長している。一度倒した敵をただ倒しても無意味。だからあなた達の加護を与えた。これなら最強格のヘスティアが相手でも戦える。可能性を見せて』


「余計なことしないで欲しいデス!」


 これはちょっとまずいな。

 こちらはいつもの三人にクラリスと美由希。

 ヘスティアにリーゼ。そしてリラスト。


「知らん女神が混じっているな」


 敵はリュカ・アンリ・マリア・クローディア。

 そして謎の女神が三人。人数合わせのつもりかね。


「コピーした。まず駄女神のコピー。三人全員の加護と特性を混ぜた」


 青い炎を纏った女神だ。超高温の体と遠近両方に長けたタイプ。

 太陽の力をフル可動させたローズに負けていない。


「ヘスティアコピー。全能力をシンプルに上げ続けた」


 こっちは赤い炎。こいつら三人共顔が同じだ。

 無効化と吸収能力に加え、格闘戦に優れたタイプか。

 全員戦闘できるのね。


「リーゼコピー。あらゆる加護を生み出し、ミックスして繰り出す技工派」


 こいつが緑の炎。厄介なのはこいつかな。


「レッド、ブルー、グリーン。やれ」


 名前もうちょい捻ろうって。


「よく文句も言わず戦ってんなそいつら」


『会話能力はないよ。ただ敵を殲滅するために作った』


 横着さんだな。できるかぎり紛れを減らしたいのかも。


「何が来ても倒せばいいだけだ」


「そうだね。これでも上位女神なんだよ」


「知っているわ。だから対策を取らせてもらう」


 ブルーがカレンに取り付いて接近戦へ持ち込んでいる。


「まずカレンの無効化を無効化で打ち消す」


 三人の特技ってことは無効化も使えるか。さてどうするか。


「そこへグリーンによる加護の集中砲火か」


 超能力と各種魔術に呪いまで、徹底的に連射してやがる。


「させません!!」


 同種の能力乱れ打ちで迎え撃つリーゼ。

 攻撃の途中で防壁と無効化の加護も合わせて作り出している。


「無駄だ!」


 全員の中で最高速を誇るヘスティアがカットに入るが、完全にレッドに阻まれる。

 相手に合わせて全能力で上回る加護だな。前に使っているのを見た。


「加護ごときで私に勝つ気かい? 舐められたものだね」


「だが足止めはできるだろう? 今のうちに他の駄女神をぶっ殺すんだよ!!」


「そうはさせないデス!」


 マリアVS美由希は美由希が少し不利だ。

 美由希の戦闘スタイルは魔力を循環させ、螺旋のように練って繰り出される近接攻撃。

 縦横無尽に飛び回る無数の大剣と、マリア本人の巨体が相まって、近づく前に迎撃されてしまう。


「お前なんかなあ! 勇者がいなけりゃ死んでたんだよ!!」


「あの頃とは違うのデス! お前くらい倒せないワタシじゃないデス!!」


 大剣を足場にし、一撃入れる寸前に止められる。

 剣がそのまま盾の役割を果たしているせいだ。

 部屋全体に降り注ぐ剣の雨が、女神達を協力させないように仕切っていく。


「これは厄介ですわね」


「バラバラに戦っていても勝機は薄いか」


「だからってチームプレイを許すとでも?」


 大剣の隙間を縫うように、女神五人が一瞬でカレンとクラリスに詰め寄る。


「借りは返すよクラリス」


「邪魔をするなリュカ!」


「おやおや、私ばかり見ていていいのかな?」


 カレンを庇いながら闘うクラリスだが、徐々に押され始める。


「今助けるわ!」


「マリア、勝負はお預けデス!」


 仲間の元へ走る駄女神チーム。

 だが剣の間を抜けると、また元の場所へ戻されてしまう。


「そんなっ!?」


「時空間を操作しているな」


 ジンが気づいたか。どうも相当に優秀な参謀が敵にいるようだ。


「ああ、剣の間を時空の門にしている。くぐると他の剣の門へいく迷宮みたいな仕組みだな」


 かなり対策されている。こいつは厳しいかもな。


「爆砕十字連撃!!」


 クラリスの体に十字の拳圧を飛ばし、触れた箇所を爆破する。

 前に見たリュカの技だな。


「うがあぁぁ!?」


「クラリス!!」


「くっ、来るなカレン!!」


「いいえ、クラリスの元へ送って差し上げます」


 アンリとリュカのダブルキックにより、カレンのもとまで吹き飛ばされる。


「うあぅ!?」


「クラリス!」


 飛んできたクラリスを受け止めてしまう。

 カレンの優しさが裏目に出た。これで二人は無防備だ。


「させません!!」


 リーゼが全員をテレポートさせる。

 即席で強化魔法まで欠けて送り出し、なんとか二人を守ることに成功。

 だが敵はそこまで考えている。


「マリア」


「わかってんだよ! これでいいんだろうが!!」


 大剣が刺さった場所を上から見てみればわかる。

 魔法陣の形になっているのだ。足止めと電撃のやつかな。

 それを合図に敵全員が空へ飛ぶ。


「くらってくたばりな! 勇魔救神拳! 死剣抜刀!!」


 大剣が輝き、俺の作った技がアレンジされて部屋に満ちていく。

 あらゆる状態異常の乱れ打ちだ。

 異常耐性はつけているだろうが、それをすり抜けて女神を襲う。


「しまっ……うああああぁぁぁ!!」


「きゃあぁぁぁ!!」


「今だ! 駄女神共を血祭りにあげるよ!!」


 劣勢は誰に目にも明らかだ。

 ここまでは敵の作戦勝ちといったところ。

 みんなボロボロになりつつあった。


「くだらん。あの程度で師匠の技を使えた気でいるとは」


「まあ頑張ったな。真似るにしてもマシな方じゃないか?」


「ならば余計駄女神どもに勝ち目はないぞ?」


「問題ないさ。勝利の鍵は、まだ残っている」


 当然だが駄女神連合も作戦はあるだろう。

 各々が最強の一撃のために魔力を練り始めた。


「そんな大振りの一撃、当たってやると思うのかしら?」


「やらせはせんよ!」


 集団で固まり、なんとか敵連合の攻撃を防御しつつ魔力を練り続けている。

 当たれば必殺に近い一撃が出せるだろう。


「準備はいいですか? 飛んだ瞬間へ飛ばします」


「いいわ。いつでもいける」


「生きて会いましょう」


 リラストから眩く温かい光の奔流が生まれ、全員を包み込む。


「やつを止めろ!!」


「時よ……どうかみんなを救える瞬間まで、希望ある未来を紡げる場所まで戻して!!」


 光が消え、敵が空へ飛んだ瞬間へと部屋の時間が遡った。

 そして油断している敵の目の前に、突然全力の攻撃がぶつかるわけだ。


「この力はリラスト!? バカな! やつは能力を使えば死ぬはずだろう!!」


「死にませんよ。みんなで死なずに進むって、決めたんです。そのために鍛えたんです!!」


「修行? それだけで、それだけで死の運命から逃れられるとでもいうのか!!」


「できますよ。私はもう、勇者の生徒です!!」


 完全なる意識外からの攻撃だ。状況を認識する頃にはもう遅い。


「我が武の全てを、この一撃にかける!!」


「消えなさい、クローディア!!」


 クラリスの手刀とリーゼの魔力波により、リュカとクローディアが脱落。


「一度ならず二度までもオオォォォ!!」


「女神による支配が……おのれリーゼエエエェェェ!!」


「マリア、貴女は罪のない人々を傷つけすぎた。その報い、ここで受けるがいいデス!!」


「いきますわ、雷花烈閃脚!!」


 美由希の螺旋拳と、カレンのケリュケイオンを使った電撃蹴りがヒット。

 マリアとアンリの体に大穴が開く。


「女神は人ともに歩み、世界を見守るものですわ」


「好き放題いじくっていい存在ではないのデス」


「もっと、もっと殺して遊びたかったのに……」


「クソ! こんな結末認めるか!! ルビィ! もう一回だ! さっさと蘇生しやがれ! うああああぁぁぁぁ!!」


『もうチャンスなんてないよ』


 無慈悲にも爆散する両者。

 これであとは三色のコピーのみだが。


「お前は、勇魔救神拳を名乗るお前らだけは、ここで確実に始末する」


 後先考えないトップスピードにより、一気にヘスティアが駆ける。


「もうそれ以上、先生の技を汚すんじゃない」


 レッドの腹にヘスティアの腕が深々と突き刺さっている。

 真紅の炎が消え、灰すら残らず消し飛んでいった。

 ヘスティアが全力を拳に込めれば大抵こうなる。


「まあそんなものでしょう。こちらも終わらせます」


 ブルーとローズの戦いも決着が付きそうだ。


「一般的には、青い炎は赤い炎より強いのでしょう。ですが私の炎は太陽の炎。名の通り真っ赤なバラのような真紅に煌めく炎です」


 ブルーの右拳を避けて、ローズの両手に圧縮された二つの太陽がぶつかり大爆発を起こす。


「これが新技。フレイムブレイカー・ノヴァ」


 熱が肉体と魂を同時に焼く。

 触れる全てを溶解させて、ブルーの炎を消していった。


「貴女の炎は冷たいだけ。それでは勝てませんよ」


「あんたらの進軍もここまでよ! 超必殺・女神魂葬撃!!」


 サファイアの膨大なパワーを制御無しで全力投入して放つ。

 ただそれだけの絶大な魔力の奔流。

 それは誰よりも魔力量と潜在能力のあるアファイアだからこそできる奥義だ。


「無駄な抵抗してくれるわね」


 グリーンは加護を大量に持っている。

 打ち消し、相殺し、同質のものを撃ち出すが、それでも必殺技の威力は衰えない。


「加護は使い方次第。あんたみたいに雑になんでも混ぜりゃいいってもんじゃないのよ。純粋な力は……そんなものを超えていく!」


 二つの波動はぶつかり合い、やがて出力の差からグリーンを飲み込んでいった。


「は-……つっかれた……飛ばしすぎたわ」


「流石に限界だね」


 試合終了を告げるように鐘が鳴る。

 全員消耗しているな。これは少し休ませる必要がありそうだ。


『レッド、ブルー、グリーンの性能テスト完了。実戦に投入できると判断。本格的な参戦を開始』


「なんだと?」


 扉の奥からコピー女神が大量に歩いてくる。

 そうかコピーなんていくらでもいるのか。


「因縁のある女神をカモフラージュに使い、本質はコピー女神の実戦テストか」


「うわ……それはずるいんじゃないかしら」


『足りない部分を補うため、融合を許可』


 そのどれもが強大な魔力を秘めていて、融合することによりパワーを増していく。

 よりによって攻撃の構えが勇魔救神拳だ。タチ悪いなおい。


『さあ、女神の力を見せて。勇魔救神拳に勝てる?』


「これは……厳しいわよ」


「無理ゲーにもほどがありますね」


「それでも、やるしかないのデス……」


 満身創痍で立ち上がり、残された僅かな魔力を振り絞る。


『攻撃開始』


 無常にも告げられる攻撃の合図。

 そしておびただしい量の魔力が女神連合へと叩きつけられる。


「うあああぁぁぁ!!」


「くっ……がはあ!?」


 全員壁に叩きつけられ、地に伏していく。

 まずいな。全霊の一撃を放った以上、すぐに復活はできないだろう。


「どうする? 俺様も行くか?」


『これは女神への試練。女神以外の戦闘は許可できない。あくまでも女神の可能性を調べる試練。コピーを量産し、個性など無くとも世界さえ平和にできればいいという考えを否定することに繋がらない』


「やるしかないなら……勝つまでやればいいだけよ!!」


「絶対に負けられないのですわ」


「ああ、ここでみっともないところは見せられないさ」


 直感で避け、障壁を張ってギリギリの所で耐えたサファイア。

 身体能力でなんとか命を繋ぎ止めているヘスティア。

 だがはっきり言って無謀だ。あまりにも数が多すぎる。


「仕方がありません。みなさんのパワーをサファイアとヘスティアに与えるのです」


「それしかないデスね」


「わたくしの力を、残りすべて託します。お二人ならやれますわ」


 自分を守る防壁すら最小にして、なんとか二人に戦ってもらう。

 最善策に近いが、敵は接近戦もできる。


「これじゃキリがないわ!」


「これでも女神界最上位なんだけどねえ……自信がなくなるよまったく」


 数体だがコピーを倒し、反撃に出るも数で劣る。

 倒れている仲間を庇いつつでは全力も出せていない。


「サファイア、こうなったらこの世界が壊れるほどのパワーで、まとめてあいつらを消すしか無いよ」


「そうね。正直もう一匹も倒せそうにないけれど……やってやるわ」


 離れた位置にいるコピー集団が魔力を溜めていく。

 遠距離からの集中砲火には耐えられないと踏んだか。


「ルビィ、コピーが多すぎる。無限に出し続ければ最終的にはそりゃ勝てるだろ」


『コピーは百体までしか出していない。無限に続く戦いの中で、それでも勝てる存在が欲しい』


 説得も効かんか。どうするかね。乱入して潰すのは簡単だが。


「この程度、先生が出るまでもないさ」


「そうね……まあなんとかするわよ」


 もう一度必殺技の構えに入る二人。

 最初の勢いは影も形もない。


「サファイア、最後の最後の全力全開だ。この勝負は女神の可能性を見るもの。なら一匹でも多く倒し」


「女神の意地と希望ってやつを見せりゃいいのね」


「あいつら死ぬ気か。おいルビィ」


『勇者が助けてはいけない。つまりあなた無しでは世界は救えないということ。この勝負は女神以外の参戦を認めない』


「そう、女神ならいいのね?」


 どこからか声が響く。

 ここにいる誰かのものじゃない。

 けれど、その声はどこか懐かしくて。


「なかなか面白いことをしているわね」


 二人とコピーの間に舞い降りたのは、麦わら帽子と白いワンピースの女神。


「私も混ぜて貰おうかしら」


 その黒髪と、その声に覚えがあった。

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